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たまには


コーヒーばかり飲むから白いコップにうっすらと茶色のシミが付いた。

普段と変わらない日常のなかで積み重なる疲れのようにこびりついたその茶色は擦っただけでは簡単には落ちてやらないぞ、という気概を感じるほどに頑固だった。

たまにはお茶にしてみようか。

ゆっくりと温めたコーヒーカップにお湯を注ぐ。
茶色のラインにまでお湯を入れれば半透明な世界にうっすらとした茶色がみえるような気がした。

ティーパックを淹れてクルクル回すと沁みるでた緑に浸食されていく。半透明な薄緑の世界はどんどん滲み出した濁って緑についには見えなくなった。

カフェインに慣れた体にお茶が沁みる。
ふと窓際から漏れる日差しにとっくに朝になっていた事に気がついた。
眠気覚ましに飲み続けたコーヒーによって荒れた胃は熱めのお茶が喉を通り胃にたどり着くたびにじんわりとした痛みを告げる。

目に痛い光から逃れるように立ち上がってカーテンを閉めようとすると反射したガラスには目の下を茶隈に染めた不健康そうな顔が映り込んだ。
そこではじめて自分が疲れていた事を知る。


人は限界を超えると超えた事すらわからないらしい。カップに残ったお茶を勢いよく飲み干すと、しつこい程に忌々しい茶色が顔を出した。

はー。

胃の底の底から漏れ出たため息は地獄の底からのように重く響く。その響きは地獄の釜の蓋を開けて、ずっしりと肩にのしかかった。

疲れた。

真っ白なカップの中には目の下の隈と同じ色をしたしつこいまでの頑固な疲れ。

たまには何もかも忘れて寝てもいいんじゃないか。たまにはいいだろ、たまには。

全て放棄すると決めて終えば
あとはカップをハイターにつけて布団に戻った

3/5/2026, 1:03:01 PM