"そこ"へ踏み入ると世界が変わる
「或る晴れた 日の背の高い 建物の
傍で微かな 涼を求めん」
都会のビル群は賑やかでいて
どこか寂しげだ
空を仰げば隙間からのぞく綺麗な青
地元の田舎で見る空と同じはずの青
けれども何か違う
地元には陽光を遮る背の高い建物は
どこにも見当たらない
どこを歩いても"そこ"に辿り着けない
それ故に焼けてしまう友の肌が恋しい
あいつらは元気だろうか
俺は都会のビルに囲まれて
陽の光の当たらないような
薄暗い生活を送っている
今度帰ったらまたみんなで
あの頃を思い出して話をしよう
暑いって文句言いながら
陽炎の中で走り回ろう
「そうか、デートではあまり話せなかったと。」
うん
「っつーかさ、次の約束したなら元気だせっ。」
うん
「とにかく、気持ちを切り替えることがみそ。」
うん
ありがとう、でも今はそっとしておいて。
そういうと、君はいたずらに笑って見せた。
「何言ってんだよ。気づけよバカ」
──────────
いや、普通そこまで気づけないでしょ。
会話の頭で「そ」「っ」「と」してくれてても。
いや、気づくのか?気づけるのか?
いや、気づいたとしても、まさか会話の最後でも
「そ」「っ」「と」してくれてたなんて普通思わんな。
「じゃあね、おつかれさま〜!」
「うん、気をつけてね」
今日はここまでかと、心で呟く。
2人が降りるホームは反対方向だった。
冬休み中の部活終わりに、偶然君と駅まで一緒に帰ることになった。何の話をしていたのか、あまり思い出せないのが悔しい。ただ、楽しそうに話す君の声だけは今も鼓膜に響いている。
間もなく列車が入ってきます。危険ですので───
反対のホームにいる君は、友達の輪にすっかり溶け込んで、さっきまでの時間はまるで幻想だったかのように振る舞う。僕に見向きもしない君は僕をどう思っているのだろう。
さっき口にしたみかんの味が、まだほんのり舌の上を彷徨いている。2人の時間は確かにあったと言わんばかりに、中々残って消えない。小腹が空いたからと菓子パンを目当てに立ち寄った商業施設で、糖度13度と銘打たれたみかんの試食コーナーがあった。
君が興味を示してくれたおかげで、君と同じ瞬間に同じみかんを味わうことが出来た。糖度では語れない不思議な甘さが口に広がった。
やがて、君を連れ去る列車が目の前に現れ、君と僕を遮ってしまった。次会えるのはいつになるだろう。
この恋は終わらせたくないな、強くそう思った。
この恋に名前をつけるとするなら、「みかん」だ。
冬休みは嫌いだ。
12月24日 15:30
起立、気をつけ、さようなら
放課後を告げる号令とともに、教室内には解放的な空気が堰を切ったように流れ込んできた。それもそのはず。
「明日から何しよっかなー」
「俺は部活だ」
「てか国語の宿題多すぎない?」
「絶対正月太りしちゃう、今のうちに痩せなきゃ」
「てか明日クリスマスじゃん」
この時期になると、目の前のクリスマスと少し先に見える正月のことでみんな頭がいっぱいみたいだった。
でも自分は、冬休みが嫌いだ。
なんでってそりゃ、部活の冬練がキツいから。
目が覚めた。冬休み初日、朝早く部活に行く為だけに起きて、校舎内を延々と走り、時にはサーキットトレーニングをして、最後は部員全員で筋トレ。
これだから、冬休みは嫌いなんだ。
単調なメニューは飽きるし、外でノックを受けたい。
あっ──────
校舎内をランニングしてる途中、音楽室から合唱部の歌声が聞こえてきた。この声の中に あいつ も居るのかな。なんて考えると、少しペースが上がった。別に見られてるわけでもないのになんて健気なんだ。思春期の男なんてそんなものでしょう。
いつも通り部活を終え、玄関で靴を履き替えていると偶然にも あいつ に出くわした。自分も向こうもお互い友達を連れてはいなかった。内心の高揚感を悟られまいと平然とした態度を貫いて挨拶する。
「おつかれ」
「おつかれ〜!今日野球部も部活だったんだね〜」
「うん、マジで筋肉痛になる、てか──」
合唱部もまだ部活あるんだ、なんて言葉を遮ってきたのはあいつだった。
「駅まで1人?私は見ての通り1人」
冬休みは嫌い、だった。そのはずだった。
本当は、あいつになかなか会えなくなるのが嫌だった。
部活なんてむしろ、あいつに会えるチャンスでもあるから頑張れた。それでも会えないことが多かった。
だから、冬休みなんてなくていいのになって思ってた。
でも、今日は雪の上に2人の足跡が並んだ。
こんなことなら、ずっと冬休みでいいのにな。
随分と時間が経ってしまった。
人は出会って3ヶ月以内に付き合うのがいいだとかなんだとか聞いたことがある。
それで言うと、まぁ、
随分と時間が経ってしまった。
君と出会ってからもう半年以上を数える。僕は君が好きだ。でも、それは言えない。
この関係が変わるのも、終わるのも怖いんだ。
毎日同じ駅で降りて、君の家の近くまで一緒に歩いて帰る以上の幸せに、勇気を持って踏み込めないんだ。
雪のように白くて綺麗な君の横顔を見れることが僕にとっての幸せなんだ。だから、このままでいいと言い聞かせた。
代わりに、僕は雪が降るのを待つことにしたんだ。
雪が降れば、道が凍れば、転ばないようにいつもよりゆっくり歩けるじゃないか。転ばないように手を取り合う瞬間が来るかもしれないじゃないか。
まぁ、そんな淡い期待はさておいて。
このままじゃ君との思い出は何も残せない、でも雪道は一緒に歩いた記念を地面に刻み込めるじゃないか。
それがどれだけ一瞬の出来事でも、たまらなく嬉しい。
──────────
随分と時間が経ってしまった。
君は今、どうしているだろうか。
どんな顔で笑っているだろうか。
どんな人と出会ったのだろうか。
君の思い出の中に僕がいたとしても、きっと思い出すことはないだろう。それでも僕はきっとこれからも君を思い出す。
その時に、未練は決して抱えぬように
君への想いは断って仕舞った。