「じゃあね、おつかれさま〜!」
「うん、気をつけてね」
今日はここまでかと、心で呟く。
2人が降りるホームは反対方向だった。
冬休み中の部活終わりに、偶然君と駅まで一緒に帰ることになった。何の話をしていたのか、あまり思い出せないのが悔しい。ただ、楽しそうに話す君の声だけは今も鼓膜に響いている。
間もなく列車が入ってきます。危険ですので───
反対のホームにいる君は、友達の輪にすっかり溶け込んで、さっきまでの時間はまるで幻想だったかのように振る舞う。僕に見向きもしない君は僕をどう思っているのだろう。
さっき口にしたみかんの味が、まだほんのり舌の上を彷徨いている。2人の時間は確かにあったと言わんばかりに、中々残って消えない。小腹が空いたからと菓子パンを目当てに立ち寄った商業施設で、糖度13度と銘打たれたみかんの試食コーナーがあった。
君が興味を示してくれたおかげで、君と同じ瞬間に同じみかんを味わうことが出来た。糖度では語れない不思議な甘さが口に広がった。
やがて、君を連れ去る列車が目の前に現れ、君と僕を遮ってしまった。次会えるのはいつになるだろう。
この恋は終わらせたくないな、強くそう思った。
この恋に名前をつけるとするなら、「みかん」だ。
12/29/2024, 5:04:30 PM