hと付き合ってすぐの時、hはおれに「自分は何をしたらいいのか」と問うてきた。そのときおれはなんにも考えずに、「恋人らしいことできたらいいね」とか何とか返した記憶がある。思い返すとその言葉がだめだったのかもしれない。その次の日から、hは無理をするようになった。
"暗躍"をしなければならないおれは、たいていの日は寝るためだけに深夜だけ支部に帰っている。そんなおれに会おうとhは3時頃まで玄関で座って待っていたらしく、その後帰ってきたおれは玄関で倒れ込むようにして寝てしまっているhを見て心臓が飛び出る思いをした。sやkが声をかけたと聞いて、安心して帰るとまた玄関先で死んだように寝ていてびっくりする。深夜になるとおれも眠くて眠くて予知が全然役に立たなかった。そんなことが何度もあって、hの生活リズムはどんどん狂っていった。ごはんをあまり食べなくなって、ふらふらすることも多くなった。
yもsもtも、支部の全員が不安そうにしていた。
何度目かにそれがあった次の日、おれは18時頃に支部に帰った。おれと目が合ったhは、やつれた顔をしつつも顔を輝かせておれの傍に寄ってくると、思いきり抱きしめてくれた。
「j、おかえり………あの、それ、が、ずっといいたかった」
ちいさく肩を震わせるhを抱きしめ返して、
「無理をさせたよな、ごめん、h」
「おれは、離れててもどっかでhが生きている、って思いながら生きていられたらそれでいいんだよ、何もいらないから、hはどこかでずっと笑っててよ」
涙を流しているhの背中を擦りながら、俺は小さくそう言った。hはゆっくり頷いて、俺の胸で静かな眠りに落ちていった。
hの心臓が穏やかに動くのを感じた。
────────────────────
君と一緒に j × h
(視点 : 左)
『はぁ〜ぁ、今年も終わりかぁ、』
そう言ってjはオレの膝の上に寝転んできた。
「オレの膝の上で寝るな、そもそも何故オレの部屋にいる?!」
オレはjの耳を強く引っ張り、jをどかそうとする。
『うぉ、ちょ、h、痛い痛い痛い』
笑いながらjは言ったが、頭をどかそうという気は無いようだった。数秒見つめ合い、最終的にはオレが折れた。
「どうせお前の予知ではこうだったんだろう?」
諦めつつオレが言うと、
『まあね、まさか耳を思いっきり引っ張られるとは思わなかったけど、』
にこにこしながら言う彼を見て、もう少し強く引っ張れば未来は変わっていたかもしれないと思い少しでも手加減した自分に嫌気がさした。
『ん〜、まぁでもhがここまでおれに心を許してくれるようになるなんてな〜』
言われて、オレは目を見開いた。冗談を言うのも大概にしてほしい。オレはjに心を許した覚えはない。
「ちが…」
『違うって言いたいんでしょ、』
jの言葉に驚きつつもオレは頷く。
『はは、やっぱり?…でもhは大分おれに懐いてくれてると思うけどなぁ』
不服だ、何をもってそういう風に傲慢な思いをもつようになったのだろうか。
『だって、』
jはそう言って手を伸ばし、オレに触れようとする。オレは反射的に目を瞑ったが、jの手がやわらかくオレの髪の毛に触れたところで恐る恐る目を開けると、目の前には満面の笑みをしたjがいた。
『…だって、触れさせてくれるようになったし。』
普段より優しい声に顔が熱くなるのを感じながらオレは反論した。
「っ、お、オレは嫌だと思っている!!それでもベタベタ触ってくるのはお前だろう?!」
『可愛いよ、』
「?!?!!」
この男には、恥というものはないのだろうか。第一、きちんと話を聞こうという気がさらさらない。こういうところがいけ好かないと常々思っている。
『こういうことも言わせてくれるようになったし、ね』
どんどん体が熱くなるオレを見てjは笑って起き上がった。
『1年前じゃ殺されてたな〜、こんなことしたら』
「い、今でもそのつもりだ!!」
『そんな顔してるのに?』
オレは言葉に詰まる。体にたまっていく熱に下がれ、下がれと念じるも効果は無いようだった。
『来年はどんな顔してくれるのかな、楽しみだね』
そのあまりにも真っ直ぐすぎる眼差しに、オレは何も言えなくなっていた。
大晦日の穏やかな風が吹き抜けていった。
────────────────────
1年間を振り返る
J × H
(視点 : 右)
昨日、こちらの世界には"フユヤスミ"というものがあるとyから教えて貰った。
最近は支部にほとんどの人間が集まっていて、それぞれが鍛錬をしたり料理をしたりして自由に過ごしている。聞くと、皆その"フユヤスミ"を楽しんでいるらしい。
だが…
「s、jは何処に居る?」
とオレは菓子作りをしているsに尋ねた。
『あぁ、jさん、確かにみんな冬休みなのに帰ってこないね…なんでだろう』
不思議そうにsは返す。
『jさんはしょうがないわよ、あの人は暗躍が趣味なんだから。』
とsと一緒に菓子を作っていたkが割って入った。
「暗躍………」
押し黙ってしまったオレにsが声をかけた。
『hくんが良かったらだけど…jさんにメールしようか?』
「!!……すまない。頼む。」
sは流石オペレーターと言ったところか。いつも気を利かせてくれる。礼をしなければならない、と強く思った。
ー暫くして、玄関の方でガタガタと騒がしい音がしたかと思うと、jが勢いよく部屋に入り込んできた。
『hは…?』
息を荒げて辺りを見回す。ソファでホットココアを飲んでいるオレと目が合うと、jの顔が輝いた。
『h〜、sから聞いたぞ〜』
言われてsの方を見やると、sはにやにやしながらこちらにピースを向けていた。これは…礼をする必要はないみたいだ。
「………」
『おいおい、そんな嫌そうな顔するなって』
「…オレは、"フユヤスミ"がしたいだけだ。別にjに特別な用事があった訳では無い。」
『え〜でもsが〜…』
非常に五月蝿い。
「言葉の綾だ。」
『はは、…いや〜そうか、冬休みか…学生時代以来だな〜』
しみじみとしているjを睨む形で見る。
『まあまあ、そんな顔するなって。うーーーん、冬休み…よし、じゃあ行こうか』
「何処にだ?」
『それは行ってからのお楽しみってことで』
思い切り嫌そうな顔をしてみせたが、jはお構い無しにオレの背中を押し、半ば強制的に連れ出した。
ー外出の内容がいつもと何も変わらなかったのにオレが腹を立てるのと、オレが"フユヤスミ''の意味を知るのは同時だった。
〜〜〜
From:s To:j
件名:hくんが!!
内容:hくんがjさんに会いたくて寂しそうにしてるよ!
ほら、早く帰って来て!!
〜〜〜
────────────────────
冬休み
J × H
(視点 : 右)
『………寒い。』
道の途中でhはそう言って思いきり顔を顰め、手を頻りにさすっていた。言葉はhの周りに白く深くたまる。
「だから言ったろ?それじゃ寒いって」
軽く笑いながら返す。『余裕だ、』なんていつもの薄手のパーカーだけで出て来たhはきっと日本の冬を舐めていたんだと思う。
『………』
hは怒ったようにフードを深く被りなおし、そっぽを向いてみせる。恐らくわざとだろう。おれはそこでhの白い指先が赤く染まっているのに気がついた。そういえば、支部の誰かがhに今度手ぶくろを買うからもう少し我慢してて、とか何とか行っていた気がする。hの手は明らかに痛そうで、何とかしてやりたい気持ちもあったが、おれも自身の手ぶくろを部屋に置いたままで来てしまっていた。故に何もできないでまごまごしている。
「んー、何だかなぁ…、」
どうしたものか、と呟いたとき、hがおれの名を呼んだ。
『…おい、j』
顔を向けるとhは手をこちらに差し出してきている。
「え"、」
瞬間、おれは硬直した。
「あの…流石におれたちがそれをするのは……」
とおれが言い淀んでいると、
『? 手、繋がないのか?こちらの世界でも寒いときには手を繋ぐ、とyが言っていたが……』
全く、どうもお子様には勝てないみたいだ。
「…はは、いいよ、そうしようか。」
笑ってそう言い、こちらに差し出された手を取った。
「どうだ、少しはマシになったか?」
と道を行きつつおれは問う。
『…あまり変わらない、』
そう強がりを言ったhの頬がやや桃色に染まっているのを見て、おれは自分の気持ちに気づいてしまった。
手ぶくろはまだ暫く買わなくて良いか、と思った。
────────────────────
手ぶくろ
J × H
(視点 : 左)
WT
実力派エリート(j) × 捕虜(h)
────────────────────
※私の作品は二次創作物です。
お二人への理解を深める、という目的でこちらのアプリにて拙いながらお話を書かせていただいております。
ご本家様にご迷惑がかからないよう努めておりますが、万が一何かありましたら心よりお詫び申し上げます。
腐・カップリング要素等を多分に含みます。苦手な方はご自身でミュートいただけますと幸いです。お手間をおかけしますが、どうかよろしくお願いします。
副作用