山合の湖が広がるこの場所に、昔、
だいだらぼっちが護る村がありました。
「違います、今は地龍に出世しましたっつぅの。なのに何でこのボクが、恋敵の女狐のお守りをしなきゃならないんだよ…」
最愛の部下、カマレが拾って来たのは、本来なら討伐するべき妖怪の“失敗作の合成獣の少女”だった。
この女狐、最初の頃は人形の様に意思がなかったのに、最近は心が在るように見えてきた、ボクのカマレが愛情を注ぎやがったせいだ。
女狐は、今さっきカマレが仕事に行った方角の夜空を無表情で見上げている。
「日の出まで帰って来ないぞ…はぁ、言葉解んないか………間抜けのどこが良いんだか…」
女狐が顔だけ動かしてこちらを見た。
無表情の紅い瞳をボクに向けたまま、足が使えない女狐は腕の力だけで動いて、部屋の隅にあるカマレが作った縫いぐるみを口に咥えて、こちらに迫って来た。
「何?何?何~~~!?」
角に追い込まれた。勿論余裕で迎撃出来るのだが、それをするとカマレは、女狐と村を出る。とか言い出すの高確率。
ボクの目の前の女狐は、どっこいしょ…という具合で拙く座ると、縫いぐるみを口から両手に持ちかえ……。
縫いぐるみでボクを叩き始めた。無表情で。
「てっ…とっ…うおっいっ…痛くねぇけど……うぅあ何なんっだぁぁぁ~……」
日の出まで続いた。
オレ達モンスター三姉弟☆
ハロウィン近くになると、都会やらにバリバリ外出致します。
なぜなら、獣耳と尻尾丸出しで街を歩けるからです♪︎解放感抜群で御座いますっ。
ファミレスのハロウィンフェア、オレが、今しか食べられないメニューの“ハンバーグカボチャドリア・チーズ山盛り”を半分食べたところで…。
テイちゃん(兄)が、紅茶の茶葉を入れた茶漉しとオレ宛♡の烏龍茶を右手に、両手いっぱいにガムシロップを包み持つ姉さんを左腕に抱えて、ドリンクバーから戻って来た。姉さんを膝の上に乗せたままオレの向かい側に座るテイちゃん。定位置です。
「え?姉さん紅茶飲むの?」
「メロンショージャば、すなぎれでにょお、しょれにテイちゃんが紅茶美味しょににょんでがらよぉ~♪︎」
ドリンクバーに目を戻すと、店員さんと店長さんが、開店後一時間で飲み干されたメロンソーダの謎解きに頭を抱えている。すいません。
姉さんは、ウルトラジョッキパフェを食べた後にメロンソーダを入れて飲んだジョッキに茶漉しを乗せ、ようとしたがサイズが合わず、直ぐにテイちゃんがフォロー、両手の空いた姉さんはガムシロップのフタを全て開けると、茶漉しの茶葉にガムシロップをかけ始めた。
「…お湯は……?」
「ぬげぇもんばにょめにぇいっ」
…知ってますけど、まぁいいか。
99%ガムシロップを飲む姉さん。
「をを、こりが紅茶のきゃおりじゃびが…!」
1%の紅茶の香りを感知した姉さん。
ガムシロ漬けになった茶葉で、本物の紅茶の香りを堪能するテイちゃん。優雅!!
ハロウィンフェアを満喫したところで、姉さんが配膳ロボットに付いていく遊びを始めた。
テイちゃんが『チチチチチ…』と舌を鳴らして姉さんを呼んでいる。
「あいっ♡」
姉さんに勢いよく飛び付かれてソファに押し倒されたテイちゃん。
「……そろそろ帰ろう?」
真っ直ぐに掲げられた、テイちゃんのグ~ポーズの腕は、長くて筋肉質で美しい♡
夜明け前、目が覚める。
辺りを見る、薄暗くて静かで、自分が何者だったか思い出して、寂しい気持ちがわいてくる。
カラカラカラ……
下で、玄関ドアが気を遣われてゆっくり開く音がする、ちなみにここは二階の寝室。
姉とテイちゃん(兄)が夜勤から帰って来た音だ。
安心感が体に、じんわり染み渡る。
…全く、毎晩の事だというのに、これでもモンスター姉弟の末っ子だというのに、慣れない。
少し涙目なので、タオルケットを眉毛まで被せて一呼吸……したところで、テイちゃんの微かな足音が、近付いて来た。
姉さんがお眠らしく、テイちゃんに抱えられて部屋に入り、オレの隣に寝かしつけ…られるかと思いきや、姉さんがテイちゃんにガッチリ抱き付いて離れないらしい、音と声がする。
「じゃめ…じゃめらぉ」
…ややこしい話なのだが、今現在、姉さんにとって弟のテイちゃんは、姉さんの恋人の生まれ変わりである。
何か、これは、キャラメルの匂いだな…そしてこの…水っぽい音は…、あー…、口移しラリー…してるぅ~、お~い隣人(オレ)めっちゃ起きてるんですけどぉ~っ…………いぃなぁ…。
静寂に、いかがわしい音、響かせて。末子。
キャラメルも、まさかこんな扱いを受けるとは、思ってもなかったでしょう。一旦CM。
…しばらくして、姉さんのマジ寝息が聴こえてきた、今度こそ姉さんを布団に寝かしつけたテイちゃんの、小さな吐息が聴こえる。色っぽ♡。
そして、顔が隠れたオレの額に、長い指が、ふわふわポンポンと触れ、『起こしちゃってゴメンね、もうちょっと寝てな』という、家族だから解る、言葉を使わないメッセージ。
テイちゃんは朝御飯の支度の為、一階の台所に行ってしまった。
……言えない。
オレにもキャラメル口移しを…なんて。
まだ…言えない…。
「をぉ~ぃっ…クショボ~~ジュ~ぅ」
…声が聞こえますね。
下校時刻、無部活、帰宅組の私。
モンスター姉弟、麗しの末っ子です。
とりあえず高訛り声を聞こえないフリして校門へ小走りしてみたら、声の主がモンスターらしく上から降って来た。
それを初めて目撃した数人が、「どっから現れた?」とキョロキョロしているのをお構い無しに、モンスター姉さんは口を尖らせ、
「オラぬ美しぇ~さ無すするちゃぁ、えぇ度胸じゃすけぃっクショボ~ズ」
「いゃぁ~春に飽きた真夏のウグイスかと」
「褒みらりた♪︎」
姉さんは、漢字を適当に並べた文言は褒め言葉だと解釈します。
「姉さん…露出が…」
姉さんは、山村から出る時、チャラピラな自分の服でなく、弟(兄)の服を着るのだが、身長190cmの兄のTシャツが150cmの姉さんに合う訳もなく、肩やら胸やらがはだけてしまっている。
男子生徒の注目の的に、薄手のジャージをかぶせたジェントル・オレ。
「ゆ…油断すたぬだ…」
「今度からオレの服着たら?」
「おみゃぁのば、つつがパツパツでのぉ…」
オレのは乳の所がパツパツだそうです。
「ちょっと位、大丈夫じゃない?」
「ダミだダミだぁ、オラ、テイちゃん(弟)だけぬ、可愛いさ思てもらぇてぇだおっ」
「テイちゃん一筋だね、姉さんは」
「うむ!オラぬは聴こえるんだば、
『ネイぬエロカワシェクスィボデーは、オラじゃけぬもんじゃけ、ちょころきゃまわじゅペロペロしゅる権利ばオラぬば有るけ、しゃいこう!』
…ちょゆう、テイちゃんぬ心ぬ声が♡」
「んな訳あるか。」
「お…はよ~…う!」
我が家の居間には、村のイベント予定なんかを書き込む大きめカレンダーの下に、1日ごとに破る1日カレンダーが掛けてあります。
その1日カレンダーを、今にも破りますよ、という姿勢で姉さんが構えておりまして。
口の端にタバコの如くココア○ガレットを咥え、切り取り線を睨み付け、
「へばらっっっ!!」
ビリっ。
…失敗しました。
「テイちゃぁぁぁぁぁぁん」
弟(兄)に泣き付く姉。
姉さんをよしよしするテイちゃん。
「姉さん…この上の所を押さえて、斜め上にビっと破った方が良いんじゃない?」
「にゃるほど!!」
このやり取り、毎週やってる。
咥えていたタバコ風菓子を、テイちゃんの口に移すと…※ちょっと持ってて後で口移しするから♡…という姉さん独特のノリです。
再び1日カレンダーに手を掛け、構える姉さん、
「へばらっっっ!!!」
ビリっ。
…失敗しました。
口移し予定の菓子を咥えたまま正座しているテイちゃんの太股に、顔を突っ込み、うつ伏せの直立姿勢で落ち込む姉さん。
よしよしするテイちゃん。
「ドンマイ…」
励ますオレ。
我が家の1日カレンダーでは、
今日はクリスマスです。