『なあ、この世界ってなんだと思う?』
友人が、妙にギラついた目で変なことを言い出した。
『は?哲学者だったっけお前?』
『じゃあ、世界の秩序は誰かが守っているってのは知ってるか?』
変な宗教にでもハマったのか不安になる。
『神話の話かよ?そんなやついる訳ねーだろ、漫画の読み過ぎか?』
『いるんだなあ、それが。世界を好き勝手に変えられるやつ。』
なにそれ最強じゃん。
『…根拠は…?』
『現に俺がそいつだ。』
『…は…?』
唯一の友が、やばいやつになってしまった!
『信じられないかもしれないけど、本当なんだよ。
不死身、不老不死ッ!』
『マジで漫画の読み過ぎだって…』
『これで信じるだろ、お前が定期テストの数学の結果を100点にしてやった。』
『ごめん、信じるわ…』
自身のなかったテストが満点など、あるわけがないのだ。
『で、お前何したんだ?世界のために』
『そりゃあサンマの豊漁やポケモン新作ゲームの開発を進めたり…』
『お前の私利私欲じゃねーか!』
魚とゲームが好きなこいつにはいい世の中だ。
『だって…退屈だもの…ずーっと世界守ってなきゃいかんのだぜ?一人で』
『…まあそうか…一人じゃあ辛いもんな…』
『で、ここからが本題な。』
『世界守護、俺もやれって事だろ?お前の力なら俺のことも不老不死にできる。』
『おお〜わかってるう』
『親友だからな。』
『いいか?世界を守ることに責任なんて感じちゃいかんぜ。何もかも嫌になれば、恐竜絶滅させたりしちゃっていいワケ。』
『要は、ノリだな。』
『そう!楽しもーぜ、友よ。』
『ああ、まずは戦地に花畑でも咲かせてやろーぜ。』
こうしてこの世界は二人だけのものとなった。
チッチッチ…
チーン。
『あけましておめでとう!!!!』
盛大な音と映像が流れるテレビ。
今年は一人で年を越した。
受験に受かり、実家とは遠い大学にひとり暮らししているからである。
帰省したかったが、帰省する前日、サイフを落とした。
友達と過ごしたかったが、もちろん家族と過ごしている。
電話したかった。
スマホは修理に出している。
………。
なんとものさびしい正月だろう…。
こんな悪運が続くとは、今年はいいことがたくさん起こるかもしれない。
サイフもなく、スマホもなく…
ああ、親と話したい…
こたつの中で寝転ぶ。
ん?
何かがベッドの下で光っている。
ズリズリ床を這いながら拾う。
10円玉。
…!!!
何も身に着けずに外に駆け出した。
⸺公衆電話。
雪の上を踏みしめる。
とてもさむい。
何をしているんだ…。
今は12時56分。
10分間だけ電話が許される。
実家にかける。
果たして出るだろうか…。
ガチャ。
出た。
もしもし?
ああ、あけましておめでとう。
サイフ、大丈夫か。
交番行ってみる。
⸺他愛もない話が続く。
あっという間に時間が過ぎていく。
サイフとスマホが戻ってきたら、帰ってこいよ。
うん。
時計の針が重なる。
10分が経った。
ぼくはてるてる坊主。
ぼくを作ってくれたのはあの男の子。
明日、運動会があるらしいよ。
いっしょうけんめい作ってくれたんだから、
頑張らないとね。
……だけど力が足りないみたいだ。
ぼくをつくるのに使ったのが、ティッシュ3枚だけだからかも。
なにも責めるわけじゃないよ…
晴れにできないのは、申し訳ないなぁ…
でも頑張るぞ。
晴れますように…!!
⸺次の日。
ああ、ごめんね…
どうやら…くもりみたいだ。
やっぱり力が足りなかった。
曇りじゃ気分乗らないよね…
…?
男の子がぼくを窓からとった。
ぼくはクビになったらしいな…ごめんよ
あれ?
ぼくをランドセルにつめこんだ!
ちょ…教科書につぶされちゃう!
あっお弁当ある!
うわー走り出した!
ゆれるう〜
………
どうやら学校にもってきたらしい。
…わあ!
このこのお友達がぼくの仲間をたくさんつくっているよ!
たくさんいる!なんだか嬉しいな。
その中にぼくもまぎれこみます
学校の窓際に飾ってくれたよ。
外をみてみて。
こんなに晴れてるよ。
好きな人が虹色の鉛筆を持っていた。
描けば描くたび色が変わる鉛筆。
小学生の憧れの品だ。
彼が学校で色々ふざけたものを描いて笑っていたとき、私はすぐに母親に買ってもらおう、と思った。
休日、母は文房具屋にて買ってくれた。
私は目を輝かせ、いつまでたっても描かずにみつめていた、と母が教えてくれた。
そして夕方、庭に出る。
私は放課後、庭でスケッチをしていた。
私の町は田舎で虫も多かったが、何も気にしていなかった。それが毎日の楽しみでもあった。
畑のかかし、自分の家、母の笑顔。
下手だが、楽しそうな絵が描いてあるスケッチブックは今でも私の宝物だ。
そしてあの日は橋を描こうと思った。
庭から見える、古びた橋。
買ってもらった、虹色の鉛筆で。
線を引く、その時。
彼がいた。
彼の友達何人かと、あの橋の上で何かをしている。
とても気になった。
少しくらい家から出ても大丈夫だろう。
彼は何をしているんだろう?
そう思って橋のほうに近づいた。
彼に気づかれないように。
そうして彼らの姿がはっきりし、何をしているかよくわかった。
彼らは橋の上で戦隊モノの決めポーズをとっていた。
彼は奇妙なポーズで必殺技らしいものを放って、彼の友達とごっこ遊びをしていた。
私は吹き出しそうになるのを必死にこらえていた。
そして橋にもっと近づいたが、彼らは夢中になっているのか全く気がついていなかった。
よし、描くか。
その日はいつもより筆が乗った。
──完成。
橋と、彼ら。
虹色の鉛筆で描いたそれは、今でも最高傑作だ。
しかし今見ると彼の顔だけ大きく、描きこんでいるので少し恥ずかしくなる。
後日、彼らにその絵を見せた。
彼は大喜びしてくれた。
そして放課後、彼らは私を橋の上までつれていってくれた。
彼と一緒に決めポーズをしたあの日は、絶対に忘れられない。
そのあと門限が過ぎ、先生に見つかり叱られた思い出も、この一つの絵に刻まれている。
『冷蔵庫に玉ねぎってある?』
…10分経っても返事が来ない。
今、私は最寄りのスーパーにいる。
息子は家でゲームでもしているだろう…だからLINEを送った。
なのに既読がつかない。
スマホの充電が切れたか?
友達と遊んでいるのか?
それとも…
些細なことでも不安になる。
過保護なのだろうか?
この前30分ほど帰宅が遅れ、学校に電話したら息子に嫌味を言われた。
だが親というもの、心配になるものだ。
そして心配なのはそれだけではない。
玉ねぎはあるのだろうか?
今日は息子の好物のハンバーグを作ろうと思ったのだ。
だが玉ねぎがあるのかを忘れた。
買ったほうがいいのか?でも余分だったら処置が大変だ。玉ねぎは余る。
やはり心配性すぎる。
普段の生活の計画性の無さが垣間見える…
一応買っておこう。
あまっててもまあ、スープにでもしようか。
──レジに並び、購入。
3日分の食料が集まり満足だ。
車で家へ向かう。
ちょうど信号が赤になり止まったとき、スマホがなる。
息子からだ。
『玉ねぎあるよ〜5個くらい』
遅い。
『あと、今日ハンバーグでしょ?』
『家にケチャップないけど、買った?』
遅すぎる。
信号が青に変わり、慌てて車を走らせる。
計画性の無い母に、ルーズな息子。
親子だなぁ…