雪降る街を歩く
繋いだ手の温もりが体全体に広がる
歩くたびにつく足跡も明日には消えてるだろう
街を照らす街灯は私たちを祝福しているようだ
彼の瞳には何が映っているのだろう
私はもう君しか見えないのに
彼の発する言葉は雪より冷たい
もうとっくに火は消えていたのかもしれない
こたつの上にはみかんが一つある。時刻は3時。部屋の中は暖房をつけているがそれでは足らずこたつのスイッチも入れている。冬場はいつもこのセットだ。これで1時間は動けないだろう。私以外にこの沼にハマっている間抜けはもう1人いた。私の妻だ。昼食の皿洗いを終えたあと休憩がてらこたつに入ったらこの様だ。無理もないだろう。こたつを出した時点で私たちの負けだったのだ。それはそうとお腹が減った。昼食にはパスタを食べたのだが
ピンポーン
玄関のベルが鳴った。大智は洗ってる皿を置き玄関に向かった。
ピンポーン
もう一度ベルが鳴った。もう店は閉めたのに誰だろうと思いながら扉を開けた。だがそこには誰もいなかった。外はもう深夜で薄暗い街灯でかろうじて見えるぐらいだった。大智は玄関から顔を出して周りを見回してみたが人影は見当たらなかった。ベルが故障したのだろうか、今までこんなことは一度もなかったが大したことは無いと思い店に入った。
それから10分後くらい経ったあとまたベルが鳴った。またかと思い椅子から立った。扉を開けると誰もいない。周りを見ても人の気配は全くしない。なんだよやっぱりベルの故障かと思い扉を閉めた。
店の片付けも終わり帰ろうと身支度していたらまたベルが鳴った。これで確定だ、ベルが壊れているのだろう。大智はベルを無視して着替えを始めた。すると途端に扉が勢いよく開いた。だが誰も来ない。そのままキーと音を出して扉は閉まった。大智はさすがに恐怖を覚えた。身を縮こませて玄関から目が離せなかった。
この店は大智の父が亡くなってから引き継いだものでまだ初めて3ヶ月程度だった。だがこの3ヶ月間こんなことは一切なかった。誰かのイタズラかそれとも幽霊か、そんなことを考えた。大智は恐怖で動けない。
どうしようと思った時ピンポンピンポンピンポンピンポンドンドンドンドンとそれを嘲笑うかのようにベルを連打する音と同時に扉を叩く音もした。これには身の危険を感じた。もともと大智はホラーが苦手なのだ。そのため店をやることにした時は近くに移住することに決めた。夜遅くなっても近くだと夜道を歩かなくて済むからだ。それでも毎晩家に帰る時は憂鬱なのだが。
そんな大智にとってこのピンポン連打は凄く応えた。もう一生このままでじっとしておこう、今日は帰れなくていい。この店で今いる場所で寝よう。そして三角座りになって身をつぶった時、いきなりドアが開いた。スタスタと2人分の足音が聞こえる。大智の体は震えきっていた。
「あのーすいません誰かいませんか」
とその1人が言った。誰なんだ、こんな夜中になんで人が来るんだよと思いよく見てみると制服のようなものを着ている。
「あのー警察です。誰かいませんか」
なぜ警察が来たのかは分からないが、いったん姿を現すことにした。
「あ、あのーいます」
大智はゆっくりと立ち上がって言った。警察は驚き懐中電灯を大智に向けてきた。「誰だ、ここで何してる」と聞かれたので正直に店の店主ですと答えた。
「こんな夜中にどうしたんですか?」
と大智が聞いた。
「それがですね。さっき通報が入りまして、包丁を持った男がこの店に入っていったと言うんですが何か知ってますか?」
「いや何も知らないですよ。でも不思議なことがありまして」
とさっきまでの不気味な体験を正直に話した。
「それは怖かったですね。それなら最初に扉が開いた時に入ってきたと言うことは無いんでしょうか?」
「扉は開いたんですが誰も入ってきては無いと思います。足音なんかしなかったんで」
「そうですか。なら一応店の中見せてもらってもいいですか?」
「いいですけど」
警察はひと通り調べたようで一息つき「何もいないですね、ご迷惑おかけしました」と言い帰っていった。
やっとこの時がやってきた。珠樹はこの時を一年待った。沙織に会うのが楽しみだった。毎年、明日の1月1日と明後日との2日間しか会えないからだ。珠樹は新年は親戚で北海道にある別荘に集まることになっていた。そこには3世帯ぐらいで集まるのだが珠樹と同年代の子供は沙織しかいなかった。
最初は全く打ち解けなかった。お互い顔見知りてだけで話したこともなかった。仲良くなったのは3年前で別荘の周辺には毎年雪がよく積もるのだが珠樹は父と雪だるまを作っていた。そこに沙織がやってきたが何やら様子がおかしかった。顔はくしゃくしゃに歪んで鼻水がだらしなく垂れている。驚いた父がティッシュで顔を拭きながらどうしたのか聞くと母にこっぴどく怒られたそうだ。そこで父は沙織ちゃんも雪だるま作ろうと誘い一緒に作ることになった。
珠樹はしばらく黙々と作業していたが理由が気になり聞いてみた
「何して怒られたの?」
「沙織がね、料理お手伝いしようとしたらね怒られたの。包丁で指切ったら危ないって。沙織、英会話教室で料理したことあるのに」
「え、英会話教室通ってるの?」
「そうだよ」
「へーすごいな、珠樹も行くか?」
父が茶化してきたが無視した。
「何か喋れる?」
「マイネーミーズサオリタマシロ。ナイストゥミートゥー」
完成した雪だるまは不細工だったが楽しい時間は続いた。それから沙織と雪だるまを作ることが恒例行事になり、珠樹は中三になった。中学生になっても雪だるま作りは続いていてもちろん今年もするつもりだった。しかしこの年沙織は来なかった。受験の勉強で忙しくて来れないそうだ。仕方なく今年は室内で過ごした。沙織がいない北海道は何もすることがなくつまらなかった。珠樹自身、受験シーズンなのだが北海道まで来て勉強する気にはなれなかった。
そして何もせず2日間は過ぎここに来るのはまた来年。沙織は来るだろうか、そんなことを考えていた。来年は何もないのだから来るはず、でも来たとしてちゃんと喋れるだろうか、会えたとしても2年ぶり彼氏とかもできてるかもしれない、もう一緒に雪だるまなんか作ってくれないかもしれない。この答えがわかるのも一年後、もどかしいが仕方なかった。沙織に会えたらそれでいい。また来年雪が降る時期を待とう。
「ねぇ今日は泊まれる?」
「いやー平日だし帰らないと」
「そっか…今週また会える?」
「今週は厳しいな、今日だって友達と飲みに行くって言ってきたし」
「えーつまんない」
紗里は不服そうな顔をして彼の腕を掴んだ。
「じゃあ俺、帰るからまた連絡するわ」
紗里の腕をほどいて彼は部屋を出ていった。紗里は1人になりため息をつきながらベッドの上に大の字で寝転んだ。
この関係はあと何年続くのだろう。考えても終わりの見えないトンネルに入った気分になる。幸せにならないのは分かってる、でもこの不淫らな恋を終わらせることはできない。それほどに紗里は彼を愛している。いつか自分を選んでくれるのではないかと期待している。やっぱり行かせたくない。彼の温もりを感じて夜を過ごしたい。起きたらおはようと言い2人分の朝食を作る。夜帰ってきたらお帰りと言い何でもない話で盛り上がり熱い夜を交わす。
部屋を出ると彼がドアを開けようとしてるところだった。
「待って」
紗里は走り寄って彼を後ろから抱きしめた。
「行かないで、私をひとりにしないで」
「悪いな紗里、でも帰らなきゃ」
彼は振り向いて紗里の唇にキスした。
「愛してるよ紗里」
そう言うと彼は家を出た。
紗里はその愛のこもってない言葉を信じることしかできなかった。