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やっとこの時がやってきた。珠樹はこの時を一年待った。沙織に会うのが楽しみだった。毎年、明日の1月1日と明後日との2日間しか会えないからだ。珠樹は新年は親戚で北海道にある別荘に集まることになっていた。そこには3世帯ぐらいで集まるのだが珠樹と同年代の子供は沙織しかいなかった。

最初は全く打ち解けなかった。お互い顔見知りてだけで話したこともなかった。仲良くなったのは3年前で別荘の周辺には毎年雪がよく積もるのだが珠樹は父と雪だるまを作っていた。そこに沙織がやってきたが何やら様子がおかしかった。顔はくしゃくしゃに歪んで鼻水がだらしなく垂れている。驚いた父がティッシュで顔を拭きながらどうしたのか聞くと母にこっぴどく怒られたそうだ。そこで父は沙織ちゃんも雪だるま作ろうと誘い一緒に作ることになった。

珠樹はしばらく黙々と作業していたが理由が気になり聞いてみた

「何して怒られたの?」

「沙織がね、料理お手伝いしようとしたらね怒られたの。包丁で指切ったら危ないって。沙織、英会話教室で料理したことあるのに」

「え、英会話教室通ってるの?」

「そうだよ」

「へーすごいな、珠樹も行くか?」

父が茶化してきたが無視した。

「何か喋れる?」

「マイネーミーズサオリタマシロ。ナイストゥミートゥー」

完成した雪だるまは不細工だったが楽しい時間は続いた。それから沙織と雪だるまを作ることが恒例行事になり、珠樹は中三になった。中学生になっても雪だるま作りは続いていてもちろん今年もするつもりだった。しかしこの年沙織は来なかった。受験の勉強で忙しくて来れないそうだ。仕方なく今年は室内で過ごした。沙織がいない北海道は何もすることがなくつまらなかった。珠樹自身、受験シーズンなのだが北海道まで来て勉強する気にはなれなかった。

そして何もせず2日間は過ぎここに来るのはまた来年。沙織は来るだろうか、そんなことを考えていた。来年は何もないのだから来るはず、でも来たとしてちゃんと喋れるだろうか、会えたとしても2年ぶり彼氏とかもできてるかもしれない、もう一緒に雪だるまなんか作ってくれないかもしれない。この答えがわかるのも一年後、もどかしいが仕方なかった。沙織に会えたらそれでいい。また来年雪が降る時期を待とう。

12/16/2024, 12:55:23 AM