題名『最高の1日』
(裏テーマ・理想のあなた)
河川敷で私は青空を見ていた。
雲の形からいろんな想像を膨らましながら。
今日は好きな人と少し話ができた。
昨日見たドラマの話をしていたら急にあなたが「俺も見てた」って言って友達との会話に入ってきた。すぐに終わった短い会話なのに今日はあれから幸せだった。顔が赤くなっていないか心配になるくらい。
いつも鏡とにらめっこする。
どんな角度が美人に見えるか研究したり、どんな表情が魅力があるか百面相したり。
どんなに頑張っても醜い顔が綺麗に見える瞬間はなくて落ち込む。なのに鏡を見ることをやめられない。
理想のあなたの隣には、理想の私がいてほしいから。
じゃないと、あなたに悪くて告白できない。
青空はいつしか夕焼けになっていた。
ライラックの匂いがする。
川の向こう岸に、やっと犬の散歩をしてるあなたが見えてきた。私を見つけて嬉しそうに笑って手を振ってくれた。
私は嫌嫌そうにゆっくり手を振って返した。
川をはさんで私には、蝶々結びの風の紐が見えた。もちろん色は明るめの赤に決まってる。
そして家に帰ることにした。
学校が休みの日はユーチューブで化粧の勉強もしてる。家族に隠れてドキドキしながら。まだ、あなたには見せられない。でもいつか来る決戦の日を夢見てる。
それまで恋人ができないように呪いもかけながら。
でも、これだけで最高の一日になった。
自宅に近づくとカレーの匂いがした。
あなたの大好きな食べ物はカレーライス。
これだけでも運命のように思ってしまう。
いつもの倍の大声で
「ただいま!」
家族に叫んでた。
題名『いたずら』
(裏テーマ・突然の別れ)
朝は、目覚まし時計が鳴らなかった。そのせいで仕事に遅刻して恥をかいた。
昼は定食屋の玉子巻きに殻が入ってた。文句は言わず黙って食べたが気分は沈んだ。
仕事の外回りで歩いていたら靴底が破れた。確かに古いのに無理して履いていたが靴底が剥がれるなんて想像してなかった。
その夜、居酒屋に寄って注文したらなかなか品物が来ない。痺れを切らし我慢の限界で店員に聞いたら品切れらしい。だったら早くそう言えって怒りたくなったが、まわりの目も気になり他の串とかを注文した。
家に帰る途中で自動販売機を見つけ、コーヒーを買うためにお金を入れてボタンを押した。出ない。出ない。あきらめる。
なんて日なんだろうと思いながら風呂に入ると今度は排水口が詰まった。裸で少し寒い中、掃除をした。
寝る前に小腹が空いてカップラーメンを食べることにする。フタを開け粉末だしやかやくを麺の上に出しお湯を入れるため保温ポットの電動給湯ボタンを押してもお湯が出ない。何度押しても出ない。結局これは壊れていた。買い替え決定。しょうがなく雪平鍋で水を沸かしカップラーメンに注いだ。
さぁ寝ようと思ったら、テーブルからスマホを落とす。画面が割れる。
それでもまた明日も寝坊するわけにもいかないと布団をかぶって寝ようとしたら、電話が鳴る。
祖母の急死の連絡だった。
まったく関係ないかもしれないが、朝からのいろんな出来事が一本の線で繋がった気がした。
お婆ちゃんはいたずらが大好きだったんだ。
最後のお別れに会いに来てくれていたんだろう。
考えてみれば、お婆ちゃんの家によく泊まっていたけど最近は正月に顔を見せるくらいになっていた。
突然の別れだったけど、1日を振り返ると心が熱くなった。
昔お婆ちゃんと一緒に寝た時、寝つけない僕に、面白おかしくお婆ちゃんの失敗談とかを話してくれたんだ。
そうそう、全部お婆ちゃんの失敗談だ。
やられたー。
葬式の時に少し怒ってやろうと思ったら、視界が歪んで見えなくなった。泣いていた。
そうか、明日と明後日は仕事を休まないと。
翌朝、ポストに祖母からのハガキが入ってた。
そうか昨夜はポストを見なかった。
「たまには顔を見せろ。じゃないと、いたずらするぞ!」って書かれていた。
寂しかったのかな。
「ごめんね、お婆ちゃん………」
題名『マルチバースの世界』
(裏テーマ・恋物語)
「なんで?」
「ごめんね、でも3ヶ月らしい」
「じぁ、一緒にハロウィン楽しめないの?」
「うん」
そのあと彼女は泣いた。
僕の余命はあと90日。何も治療をしなければ。それを病院で聞いた時は冷静だった。
でも恋人である彼女に話し、ああ泣かれると現実なんだなぁ〜って思って胸が苦しくなった。
やっぱり大好きな人と別れるのは辛い。
大切な家族と会えなくなるのも辛い。
まして、この意識が消えて戻って来れないのは恐怖でしかない。
僕は子供の頃から眠るのが怖かった。意識が途絶えるのが怖かったんだ。それは死だから。
そう、人は約3万回の死の練習として眠り、やがて本番を迎える。なのに僕はまだ1万回も練習してない。
そんな時だ。
病院の待合室で変な老人に会った。
その場のベンチに偶然、隣同士に座っただけだけど話しかけられて一緒に喫茶店に行った。
「マルチバースを信じるかい?」
最初にそう聞かれたんだ。
「スパイダーマンとか映画の世界なら」
そう答えたら、
「興味があるならこのあと、ついてきてくれ」
理由がわからなかったし、宗教とか詐欺とか認知症もありえたけど僕は直感的に信じてしまった。どうせ死ぬ運命だし怖いものも守るものもなかった、彼女以外は。
理論物理学の世界ではマルチバースは必然になりつつあるんだって言うんだ。つまり宇宙がいっぱい存在してるって。天動説が地動説に変わったように常識が変わる事になると言う。1つのこの世界と思っている空間が他にもあるとしたら行きたくないかって聞いてきた。
行く方法を知っていると。
僕に話しかけたのは、僕が死ぬからだ。
違う世界へ行けても時間や空間は安定してないから僕たちが生きている場所に戻れない可能性が高いらしい。
「僕と一緒にマルチバースの世界に行って下さい」
そうプロポーズしたいとも思った。
たくさんの宇宙をめぐる二人の恋物語。
彼女となら幸せだ。
そう思ったけれど。
彼女はすぐに別の彼氏を作っていた。
死ぬ彼氏に寄り添いって私には耐えられないと振られた。
だから、僕は両親を高級なお寿司屋さんに連れてゆき、孝行してから旅立つつもりだ。
マルチバースの世界へ。
生きるために。
そして、新しい恋物語を探して。笑
題名『肝試し』
(裏テーマ・真夜中)
「本当にやるの?」
「やるよ」
「面白そうじゃん」
「二人は家を抜け出せるの?」
「大丈夫」
「怖いならやめれば」
「やる。三人でやろう!」
まだ小学生だった僕ら三人組はある遊びを思いついた。
肝試し大会だ。まぁ大会と言っても3人だけ。
真夜中に家を抜け出して、団地の近くにある墓地を一周して帰ることを思いついた。
話の発端はショーちゃんがケンちゃんを怖がりだとからかったからだ。否定するケンちゃんにショーちゃんが証拠を見せろと言い出してフミヤどうしたらいい?って僕に聞いてきたから、冗談のつもりで話したらやることになってしまった。
僕は怖がりだ。肝試しとかとんでもない。
冷静で大人の振りはしてるけど夜はトイレに行くのにお母さんを起こして付いてきてもらうくらいの怖がりだ。
二人もあの様子じゃ相当の怖がりだ。
でも男同士だと友達でもつい見栄を張ってしまうんだよなぁ。
約束の時間は真夜中の0時。
墓地の近くの自動販売機の前だ。
僕は出かける時に母親に見つかって行けなかったと言い訳まで考えていたけど、みんな早く眠ってスムーズに出れてしまう。
僕が一番かと思ったらショーちゃんが居た。
「おっす」
「おっす」
少し遅れてケンちゃんも来た。
「おっす」
みんな懐中電灯を持ってきていた。
「一人一人で行こうぜ」
ショーちゃんがここでも見栄を張る
「いいぜ、そうしよう」
ケンちゃんも強がる。
「一人一人じゃ怖がってるかも分かんないよ、待ってる姿を誰かに見られるのもヤバそうだし、三人でサッと回って早く帰ろうよ」
僕は一人だけは嫌だったので強めに言ったら
「それでいいよ」
「早く終わらそうぜ」
二人もすぐに賛同した。
月は満月に近くてそこそこ明るかった。
墓地は明かりがなくかなり暗かった。
思ったより背の高い雑草が多くて歩きづらかった。
「墓地の中の外側を回るだけでいいよね」
僕が確認のためそう言うと二人はうなずくだけだった。
カサカサっと前の草が鳴った気がした。
するとケンちゃんが
「佐藤がここでヘビを見たらしい」
嫌な情報をぶっこんでくる。
ケンちゃんは良くも悪くも馬鹿で素直な子。
「隣のクラスの高橋、ここでオバケを見たってよ」
そう言うショーちゃんは負けず嫌い。でも友情に厚い男。
「そこの木の棒で突きながら歩こうよ」
少し成績の良かった僕は空気が読めるまとめ役を演じていた。
木の棒をケンちゃんが振り回しながら先頭を歩いていたら、急に立ち止まって身構えて、ある一点を凝視した。
物凄く光る球体が二つ浮いている。
「にゃーーーー!!!」
黒猫のような猫?が怒ったような声を出して逃げていった。
驚いて声を出しそうになったがセーフ、二人を見たら、ほっとしたせいか3人とも笑顔になって笑ってた。
あと少しで終わり。
するとショーちゃんが
「大した事なかったな、またやる?」
そう言った。
「うん、いいよ」
ケンちゃんもそう答えた。
「じゃ、帰ろうか」
僕がそう言って三人で墓地を振り返ったら、墓地の奥に灯りが見えた。誰も居ないはずなのにと思って見ていたら、その灯りが、スルスルっとこちらに向かってきた。
「おかしくない?」
「変だね」
「人魂ってことないよね?」
そんなことを言っていたら、
それは加速して僕らを追いかけてきた。
「逃げろー!」
僕らは散り散りに家に逃げ帰った。
翌日、少し話をしたけど、みんなあの夜のことは話すのを避けていた。
三人の誰かが、幽霊かもしれないから。
題名『少し怖い話』
(裏テーマ・愛があれば何でもできる?)
私の村にはこんな話しがある。
満月の夜には、誰かに会って話しかけられても決して振り向いてはいけない。もしも女の子の声が聞こえたら全力で逃げなさい。
遠い昔、生まれてすぐ両親や祖父母も流行り病で亡くした女の子が親戚の家で育てられていたけれど、その家の子供たちに虐められていたらしいのです。
少し離れたお兄さんとお姉さんでしたが、母親がその子のせいでお金がないと言っては二人の兄妹にいつも我慢をさせていた。
母親の言葉をそのまま信じてしまった二人は女の子が憎かったのです。
育ての母親は根は優しい人でした。でも物事を深く考えず話してしまうところがあって、子供が我儘なので適当に理由を作って我慢させたかったのですが失敗でした。
育ての父親も優しい人でした。
でも、女の子が少し大きくなると時々、嫌な目つきをするようになりました。
ある日、母親は兄弟に不幸があり二人の子供を連れて実家に帰りました。その頃は母親も気づくほど虐めは激しくて三人の仲が悪いことを両親は知っていたので女の子を残したのです。
その日は大きな満月が見える夜でした。
兄姉がいないので久しぶりにのんびりと父親と夕食を食べたり、一人あやとりをして遊んだりして過ごしました。そして居間でうとうと眠りについたまでは幸せだったのかもしれません。
だけど、このあと女の子は育ての父親に襲われました。
抵抗はしたけれど恐怖心でほとんど震えているだけだったと言うことです。
終わったあと、父親は言ったらしいのです。
「お前は一生、育ててもらってる恩を忘れちゃいけないよ、愛があれば何でもできるだろ。これからもよろしくな」
女の子は聞いた。
「愛があれば何でもできる?」
「するもんだ。母ちゃんには言うなよ」
そんなことがあった翌朝、女の子は村の大きな川に浮かんでいたらしい。
それから、満月の夜に川の側を歩くと女の子の声がするらしい。
気になって振り向くと川の方から聞こえるらしい。
「ねぇ、愛があれば何でもできる?」
そして迷って答えないと、
「じゃあ、いっしょに死んでーーー!!!」
川から子供の手がスルスルスルと伸びてきて足を掴んで川に引きずり込んでしまうらしい。
女の子は、父親の言いなりになりたくなかった。
それは自分に愛が無いからで、自分は悪い人間だと思って死んだのでした。
そして愛のある人を見つけて、その愛を少し貰おうとしていたのでした。
でも本当は、愛が無いから愛されない、つまり、普通に愛されたかっただけだと思います。
とても純粋な女の子でした。
その名は「純」でした。