題名『マルチバースの世界』
(裏テーマ・恋物語)
「なんで?」
「ごめんね、でも3ヶ月らしい」
「じぁ、一緒にハロウィン楽しめないの?」
「うん」
そのあと彼女は泣いた。
僕の余命はあと90日。何も治療をしなければ。それを病院で聞いた時は冷静だった。
でも恋人である彼女に話し、ああ泣かれると現実なんだなぁ〜って思って胸が苦しくなった。
やっぱり大好きな人と別れるのは辛い。
大切な家族と会えなくなるのも辛い。
まして、この意識が消えて戻って来れないのは恐怖でしかない。
僕は子供の頃から眠るのが怖かった。意識が途絶えるのが怖かったんだ。それは死だから。
そう、人は約3万回の死の練習として眠り、やがて本番を迎える。なのに僕はまだ1万回も練習してない。
そんな時だ。
病院の待合室で変な老人に会った。
その場のベンチに偶然、隣同士に座っただけだけど話しかけられて一緒に喫茶店に行った。
「マルチバースを信じるかい?」
最初にそう聞かれたんだ。
「スパイダーマンとか映画の世界なら」
そう答えたら、
「興味があるならこのあと、ついてきてくれ」
理由がわからなかったし、宗教とか詐欺とか認知症もありえたけど僕は直感的に信じてしまった。どうせ死ぬ運命だし怖いものも守るものもなかった、彼女以外は。
理論物理学の世界ではマルチバースは必然になりつつあるんだって言うんだ。つまり宇宙がいっぱい存在してるって。天動説が地動説に変わったように常識が変わる事になると言う。1つのこの世界と思っている空間が他にもあるとしたら行きたくないかって聞いてきた。
行く方法を知っていると。
僕に話しかけたのは、僕が死ぬからだ。
違う世界へ行けても時間や空間は安定してないから僕たちが生きている場所に戻れない可能性が高いらしい。
「僕と一緒にマルチバースの世界に行って下さい」
そうプロポーズしたいとも思った。
たくさんの宇宙をめぐる二人の恋物語。
彼女となら幸せだ。
そう思ったけれど。
彼女はすぐに別の彼氏を作っていた。
死ぬ彼氏に寄り添いって私には耐えられないと振られた。
だから、僕は両親を高級なお寿司屋さんに連れてゆき、孝行してから旅立つつもりだ。
マルチバースの世界へ。
生きるために。
そして、新しい恋物語を探して。笑
5/18/2024, 4:03:32 PM