『君と僕』
君と僕。
僕は女で君は妖怪。
二人?で暮らしで半年が過ぎた。
二十歳の成人した女が親と大喧嘩して家を飛び出したのが半年前。
高校で不登校になり、そのまま大学の受験も受けず、バイトもせずに家でゴロゴロ寝るかゲームをするかの生活をしていたら、親がブチギレたのだ。
これでも精神科に行って病名もあって薬も貰ってた。いや親が買っていた。病人のはずなのに親はどこか怠け癖のように思っていたんだと思う。うちの親は頭が古いんだ。
そして、売り言葉に買い言葉で、父親と口喧嘩だけではなく取っ組み合いの大喧嘩をして僕は父親に拳骨で殴られた。
か弱き二十歳の娘を中年の男が本気のグーで殴るって、犯罪だよね?
怒っていいよね?
そのまま家を飛び出して、歩いて繁華街まで行った。
そしたら、優しそうな小太りのオジさんが食事を奢るから一緒に食べないかって誘うから、そのままファミリーレストランまで行ってハンバーグ定食を食べた。
チョコレートパフェも注文してトイレに行ったら、そのオヤジ、その間にパフェに白い粉を振りかけていた。僕はそれを見つけて問いただしたら、かなりヤバい薬物みたいで絶対にその名前は言わなかったけれど、警察に言わない代わりに10万円もくれた。
だから許して、僕は最終の電車に乗った。
終着駅で始発を待って、昔お盆や正月に行っていた母の実家に向かった。
祖父母は亡くなり跡継ぎは一人娘の母だけなので空き家になっていた。
売って処分しろとまわりから急かされていたけど、懐かしい家を処分するのは躊躇いがあるようだった。
10万円はあったが最悪なのがスマホを忘れたことだった。
実家のある田舎の最寄り駅の近くのコンビニで、パンとジュースを買って母の実家にバスで行った。
カギはいつもの植木鉢の下にあった。
玄関を開けて中に入ると、かなりカビくさかった。
僕は家中の窓を開けて、空気を入れ換えた。
客用の布団を見つけてしっかりと干すことにした。
電気も水道も電話も留められていなかったのは幸運だった。
昼過ぎ、少しだけ反省をして、母に電話した。
父は反省もせずに仕事に行ったらしい。
母はさすがに心配で仕事を休んで連絡を待っていたらしい。
「ごめんね、お母さん」
返事よりもすすり泣く声の方が先に聞こえた。
そして、しばらく僕はここに住むことにした。
第一日目の夜。
田舎の夜空は綺麗だった。
思わず田舎の砂利道を散歩した。
そうしたら、お地蔵様があった。
誰かがおむすびと芋の天ぷらをお供えしていた。
つい、夕食を買いに行くのが面倒でお腹が空いていた私は、食べ物に顔が当たるまで近づけた。すると、目の前に、林檎ひとつ分の高さの小人がいた。
「え、え、えっ、えっ、エッーーーーー‼️」
僕は驚いて大声をだした。
小人もびっくりして腰を抜だった
食いしん坊の妖怪は、とにかく食べ物のリクエストが多い。
普通は5才までしか妖怪は見えないのに僕が見えたから、あの晩は妖怪も驚いたようです。
妖怪とか小人って言ってますが、本当は神様らしいです。
でも、人の世話が大好きみたいで、いつも聞いて来るのです。
「なんか、ようかい?」
神様だけど半人前らしいです。
だから何かしたくてたまらないらしいのです。
なんか、ようかい?
半年の間、何度も言うので今日からアダ名は妖怪にします。
そして、君と僕。
あらため、妖怪と僕。
その二人の田舎暮らしの冒険譚は、また今度話します。
長くなったでお休みなさい。
また、あした。
『夢へ!』
僕は歌手になりたい。
そんな夢がある。
進藤奏汰、19才。
とりあえず入れそうな大学に入学したけれど、やりたいことがある訳じゃなかった。親を説得するのが面倒だっただけだ。
だからバイトでお金を稼いで、ボイストレーニングとか歌唱指導の教室に通いたいと思っている。
ただ、本音を言うと、どうしたら歌手になれるのか知らない。
作詞作曲出来る訳じゃない。
ダンスなんて、スキップして歩くのも出来ない運動音痴の僕が出来る訳がない。
アイドルになれるような可愛い顔でもイケメンでもない。
歌が、歌うことが好きだから、それを仕事にしたかった。
能ある鷹は爪を隠す。
僕は人生で、ほとんど人前で歌ったことがない。
学校もコロナで歌う機会がなかったし、マスクをしてるから声を出さなくても誰にもバレない。僕の歌声でみんなを驚かさないために、いつも歌わなかった。
家族の前ではよく歌ってた。
母はいつも褒めてくれて、歌手になれるって子供の頃から何度も言われた。
だから一度だけ、高校の時の進路指導で冗談めかして歌手になりたいと言ったら、歌手で生活出来る人は少ないし、将来が不安だから大学にだけは言ってほしいと懇願されて、それ以来、両親に夢の話をしなくなった。
妹には話したんだけど、なんか変な会話になった。
「ホンキ?、それとも冗談?、からかってる?」
「本当になりたいと言ったら?」
「いいんじゃない?、夢は自由だし」
「じゃ、おまえは賛成なんだね」
「親には言わないで、とりあえず自分の実力を試してみれば?」
「分かった。でも大学でどんな友達が出来るかもわからないから、暫くは様子をみて隠しておきたいと思う。そして、ある飲み会のカラオケで歌って、みんなをアッ!と驚かしたいと思う」
そう、言ったら、
「みんな、驚くよ、きっと」
そう、言っていた。
それがさ、バイトで忙しくて、友達もあまり出来なくて。
話をする友達はいるけど、僕の夢を話したいほど仲良くなった友達はいなかった。歌の練習を始めたらバイトばかりって訳にもいかないと思い、貯金の目標を百万円にしたから、遊びの誘いとかを全部断っていたのも原因だと思う。
そして、実はバイト先で仲良くなった友達数人と、今度カラオケに行くことになった。それで、ついに、僕は神秘のベールを脱ごうと思う。
みんなを僕の歌唱で驚かすんだ。
きっと、その後はアンコールで僕のコンサートになるかもしれない。
それでも、僕は歌ってあげるつもりだ。
そのカラオケをした翌日から、僕はバイトも大学も休んでいる。
妹だけには電話をして、カラオケの店の出来事を話したら、
「でしょーね」
そう言った。分かっていたようだった。
「で、まだ歌手になりたい?」
そんなことを聞いてきた。
「なりたい」
「おっ、メンタル、すご。がんばりな」
「うっせー」
確かに僕の歌声はみんなを驚かした。
みんなを笑顔にした。
僕が歌うほど盛り上がり、僕は大喝采を浴びた。
僕の歌に泣きながら「天才だ」って言ってくれた人もいた。
でも、そのあとに、
「吉本の芸人になる夢でもあるの?」
そんなふうに聞かれたんだ。
「こんなに酷い音痴は生まれて初めて聞いた。すごい!、今年一、笑った、最高だよおまえは」
褒められた。大絶賛された。
僕は、音痴らしい。それもかなり酷いらしい。
それでも、あきらめたくない。歌が大好きだから。
夢へ!
夢へ!
夢へ!
これこそが本当の夢物語。
どん底の地べたから、羽ばたいてやる。
僕は歌手になる。
そして、みんなにも夢を見てもらうんだ。
その努力は惜しまない。
さぁ、行くよ、
夢へ!
『元気かな』
俺は娘を虐待したという罪を着せられて、おまえを、娘を奪われた。
離れ離れに暮らして一年も過ぎた。
会いたい。
俺は赤ちゃんの頃から溺愛した。
この子のためなら何でもすると思った。
例えそれが殺人でも。
仕事から帰ったら思いきり抱きしめて、匂いを嗅ぎまくって嫌がるのを押さえつけてキスをしまくった。
おまえは母親に捨てられた子だったが、俺の愛をいっぱい受けけ止めて、ヤンチャでわ
がままな女に成長した。
油断すると、他の男に色目を使うようになり、俺はほとんど家に閉じ込めるようになった。娘を奪われたくなかった。
そして、娘を監視するため、俺も仕事を辞めて、家に閉じこもった。
お金も無いから買い物にも行けず、食べるものも無くなって、娘と俺はどんどん痩せていった。
ある日、連絡が繋がらないと母の妹である叔母さんが家に来た。
俺は妻と離婚した寂しさの穴を、娘で埋めようとしていると言われた。
それは娘が可哀想で、これは虐待だとも言われた。
このまま娘を俺のそばに置いておくのは俺にも良くないと言われ、娘は叔母さんが育てると言って奪って行った。
あんなに愛していたのに、虐待の罪を着せられ、娘を奪われ、俺は半年ぐらい泣き続けた。
でも、きちんと働いて規則正しい生活が出来るようになったら、娘を返してもいいと言われて、バイトをやってみる決意をした。
そして、娘を奪われてから1年後。
娘と再会できることになった。
数カ月、様子をみて、大丈夫だと思ったら、帰してもいいとまで言われた。
ああ、おまえは、元気かな。
そう思っただけで涙が溢れた。
電車を乗り継いで、叔母の家まで行った、
玄関のドアホンを鳴らした。
おまえの喜ぶ声が聞こえた気がした。
玄関に灯りがつく。
カギを外す音がして、扉がゆっくりと開いた。
僅かな隙間から、おまえが飛び出して来た。
俺は娘を抱きしめた。
娘も暴れるように喜んでくれた。
思わず娘とキスをした。
娘は激しく舌を使う。
俺が恥ずかしくなるほどに。
「フローレンス・マーガレット・ジュリエット・アントワネット・マリリン‼️」
久しぶりに娘の本名を叫んだ。
娘の興奮が最高潮に達して、オシッコを漏らしていた。
いい歳をして、まだ子供のようである。
娘は、マルチーズ犬のまだ4才。
もう少し、私のそばで、一緒に遊んでほしい。
おまえが望むなら、男の子も紹介するけれど、血統書付きのイケメンの金持ち限定で探してやる。
今度の再会は3ヶ月後に決まった。
きっとその時は、おまえを連れて家に帰る。
それからの3ヶ月の間、毎日おまえで頭はいっぱいだった。
「元気かな」
そうつぶやくと、おまえの顔を思い出す。
男も用意する?
イヤだなぁ。
この年でおじいちゃんか?
俺はいつまで、元気かな。
おまえのひ孫のひ孫まで、ずっと元気で暮らせるように、きちんと就職も考えようかな。
さあ、がんがるぞー‼️
『遠い約束』
「ねぇ母さん、今度、またベイスターズが優勝したら、みんなでハワイに行こう?」
「郵便局の定額貯金がひとつ満期がくるから、それで行く?」
「いいねえ、今年の強さは本物だから2年連続もありそうだよ、来年の冬はハワイ旅行になるよ、きっと」
「そう言いながら、また38年もかかったりして〜」
「母さん、そう言う不吉なことは言わないで!」
ベイスターズは去年、日本一になった。
しかし、優勝したわけではない。
あれから今年で27年目。
母さんの言った38年ぶりは前回の優勝した時のインターバル。
それにかなり近づいている。
そして、約束した母さんは去年に亡くなった。
なんて遠い約束を僕はしたんだろうか。
もう、叶うことのない約束になっちまった。
だけど、27年前の約束は無理だけど、一昨年、バウアー投手の入団のニュースを聞いて、ベイスターズに優勝マジックが点灯したら、横浜スタジアムに応援に行こうって約束をした。
その年に母さんの大変な病気が分かったから、何かの目標が欲しかったんだ。
もちろん優勝できず、去年の7月にはなくなつた。だから去年の日本一も知らない。
今年、優勝マジックが点灯したら、遠い横浜まで旅行するつもりだ。
今では入場券を買うのも大変な人気チームになったから、横浜スタジアムには入れないかもしれない。それでも、関内駅で降りて、あの球場のまわりの独特の興奮を感じたいんだ。母の写真と一緒に。
ちなみに僕はベイスターズファンだけど、母さんはジャイアンツファン。なのに、プロ野球を観戦するとベイスターズをいつも応援してた。
「なんで子供の頃から大好きなジャイアンツを応援しないの?」
そんなふうに聞いたことがある。そしたら、
「ちゃんとジャイアンツを応援してるよ。でもね、ベイスターズが勝つと、あんたがめちゃくちゃ大喜びするから、なんか見てるとベイスターズを応援しているの、これって私が悪いの?」
「悪くない。悪くない。応援、ありがとうございます✨」
今年もジャイアンツは強そう。
どっちを応援するのかな。
きっと、ベイスターズだよね。
この優勝マジックが点灯したら横浜スタジアムに応援しに行くという約束が、遠い約束になるまえに、リーグ優勝してほしいな。
「かっとばせー、つつごー!」
【終わり】
『フラワー』
ここは田舎のさびれた繁華街の端っこで、密やかにやっているスナックです。
オーナー兼ママの花絵さんと、源氏名「フラワー」でこの店に拾って貰った私の二人で頑張ってやっているお店です。
私の本名は、花咲葉菜、はなさきはな。58才。もうすぐ還暦です。
ママの本名は、岩山勝海、いわやまかつみ。46才。干支は同じです。
店の名前は「はな」。
ママは子供の頃から名前を見て男の子に間違われることが多かったらしいのです。宝塚の男役が似合いそうな高身長で濃い顔をしているので、何となく想像は出来てしまう。
そこで可愛い名前の店を持ちたくて「はな」というスナックを始めたらしい。それに歌が上手なのでカラオケを歌いたかったのでカラオケ設備のあるスナックを10年前に格安で購入したと言っていました。都会のホステス時代に資産家の老人と結婚して、10年も立たないうちに死んじゃって、資産をそれなりに貰って、自分の田舎に帰って来たらしいのです。
今から5年前、死ぬ場所を探してこの田舎に流れてきた私を諭して、ここで働けって言ってくれた命の恩人。12才も若いけど、性格は男らしくて面倒見の良い姉御肌。
小さなお店ですが、花絵ママの歌声と、私の占いでそこそこ繁盛はしていました。
私の占いは自己流でほぼ詐欺のレベルですが、占いが好きで、手相の本は何冊も読んでいて、タロットカードも好きで、占いの真似っこをしてキャバ嬢時代は少し人気がありました。
まぁ、私を口説こうと来店する殿方はほとんどいないので、私は店の隅で、花絵さん狙いの客の暇つぶしと仕事や家庭の愚痴を占うフリをしながら聞く係です。
最近は人生相談のような感じの若い女性のお客もいて、その女性狙いの男性も来られて、さびれた田舎の繁華街のお店としては、別世界の雰囲気で夜ごと盛り上がっていました。
ある夜、41才の細身で地味だけど装飾品や服は高価そうな物を見に付けた綺麗な女性が私の占い目的でスナック「はな」に来られました。
友達に紹介されたと言われましたが、その友達の名前は言われなかった。
そして、結婚相手に不安があるのでその結婚をしてもいいのか、やめた方がいいのか、それを占って欲しいとのお願いでした。
こういうときは、背中を押してほしい方と、踏ん切りがつかないのでハッキリと別れろって言ってほしい方がいる。分かるのは、占いに来られた時点で自分の中の結論は出来ていて、あとはその根拠がほしいだけなのです。それを私は間違わずに伝えてあげなければならないのです。
テクニックとしては、質問を何個かします。
この反応と答えから感情を読み取ります。
結論から話しますが、私は判断を間違えました。
女性は明らかに結婚を嫌がっていました。断る口実が欲しかったはずです。
だから、お互いが不幸になるので別れられたらその方がいいと言いました。
そう言うとオドオドしだして、
「私は結婚したいのです、しなくては駄目なんです。不幸になるとか言わないで下さい」
そんた風に言って号泣するのです。
はてな?
なのです。絶対に結婚は嫌がっているはずなのに、結婚しないといけないと言う。つまり私に結婚しろって背中を押してほしかったようなのです。
よく分かりませんが、いろんな事情があるのでしょう。
彼女が帰ったあとで気づいたのですが、ダリアの花の刺繍がされた白いハンカチを置き忘れて帰らたのです。
そして1週間後、来客の一人が妙なことを言い出したのです。
ある資産家の老人が介護に来ていた女性と再婚したら、その翌日に亡くなったらしいのです。遺書があり、子どもたちではなく妻に全財産を渡したいと書かれていたそうなのです。
その家の庭には大量のダリアが育てられていて、別名、ダリア屋敷とも言われているらしいのです。
そこで、あのダリアの刺繍のハンカチを思い出しました。
私の知らない登場人物がいる。
そして、私の客だったあの女性が噂の人なら、大変な事件かもしれないと思いました。
明日はお店をお休みして、確かめに行こうと思う。
「フラワー、もう犯人が誰かも、動機も、理由も、分かっているんでしょ?」
「たぶん、ぜんぶ」
「あんたは、わかっちゃうんだよね、もしかしたら、あんたの昔の活躍を知っていて、この店にあの女性は来たのかもしれないわね、だって、念押しするみたいにハンカチを置いて帰ったから」
「なんで、ここにいることが分かったのかな?」
「まあ、あんたの大事だった人の田舎なんだから、探すのはそんなに難しくないよ、探偵にでも依頼すればすぐよ」
私の過去も、事件の真相も詳しくは今は語りたくありません。
明日は早朝から出かけるので、今夜は早めに仕事を終えて、早く眠ろうと思います。
また会う日まで。
【終わり】