旅舟

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5/18/2024, 4:03:32 PM

題名『マルチバースの世界』
(裏テーマ・恋物語)


「なんで?」
「ごめんね、でも3ヶ月らしい」
「じぁ、一緒にハロウィン楽しめないの?」
「うん」
 そのあと彼女は泣いた。
 
 僕の余命はあと90日。何も治療をしなければ。それを病院で聞いた時は冷静だった。
 でも恋人である彼女に話し、ああ泣かれると現実なんだなぁ〜って思って胸が苦しくなった。
 やっぱり大好きな人と別れるのは辛い。
 大切な家族と会えなくなるのも辛い。
 まして、この意識が消えて戻って来れないのは恐怖でしかない。

 僕は子供の頃から眠るのが怖かった。意識が途絶えるのが怖かったんだ。それは死だから。
 
 そう、人は約3万回の死の練習として眠り、やがて本番を迎える。なのに僕はまだ1万回も練習してない。
 
 そんな時だ。
 病院の待合室で変な老人に会った。
 その場のベンチに偶然、隣同士に座っただけだけど話しかけられて一緒に喫茶店に行った。

「マルチバースを信じるかい?」
 最初にそう聞かれたんだ。
「スパイダーマンとか映画の世界なら」
 そう答えたら、
「興味があるならこのあと、ついてきてくれ」

 理由がわからなかったし、宗教とか詐欺とか認知症もありえたけど僕は直感的に信じてしまった。どうせ死ぬ運命だし怖いものも守るものもなかった、彼女以外は。

 理論物理学の世界ではマルチバースは必然になりつつあるんだって言うんだ。つまり宇宙がいっぱい存在してるって。天動説が地動説に変わったように常識が変わる事になると言う。1つのこの世界と思っている空間が他にもあるとしたら行きたくないかって聞いてきた。
 行く方法を知っていると。
 僕に話しかけたのは、僕が死ぬからだ。
 違う世界へ行けても時間や空間は安定してないから僕たちが生きている場所に戻れない可能性が高いらしい。

「僕と一緒にマルチバースの世界に行って下さい」
 そうプロポーズしたいとも思った。
 たくさんの宇宙をめぐる二人の恋物語。
 彼女となら幸せだ。

 そう思ったけれど。

 彼女はすぐに別の彼氏を作っていた。
 死ぬ彼氏に寄り添いって私には耐えられないと振られた。

 だから、僕は両親を高級なお寿司屋さんに連れてゆき、孝行してから旅立つつもりだ。

 マルチバースの世界へ。
 生きるために。
 そして、新しい恋物語を探して。笑

5/17/2024, 1:13:54 PM

題名『肝試し』
(裏テーマ・真夜中)


「本当にやるの?」
「やるよ」
「面白そうじゃん」
「二人は家を抜け出せるの?」
「大丈夫」
「怖いならやめれば」
「やる。三人でやろう!」

 まだ小学生だった僕ら三人組はある遊びを思いついた。
 肝試し大会だ。まぁ大会と言っても3人だけ。
 真夜中に家を抜け出して、団地の近くにある墓地を一周して帰ることを思いついた。

 話の発端はショーちゃんがケンちゃんを怖がりだとからかったからだ。否定するケンちゃんにショーちゃんが証拠を見せろと言い出してフミヤどうしたらいい?って僕に聞いてきたから、冗談のつもりで話したらやることになってしまった。

 僕は怖がりだ。肝試しとかとんでもない。
 冷静で大人の振りはしてるけど夜はトイレに行くのにお母さんを起こして付いてきてもらうくらいの怖がりだ。
 二人もあの様子じゃ相当の怖がりだ。
 でも男同士だと友達でもつい見栄を張ってしまうんだよなぁ。

 約束の時間は真夜中の0時。
 墓地の近くの自動販売機の前だ。

 僕は出かける時に母親に見つかって行けなかったと言い訳まで考えていたけど、みんな早く眠ってスムーズに出れてしまう。
 僕が一番かと思ったらショーちゃんが居た。
「おっす」
「おっす」
少し遅れてケンちゃんも来た。
「おっす」
 みんな懐中電灯を持ってきていた。

「一人一人で行こうぜ」
 ショーちゃんがここでも見栄を張る
「いいぜ、そうしよう」
 ケンちゃんも強がる。
「一人一人じゃ怖がってるかも分かんないよ、待ってる姿を誰かに見られるのもヤバそうだし、三人でサッと回って早く帰ろうよ」
 僕は一人だけは嫌だったので強めに言ったら
「それでいいよ」
「早く終わらそうぜ」
 二人もすぐに賛同した。

 月は満月に近くてそこそこ明るかった。
 墓地は明かりがなくかなり暗かった。
 思ったより背の高い雑草が多くて歩きづらかった。
「墓地の中の外側を回るだけでいいよね」
 僕が確認のためそう言うと二人はうなずくだけだった。

 カサカサっと前の草が鳴った気がした。
 するとケンちゃんが
「佐藤がここでヘビを見たらしい」
 嫌な情報をぶっこんでくる。
 ケンちゃんは良くも悪くも馬鹿で素直な子。
「隣のクラスの高橋、ここでオバケを見たってよ」
 そう言うショーちゃんは負けず嫌い。でも友情に厚い男。
「そこの木の棒で突きながら歩こうよ」
 少し成績の良かった僕は空気が読めるまとめ役を演じていた。

 木の棒をケンちゃんが振り回しながら先頭を歩いていたら、急に立ち止まって身構えて、ある一点を凝視した。
 物凄く光る球体が二つ浮いている。
「にゃーーーー!!!」
 黒猫のような猫?が怒ったような声を出して逃げていった。

 驚いて声を出しそうになったがセーフ、二人を見たら、ほっとしたせいか3人とも笑顔になって笑ってた。

 あと少しで終わり。
 するとショーちゃんが
「大した事なかったな、またやる?」
 そう言った。
「うん、いいよ」
 ケンちゃんもそう答えた。
「じゃ、帰ろうか」
 僕がそう言って三人で墓地を振り返ったら、墓地の奥に灯りが見えた。誰も居ないはずなのにと思って見ていたら、その灯りが、スルスルっとこちらに向かってきた。
「おかしくない?」
「変だね」
「人魂ってことないよね?」
 そんなことを言っていたら、
 それは加速して僕らを追いかけてきた。

「逃げろー!」
 僕らは散り散りに家に逃げ帰った。

 翌日、少し話をしたけど、みんなあの夜のことは話すのを避けていた。

 三人の誰かが、幽霊かもしれないから。



 

5/16/2024, 2:55:39 PM

題名『少し怖い話』
(裏テーマ・愛があれば何でもできる?)


 私の村にはこんな話しがある。
 満月の夜には、誰かに会って話しかけられても決して振り向いてはいけない。もしも女の子の声が聞こえたら全力で逃げなさい。
 
 遠い昔、生まれてすぐ両親や祖父母も流行り病で亡くした女の子が親戚の家で育てられていたけれど、その家の子供たちに虐められていたらしいのです。
 少し離れたお兄さんとお姉さんでしたが、母親がその子のせいでお金がないと言っては二人の兄妹にいつも我慢をさせていた。
 母親の言葉をそのまま信じてしまった二人は女の子が憎かったのです。
 育ての母親は根は優しい人でした。でも物事を深く考えず話してしまうところがあって、子供が我儘なので適当に理由を作って我慢させたかったのですが失敗でした。
 
 育ての父親も優しい人でした。
 でも、女の子が少し大きくなると時々、嫌な目つきをするようになりました。

 ある日、母親は兄弟に不幸があり二人の子供を連れて実家に帰りました。その頃は母親も気づくほど虐めは激しくて三人の仲が悪いことを両親は知っていたので女の子を残したのです。

 その日は大きな満月が見える夜でした。
 兄姉がいないので久しぶりにのんびりと父親と夕食を食べたり、一人あやとりをして遊んだりして過ごしました。そして居間でうとうと眠りについたまでは幸せだったのかもしれません。
 だけど、このあと女の子は育ての父親に襲われました。
 抵抗はしたけれど恐怖心でほとんど震えているだけだったと言うことです。
 終わったあと、父親は言ったらしいのです。
「お前は一生、育ててもらってる恩を忘れちゃいけないよ、愛があれば何でもできるだろ。これからもよろしくな」
 女の子は聞いた。
「愛があれば何でもできる?」
「するもんだ。母ちゃんには言うなよ」
 
 そんなことがあった翌朝、女の子は村の大きな川に浮かんでいたらしい。
 
 それから、満月の夜に川の側を歩くと女の子の声がするらしい。
 気になって振り向くと川の方から聞こえるらしい。

「ねぇ、愛があれば何でもできる?」

 そして迷って答えないと、

「じゃあ、いっしょに死んでーーー!!!」

 川から子供の手がスルスルスルと伸びてきて足を掴んで川に引きずり込んでしまうらしい。

 
 女の子は、父親の言いなりになりたくなかった。
 それは自分に愛が無いからで、自分は悪い人間だと思って死んだのでした。
 そして愛のある人を見つけて、その愛を少し貰おうとしていたのでした。
 でも本当は、愛が無いから愛されない、つまり、普通に愛されたかっただけだと思います。

 とても純粋な女の子でした。
 その名は「純」でした。

5/15/2024, 8:50:14 PM

題名『介護生活』
(裏テーマ・後悔)


 昔、テレビドラマで主人公の先生が生徒に言ってた。
「後悔してるのか、中途半端に努力もしないでダラダラ生きてるからだ。一生懸命に生きろ、後悔しない人生にしろ!」
 先生も生徒も泣いてた。つられて私も泣いた。
 そして思った。
 努力しないから後悔して辛いのかってね。
 だから私は全力で介護した。
 祖父母に両親と私の人生は介護だらけ。

 そしてみんな死んじゃった。
 私は今なぜだか後悔だらけです。
 なんで?
 一生懸命に努力して生きてなかったって言うの?

 気づけば私ももう年金をもらっている
 今はパートもして暮らしてる。
 介護ばかりで何もない人生だ。
 もちろん若い頃は恋もした。結婚を考えた人もいる。でも後悔したくなかったから家族を選んだ。
 それを本当は後悔してるのかもしれない。

 実はヘルパーの資格があったので年齢は気になったけど訪問介護の仕事に思い切って応募した。採用された。
 長い家族の介護をしてきたので経験が活かせるとも思った。年齢からくる疲れは心配したけど後悔したくなかったから。

 そこでの経験は新鮮だった。
 主には自宅で療養してる利用者さんを清潔にしてあげることが多いのですが、いろんな家に行くといろんな家庭があることが分かる。何も事件?のない家はなかった。
 特に利用者さんがボケていないと淋しさからいろいろ家庭の秘密を教えてくれた。大抵は家族の悪口だった。
 私の家族も私のいない所では私の悪口を言っていたんだろうと確信してた。

 ある裕福そうな家の高泉繁子さんという高齢の女性は余命が少なかった。それでもご主人の悪口は辛辣だった。
 認知が進み、今はそういう方の多い施設にそのおばあさんに言わせれば押し込んでいるらしい。

 どうも写真が原因で大喧嘩をしたらしい。ご主人がひどくボケるまえで認知症がわかってからすぐの頃、ある昔の1枚の写真ばかり見てるから何かって聞いて見せてって言っても無視したらしい。
 腹が立って、捨ててやろろうと思って探したことがあって、そしたら見つかって夫婦になって初めて大声で怒られて頬まで叩かれたそうで、何年立っても怒りが収まらないようでした。

 お嫁さんがあとでこっそり教えてくれたのは、その写真は義母と結婚する前の義父と当時付き合っていた恋人との写真だったみたい。認知症ですべて忘れると思った時に妻には悪いけどどうしても忘れたくないと思うのは写真の頃の自分で、今でも後悔してるって言われてたらしい。でも義母とも幸せだったので結婚生活には後悔はないって言っていたらしい。
 そして教えてもらって初めて気づいた。
 義父はこの家の婿養子でだから義母がこの家で一番威張っていることもお嫁さんから聞いた。

 ある日、訪問介護の新人の成瀬をその利用者さんに紹介したら、またご主人の悪口になり、ご主人の旧姓が成瀬翔琉、なるせかける
…と教えてもらった。

 それから3ヶ月後にその高齢の女性は亡くなられた。

 それから半年後に私は別の施設で働くことになっていた。
 認知症の方を多く面倒見てる施設です。

 その中に認知症がかなり進んだ高齢の男性がいた。いつも写真を持っていて離さないのでスタッフがとても困っていた。

「ねぇ、写真を見せてー、素敵な女性ね」
「はい」
 嬉しそうにニヤリと笑った。
「お名前は?」
「高林さなえちゃん」
 大きな声で言ったあと首を大きくひねった。
「白川雪乃じゃない?」
 嬉しそうにコクリとうなづいた。
「好きだったの?」
 少年のように照れて頭を搔いていた。

 先輩のスタッフが私を見つけて大声で言った。
「紹介するの忘れていたけど、あそこに立っているのは今日から此処で働くことになった新人の白川雪乃さんです。みなさん優しくしてあげてねー、そんから白川、そばにいるんなら高泉翔琉さんはこれから入浴だからお風呂の方に連れてって」

 そう、私たちは数十年ぶりに再会した。
 
 いっぱい後悔はある。
 でも、私たちは頑張って懸命に生きた。
 後悔はあってもやり直したいとは思わない。
 ただひとつ。
 後悔すると思う…生き方だけは選択したくない。
 これからは。
 あなたのそばにいたかった。

5/14/2024, 4:25:43 PM

題名『スター』
(裏テーマ・風に身をまかせ)


 あれは何年前だろう。
 私はまだ高校生だった。
 友達がアイドルに憧れていて、あるグループのオーディションを受けるのに不安だから一緒に受けて欲しいと懇願された。
 私は歌も下手だし踊れないしリズム感も無いから恥はかきたくないと固く断った。なのに勝手に私の分も応募してて、オーディションの日になかば強制的に付き添わされて参加した。

 あれだけ憧れて毎日のように練習して努力してた友達は早々とあっけなく落ちたのに、私はなぜか残っていった。
 顔もスタイルも友達の方が綺麗なのにドブスの寸胴のペチャパイの私を運命はもてあそんでいるようだった。

 そして研究生として合格した。
「君はやる気がないところか面白い。でも、本気になったらもっと面白そうだから残した」
 審査員のどこかで見たような顔の人がそんたことを言っていた。

 そして練習の日々が始まった。
 私は基本やる気のないグータラが幸せの人だけど、負けず嫌いは筋金入りだった。ライバルに勝ちたいわけじゃなかったけど、負けて見下す目で彼女たちに見られるのが腹が立って本気になっていった。

 そしたら、グループに入ってデビューすることが決まった。いつの間にか同期で最初のデビューだった。
 
 ドブスだとコンプレックスを抱いていた顔も、メイクさんに言わせると化粧映えする顔だそうだ。本当かよって思ったけれど、プロのメイクさんの技術はすごい。私が完全にニセモノに変身していた。少し自分が好きになった。

 デビューするとSNSで少し話題になった。でも私は目も耳もふさいだ。どうせ悪口だ。わかってる。見たら傷つく。

 ある日、グループのプロデューサーに呼び出され、怒られるのかとドキドキして会いに行ったら、
「今度の新曲のセンター、お願いね」
 そう言われた。
 私は理解できずに返事もしないで立ちすくんでいた。ポカリと口を開けたまま。

 それからは記憶が曖昧だ。
 あまりに凄まじかった。歌は記録的な大ヒットになった。
 私はめちゃくちゃテレビに呼ばれるようになり、いつしかグループの顔のように言われていた。

 やったことのないドラマの仕事も頼まれた。映画にも出演したら話題となり女優としていろんな賞ももらった。

 グループとしてもヒットを連発して、下手だった歌もファンの中では歌も踊りも上手な子だと言われていた。

 人生は不思議だ。
 あの日、オーディションの日、友達を失いたくないから私は風に身をまかせる覚悟をした。
 なのに、その友達とは仕事が忙しくてあまり付き合えなくなっていた。たまにメールのやり取りはあるけど、めっちゃ気を遣われていることが伝わるから、私も気を遣うようになった。
 
 恋人は欲しいし、実は有名なタレントさんからもアプローチはあるけど、みんな断っている。
 私は私を応援してくれる人が一番大切だから裏切りたくなかった。風に身をまかせてって言ったけど、その風はファンの人が作ってくれた風だから。

 今、ギターの練習も始めた。
 作詞作曲をして、いつか私の想いを歌にして届けたい。

 女優も続けたい。
 演技も面白いけど、一番はいろんな人と会えることが嬉しい。
 協力して、作品を作り上げるプロセスが楽しいし感動する。

 風が止んで、ズッコケて?落ちるまで飛び続ける。
 本気の私を私が、見たいから。 

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