旅舟

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4/23/2024, 12:43:20 PM

詩『鯨幕(くじらまく)』
(裏テーマ・今日の心模様)


一日、誰とも会わない夜は
天井の木目が動きだす
そろそろと、ゆらゆらと、にょきにょきと
襲ってこぬかとにらめっこ

未来が不安で決心しても
朝陽が心にノックする
こんこんこん、どんどんどん、ガチャガチャ
やっぱり無理だとひざを抱く

こんなにあなたを愛してるのに
垣根を作って遠ざかる
すーすーと、ぴゅーぴゅーと、すきま風
何にも無かった振りをする

タータンチェックのハートの模様
いつしか汚れて真っ黒だ
しくしくと、ぽつぽつと、ぽろぽろと
鼻水、さそって決壊だ

わたしはいつでも死んでもいいの
今日の心模様は、くじら幕
ゆび鉄砲、こめかみに、そしてバキューン
死体じゃないのが…かわいそう

誰かがわたしを思っていても
いつも心模様は、くじら幕
ゆび鉄砲、こめかみに、そしてバキューン
生まれ変われたなら、いいのにね

4/22/2024, 12:43:49 PM

詩『ばけねこ、こわい?』
(裏テーマ・たとえ間違いだったとしても)


 ここはノラ猫が集まる集会所
 ずっと空き家になってる二階建て

 今日は長老が落語を聞かせる
 落語嫌いの若者も
 正座ができない年寄りも
 みんなあくびをしながら待っていた

 長くてもつれた毛並みを隠し
 藍色の着物姿で登場して
 ぼろぼろの扇子をぱちぱちさせて
 座布団に座ると
 あっという間にひっくり返る
 仰向けにバタン!

「おーぉ!、だ、だいじょぶなのか?」
 そんな声も聞こえぬかのように
 長老は座り直し、話し始める

 ときそば
 じゅげむ
 まんじゅう、こわい

 上手な子守唄のように
 全員がぐっすり眠ってしまった

 長老だけが
 あそこを間違えた、ここも失敗したと
 大反省会
 まぁ、こんな寄席はやめようかなと
 決意したころ、
 古い友人の人間が家に入って来た

 白髪頭の長老の友人は動物専門の探偵だ

 行方不明の子猫の探索のために
 こうやってときどき協力している
 報酬は大量のマタタビだ
 みんなが集まるのも、それ目当てだ

 「いたいた、ありがと、助かった」
 探偵は三毛猫の子猫の首をつかみ
 ひょいと持ち上げ出ていった

 さぁ、起こして、
 みんなでマタタビのお祭りだ!

 こっそり人間と協力して
 仲間の猫たちを騙す
 たとえ間違いだったとしても
 汚れ仕事は年寄りの仕事
 そして、誰かに引き継いでもらう
 長老はそう考えていた
 
 それから、もうひとつ
 長老には秘密にしてることがある

 私は飼い猫だったんだ
 幼い女の子のご主人様を
 かばって身代わり死んだのさ
 そしたら神様が
 その子が二十歳になるまでは
 この屋敷の中だけは
 生きてるように暮らせるように
 くてくれたのさ

 この家は昔の長老の家
 その子は引っ越した
 長老を殺した犯人が両親を殺したから

 実はずっと待っている
 長老は逃げ続ける犯人が
 いつかここに来ると思って

 そう、化け猫になって
 襲うことだけを夢見てる

 「あ~ぁ、よく眠った、終わったの?」
 一匹の猫のお兄ちゃんが起きて
 それにつられて
 つきつぎ他の猫も起き出した

 「よーし、ここにマタタビはあるぞー!」
 その声に歓声があがり
 ノラ猫たちの祭りは朝まで続いた

4/21/2024, 1:48:25 PM

詩『時速25キロ』
(裏テーマ・雫)


 暗い宇宙に飛び出せば、落ちる、落ちる、落っこちる。真っ逆さまに、ぐんぐんと、意志の無いように、情けなく。
 仲間に気づき、見渡すが、首が痛くなるばかり。しかし、無数の、何万?の、運命を感じてホッとする。ひとりじゃないって暖かい。ひとりじゃないって幸せだ。
 約2グラム、時速25キロの流れ星。水の惑星だ。
 そのスピードに慣れてゆき、飛び出たふるさと見返せば、そこには新たな弟たちが、不安そうに下を見る。震える足を少しずつ、ずらしてまえに進んでく。そして目をつむり、思い切って飛び出して、落ちてく弟たちの惑星は、キラキラと、夢見るように、光って見えた。
 人生、半ばを、過ぎたなら、下の明かりに気づくんだ。赤や黄色や青やオレンジ、あれが、東京という街か。まるで天竺(てんじく)、夢の国、願いを叶える、魔法の世界。
 僕らは、選ばれた、ソルジャーなのか、あそこで、何が、できるのだろうか、何を、すべきなのか、いや、何もできない。僕らは死ぬんだ。生きるって、一瞬だけの夢なのかな。
 その時、強い風が吹き、仲間の半分は飛ばされた。流され、漆黒の山へと、向かってく。あらがい、泣いてる子供もいたが、どうすることも、できなくて、僕も泣いて、眺めてた。
 そろそろ、落ちて、ぶつかって、僕らはきっと、死んじゃうね。
痛いのだろうか、苦しいだろうか、生き延びることは、できないのだろうか。
 その時、生きてる生物が、手を差し出して、僕らを、受け止めていた。僕らの仲間の、死体を見つめ、美味しそうに?、ほほえんだ。そして、僕らに、名前をつけた、
「ねぇ、ママ、雨って、どこから来るの?」
 僕らは、雫は、雨?らしい。
 そして、悲しい、葬儀のように、東京の街を、濡らしてく。まるで地球が泣いて、淋しがって、いるように。
 落ちて、落ちて、スピード、あげて、真っ逆さまに、落ちてゆく。
 パシャ、パシャ、パシャ。
 どうやら、僕は、アスファルト、首都高とやらに、ぶつかって、いろんなタイヤに、踏まれてる。意識が、しだいに、遠くなる。初恋の彼女を、思い出す。
 流れて、古びた、景色が見える。
 遠くの高い建物の上に、大きな看板があった。
 あの看板は、子供の頃に下をのぞいて、そして見た看板だった。女神のように美しい、女優という笑顔がこちらを見てる。
 僕の初恋だ。

 やっと会えた。
 死んでく僕はいつか、雨水から、嬉し涙の、雫になった。

4/20/2024, 12:51:03 PM

詩『探偵、金内二悲惨の始まるまえ』
(かねないに、ひさん)
(裏テーマ・何もいらない)


 何もいらない。
 私の息子はいつもこう。
 いらない、いらない、何もいらない。

 金田一陽燦(きんだいち、はるあき)、15才。
 父親似でイケメンで頭脳明晰。
 
 幼い頃から何も言わなくても、して欲しいことをする赤ちゃんだった。私が困った顔を見せるだけで泣きやんだ。特に私の困った顔は効果抜群だった。

 保育園に通い出してからは気味が悪いほど大人の心を見抜いていた。
「あの先生は言ってることと感情が違うから気をつけてね」
「あの叔父さんは借金のお願いだから貸したくなかったら話をそらして逃げること」
「あのお兄さんはお母さんのことが好きみたいだよ」

 小学生になると大人しくなった。
 成績はいつも満点だから、たまに95点だと驚いた。
 あるとき息子から聞かれた。
「お母さん、相手がして欲しいことと自分がしたいこと、どっちを優先すべきかなぁ。相手を無視すると1日罪悪感が残って落ち込むけど、気を遣ったり助けてばかりいると疲れる」

 そう、疲れたのかもしれない。
 長い不登校の時間が来る。

 中学生のときに、従兄弟の内二耕助(うちふ、こうすけ)が東京から転校してきて息子に寄り添ってくれて状況が変わった。息子も耕助ちゃんといつも一緒に学校に行くようになった。
 まぁ、息子は耕助ちゃんを嫌ってはいたんだけど拒絶はしなかった。意外と名コンビのようだった。
 そうそう、耕助ちゃんは息子のことを「ひさん」と呼んでいた。たぶん陽燦(はるあき)を呼びやすいように変えたのでしょう。

 私の家はお金がない。
 実は義理の祖父母の介護や施設の費用などで貯蓄もほとんど無い。介護のために仕事もあまりできないことも理由の1つ。
 息子は幼い頃から手伝ってはくれてた。
 そんな家の内情をよく知るから、
「何もいらない」
 息子は今日もそう言う。

 その息子があるとき、
「何もいらない、こともない」
 そう言った。

 どうしてもみんなで旅行に行きたいと言うのだ。
 こんなわがままは初めてだったので嬉しかった。もちろん費用を考えたら安請け合いはできないけれど、私は絶対に行くと決めていたのでした。家族に相談するまえに。

 そして、この旅行が息子を探偵にするキッカケになるのですが、この話はまたの機会にしましょう。

 そして息子が旅行をしたいと言った理由は半年後には分かりました。

 義理の祖母が亡くなりました。
 なんとなく息子は分かっいたようでした。
 予感でもなく霊感でもなく、統計学のような日々の変化で、心が感じるようでした。

 どんな大人になるのか心配ではありますが、優しくて温かい探偵になると思っています。

4/19/2024, 1:38:50 PM

詩『恩返し』
(裏テーマ・もしも未来を見えるなら)


「チキショー、チキショー、」
 60代の男はホームレスに間違えられそうな薄汚れた上下の服を着ていた。意外とたくましい腕にはスコップがあった。ガサッ、ガサッ、真夜中の山の奥で土を掘っていた。
「そういえば、あのインチキ超能力者め、騙しやがって、あれがケチの付き始めだ!」

 それは土曜日のことだった。
 いつもの借金取りから逃げて酒場にいた。高齢の母親の年金をくすねてお金はあったのだった。そのまま借金の一部として返済しても良かったのだが焼け石に水だ。明日は競馬で大きなレースがあり、その馬券が買いたかったのだ。

 そんな似たような連中も多いこの安酒場は、前祝いとでも言いたげにみんな騒いで明日のレースを予想していた。
 そんなとき、男の横に座ってきた小綺麗で少し年上のジェントルマンとでも表現したくなる老紳士がいた。その老紳士は内緒話でもするように耳元で囁いた。
「これは秘密ですが私は超能力があるんです。未来が見えるんです。実はそれで稼いで生活してます。ばれないように少額ずつ賭けるんです」
 男はすぐに思った。これは詐欺だ、詐欺師だ。どうやって逃げようか?と。
「ちなみに、もしも未来を見えるなら、明日のレースはどの馬を買うといいんだい?」
 信じてなくても知りたくなるのがギャンブル好きだ。
 老紳士はすぐに答えず、コップのお酒をグィっと飲み干してから話しだした。
「明日、私はあなたに助けてもらうのでお礼に教えてあげましょう」
 そう言うと耳元でぼそぼそと数字を言って店を出て行った。
 ぼうと見ていて、はっと我に返った。
「あっ、チキショー、金を払わず出て行きやがった、やられたー」

 男は翌日、嘘だと思いながら馬券を買った。飲み代を残して全額賭けた。そして昨日と同じ酒場に行く途中で借金取りに見つかり拘束される。いつもより強引で、怖い目つきの若者と二人だった。どうやら男の親の土地を無理やり奪おうと計画しているようだった。相手が一人になったときに男は隙を見て逃げようとしたが若い方にナイフで脅され揉み合いになり逆に刺してしまう。もう一人は車も置いて逃げてくれた。
 
「チキショー、人殺しになっちまった」
 男は借金取りの男の車で山まで遺体を運んで埋めて、なんとか事件を無かったことにしようとしたのだった。もちろん組織に追われることを考えると早く遠い場所に逃げることも考えたが、警察が事件に気づかなければ組織は事件を表沙汰にしないような気がしたのだ。少なくても時間稼ぎはできると。

 ガサッ、ガサッ、ガキッ!
 土を掘っていたらスコップが何かに当たった。

 2日後の新聞の片隅に小さな記事が出ていた。
 20年前に行方不明になっていた資産家の70歳の男の骨が山で発見されたと書かれていた。
 さらに小さく無職の男が殺人で自首して逮捕されたと書かれていた。

 そう、あのあと、男の馬券は大当たりしていて、その手続きなどを終えてから男は自首したのであった。

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