詩『ばけねこ、こわい?』
(裏テーマ・たとえ間違いだったとしても)
ここはノラ猫が集まる集会所
ずっと空き家になってる二階建て
今日は長老が落語を聞かせる
落語嫌いの若者も
正座ができない年寄りも
みんなあくびをしながら待っていた
長くてもつれた毛並みを隠し
藍色の着物姿で登場して
ぼろぼろの扇子をぱちぱちさせて
座布団に座ると
あっという間にひっくり返る
仰向けにバタン!
「おーぉ!、だ、だいじょぶなのか?」
そんな声も聞こえぬかのように
長老は座り直し、話し始める
ときそば
じゅげむ
まんじゅう、こわい
上手な子守唄のように
全員がぐっすり眠ってしまった
長老だけが
あそこを間違えた、ここも失敗したと
大反省会
まぁ、こんな寄席はやめようかなと
決意したころ、
古い友人の人間が家に入って来た
白髪頭の長老の友人は動物専門の探偵だ
行方不明の子猫の探索のために
こうやってときどき協力している
報酬は大量のマタタビだ
みんなが集まるのも、それ目当てだ
「いたいた、ありがと、助かった」
探偵は三毛猫の子猫の首をつかみ
ひょいと持ち上げ出ていった
さぁ、起こして、
みんなでマタタビのお祭りだ!
こっそり人間と協力して
仲間の猫たちを騙す
たとえ間違いだったとしても
汚れ仕事は年寄りの仕事
そして、誰かに引き継いでもらう
長老はそう考えていた
それから、もうひとつ
長老には秘密にしてることがある
私は飼い猫だったんだ
幼い女の子のご主人様を
かばって身代わり死んだのさ
そしたら神様が
その子が二十歳になるまでは
この屋敷の中だけは
生きてるように暮らせるように
くてくれたのさ
この家は昔の長老の家
その子は引っ越した
長老を殺した犯人が両親を殺したから
実はずっと待っている
長老は逃げ続ける犯人が
いつかここに来ると思って
そう、化け猫になって
襲うことだけを夢見てる
「あ~ぁ、よく眠った、終わったの?」
一匹の猫のお兄ちゃんが起きて
それにつられて
つきつぎ他の猫も起き出した
「よーし、ここにマタタビはあるぞー!」
その声に歓声があがり
ノラ猫たちの祭りは朝まで続いた
4/22/2024, 12:43:49 PM