詩『恩返し』
(裏テーマ・もしも未来を見えるなら)
「チキショー、チキショー、」
60代の男はホームレスに間違えられそうな薄汚れた上下の服を着ていた。意外とたくましい腕にはスコップがあった。ガサッ、ガサッ、真夜中の山の奥で土を掘っていた。
「そういえば、あのインチキ超能力者め、騙しやがって、あれがケチの付き始めだ!」
それは土曜日のことだった。
いつもの借金取りから逃げて酒場にいた。高齢の母親の年金をくすねてお金はあったのだった。そのまま借金の一部として返済しても良かったのだが焼け石に水だ。明日は競馬で大きなレースがあり、その馬券が買いたかったのだ。
そんな似たような連中も多いこの安酒場は、前祝いとでも言いたげにみんな騒いで明日のレースを予想していた。
そんなとき、男の横に座ってきた小綺麗で少し年上のジェントルマンとでも表現したくなる老紳士がいた。その老紳士は内緒話でもするように耳元で囁いた。
「これは秘密ですが私は超能力があるんです。未来が見えるんです。実はそれで稼いで生活してます。ばれないように少額ずつ賭けるんです」
男はすぐに思った。これは詐欺だ、詐欺師だ。どうやって逃げようか?と。
「ちなみに、もしも未来を見えるなら、明日のレースはどの馬を買うといいんだい?」
信じてなくても知りたくなるのがギャンブル好きだ。
老紳士はすぐに答えず、コップのお酒をグィっと飲み干してから話しだした。
「明日、私はあなたに助けてもらうのでお礼に教えてあげましょう」
そう言うと耳元でぼそぼそと数字を言って店を出て行った。
ぼうと見ていて、はっと我に返った。
「あっ、チキショー、金を払わず出て行きやがった、やられたー」
男は翌日、嘘だと思いながら馬券を買った。飲み代を残して全額賭けた。そして昨日と同じ酒場に行く途中で借金取りに見つかり拘束される。いつもより強引で、怖い目つきの若者と二人だった。どうやら男の親の土地を無理やり奪おうと計画しているようだった。相手が一人になったときに男は隙を見て逃げようとしたが若い方にナイフで脅され揉み合いになり逆に刺してしまう。もう一人は車も置いて逃げてくれた。
「チキショー、人殺しになっちまった」
男は借金取りの男の車で山まで遺体を運んで埋めて、なんとか事件を無かったことにしようとしたのだった。もちろん組織に追われることを考えると早く遠い場所に逃げることも考えたが、警察が事件に気づかなければ組織は事件を表沙汰にしないような気がしたのだ。少なくても時間稼ぎはできると。
ガサッ、ガサッ、ガキッ!
土を掘っていたらスコップが何かに当たった。
2日後の新聞の片隅に小さな記事が出ていた。
20年前に行方不明になっていた資産家の70歳の男の骨が山で発見されたと書かれていた。
さらに小さく無職の男が殺人で自首して逮捕されたと書かれていた。
そう、あのあと、男の馬券は大当たりしていて、その手続きなどを終えてから男は自首したのであった。
4/19/2024, 1:38:50 PM