旅舟

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4/10/2024, 12:08:12 PM

詩『病院の桜』
(裏テーマ・春爛漫)


あなたがいない初めての春です
去年は病院の駐車場で桜を見ました
押す車椅子さえ
長く座れなくなっていたけれど
私がどうしても見せたくて
連れて行った

あなたはにっこりと笑って
「きれーじゃね!」って言うと
疲れたように目をつむって眠った
私は残された時間に焦っていて
あの頃はいろいろ無理をさせていた
奇跡が続いて
死なないんじゃないかって
本気で考えてた

スマホに
その時の写真があります
頭をななめ前に傾け
眠そうな目をしています
後ろには桜が写っています

あなたはピンク色の服が好きでした
他の写真もみんなピンクばかりです
実は、亡くなって
写真を見ることができませんでした
やっと見ました
どの写真も笑顔とピンク色です
まるで「春爛漫」です

今年は私の検査で病院へ来ました
駐車場の桜は満開でした
なんとなく選んだ今日の服装は
ピンク色のトレーナーです
私はもう少し長く生きたいのです
服を握りしめ
桜に願掛けをしていました
ごめんと呟きながら

4/9/2024, 2:42:15 PM

詩『入学式』
(裏テーマ・誰よりも、ずっと)


入学式。
期待と不安に押し潰されそうな会場には、
スマホをこちらに向けた親たちがいた。

同じ新入生には、
ニコニコしてる者や
ガッポーズして親のカメラに写ろうとする者
ひどく緊張して俯きつまづいてる者
早くも友達を作っている者
ひとり言を喋ってる者

先生も様々だ。
笑ってる、睨んでる、苛々してる、無表情、
年齢も幅広い。

私は「誰よりも、ずっと」努力した。
逆に言えば、ギリギリ入れた学校だった。
底辺からの出発だ。

みんなが頭が良くて優秀に見えて、
どんどん私は小さくなって、
教室に行った頃には、ほとんど消えていた。

ぱっ!と視界が明るくなる瞬間があった。

衝撃だった。

人はそれを、ひと目惚れと言うだろう。
どうでもいい。
でも、私はがんばる意味を手に入れた。

誰よりも、ずっと。
そう誓った。

未来の記念日にしたい四月だった。
暖かだけど、少し風の強い、
君の笑顔が似合う、晴れた日だった。

4/8/2024, 9:48:54 PM

詩『親孝行』
(裏テーマ・これからも、ずっと)


私は、これからも、ずっと。
そう、見慣れた部屋で時を過ごし、
老いて、死ぬ。

引きこもり?を始めたときに、
覚悟はしていた。

人生を捨てたのだ。
心臓は動いているが、
自殺したのだ。

これからも、ずっと、
親に迷惑をかけて心配もされるだろう。

生きていることだけが、
親孝行だから。

世間的には無能で無駄な、
生ゴミたろう。

親孝行が終わったら、
とっとと始末する。

まるで「ごめんね」と言うように、
その時はヒゲくらい剃って。

4/7/2024, 11:06:00 PM

詩『河川敷』


昔、おじいちゃんと河川敷を散歩した。
沈む夕日を見ながら、
「夕日はまるで青春の涙と思わんか?」
急にそんなことを聞かれた。

燃え尽きることも出来ず、
やり残したこともいっぱいあって、
濃く朱色に染まるのは、
泣いて腫らした目のようじゃ。

「どうしたん? じっちゃん」
「詩人みたいじゃ」
おじいちゃんは耳を触りながら、
聞こえない振りをして歩きだした。
…照れたんだろうか?

通夜の深夜。
そんな思い出を話したら盛り上がった。
みんなが眠りだした頃に祖母が、
僕に近寄って話しかけてきた。

「さっきの話しは聞いたことがある」
そう言ったあと祖母が教えてくれた。
それは少し長かった。

おじいちゃんの夢の話。
戦争や家族のためにあきらめたこと。
それなのに子供の死もあった。
沈む夕日を見て、
悔しくなったらしい。
自分の命も長くないと思ってたから。

そして、
自分と同じ夢を追うあんたが、
夕日みたいに眩しく感じたんだと言う。
青春とはあきらめないこと。
どこかのドラマのセリフっぽいが、
おじいちゃんの大好きだった言葉らしい。

「がんばるんよ」
「あきらめなきゃ死ぬまで青春だから」
「これも、おじいちゃんの言葉」
「あー見えてキザだったんよね。ふふ」

翌日から沈む夕日を見ると、
脳内の映像に、
字幕スーパーが出るようになった。
でっかく、
「青春」だ。
あきらめるな!の意味だろう。

4/6/2024, 11:34:01 AM

詩『オンナともだち』


 彼女は職場が同じで仕事以外ではほとんど話さなかった。

 ある夜、送別会で隣の席に座ったことがあって、お酒のせいもあったのか会話が盛り上がった。
 彼女は明るい陽気なキャラに映っていたけど、働いては合わないと言って仕事を辞める彼氏に振り回されて悩んでいた。だけど本気で彼氏を愛しているみたいで、結婚も考えていたようだった。その席で親しさを感じてくれたのか、けっこうオープンに相談されてしまった。
 僕は老け顔ではしゃげない陰キャラだけど、気が弱くて人の話を止められなくて最後まで真剣に聞いてしまうクセがあったんだ。
 それに友達も少なくて口は固い。

 それから何度か二人で仕事帰りにお酒を飲んだ。
 彼女の話しはいつも彼氏の愚痴だ。それを言うために誘っているんだ。女友達は仕事関係の人しか会える人はいないらしく、なんとなく幸せな女性を演じてるみたいだった。

 ふと思った。
 僕はどんなポジションなんだろうって。
 都合のいい生ゴミ入れのバケツなのか?ってね。仕事の関係者に会ってるところを見られたり、彼氏に知られたら大丈夫なのかも心配だったが、これは彼女に笑われてしまった。彼女いわく全然大丈夫なのだそうだ。
 
 ある、どしゃぶりの夜に急に彼女から呼び出しがあった。

 正直、深夜に駆けつける付き合いでもないと思ったけれど、胸騒ぎがして車を走らせた。
 
 指定の場所に近づくとパトカーと人だかりがあった。
 高いビルから誰かが飛び降りたようだと噂する声を、彼女に会うまえに聞いてしまった。
 車を停めて、現場らしき場所の方へ傘をさしてゆっくり近づくと、遠くに彼女の好きな暖色のコートを見つけた。
 その時はもう雨はやんでいた。

 彼女は魂の抜けた人形のようだった。
 泣くわけでもなく、冷静だったけれど、僕を見つけた途端に泣きだした。
 
 二日前、また彼氏と喧嘩をして、どうもその時に僕の存在を話したそうだ。
 そのあと部屋から出ていった彼氏は帰らなくなったそうだ。スマホも電源が切られ連絡が取れなくなっていたらしい。

 彼女が警察の事情聴取を終えて、自宅に帰るために僕の車に乗ったとき彼女がぽつりと言ったのだ。
「さっきは泣いたけど、実は悲しくないんだよね。んー、ホッとしてるのかもしれない。あなたには言わなかったけど暴力も振るわれていたしね。でもあいつは苦しんで死んだのに、あいつのために泣いてあげられないなんて薄情だよね。私って怖い女かもね。」
 そう言って笑う彼女に、僕は何も言えなかった。

 自宅まで送った別れ際、辺りはもう薄明るい朝になっていた。
 
「ごめんね、無理に呼んで。有り難う。」
 彼女がそい言い残してアパートの階段を上がろうとしたとき、思わず腕をつかんでしまった。

「本当に大丈夫?」
「う、ん。」
 彼女…、いや、君の目を見つめると、真剣にまっすぐに見つめると、はっきりと答えがわかった。

 僕は君に恋してる。
 きっと、君も僕に、そんな気がした。

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