五月雨

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3/27/2024, 2:35:31 AM

「やっほー、久しぶりだな。会いに来てやったよ、雨。」

「久しぶりだね、いつき。1年ぶりだね。」

いつきが笑顔で話しかけてくる。
久しぶりに会うけれど何一つ変わってなくて、
少し笑ってしまう。

「いやぁ、1月にも会いに来ようと思ってたんだけど、
急遽予定入っちゃって来れなくなっちゃったんだよねぇ。」

「いいよ全然。むしろ忙しいのに会いに来てくれてありがとう。俺の方からも会いに行けたら良かったんだけど…。」

そう言うと、いつきは全然気にしてないかのようにカバンの中を漁り始める。

「いつき、これ好きだったよな?持ってきたんだけど。」

そう言いながらお菓子を取り出す。
俺の好きなお菓子。

「いつもありがとう。毎回お菓子持ってきてくれて。」

そう言うと、いつきは笑顔で俺の前にお菓子を置いた。

「あ、そうそう。聞いてくれよ、雨。最近な……」

いつきは自分の近況を楽しそうに話し始めた。
時々、愚痴が入っているが、とても楽しそうに話す
いつきの話を聞くのが昔から好きだった。

ふと、いつきが黙り込んだ後で、ぽつぽつと話し始めた。

「……雨が生きてたら、今頃何してたんだろうなぁ。
理系で賢かったし、コンピュータに強かったから、
情報系とかに進んでたのかなぁ。」

「そうかもね。でももう死んじゃってるからそんなこと
考えたって意味ないよ笑」

俺は自嘲するように笑った。

「雨と、もっとたくさん話したかったことあったし、
やりたいこともあったのになぁ……」

「俺もいつきともっと色んなことしたかったし、
もっと生きたかったよ。」


俺のお墓の前で泣いているいつきを見て、
俺も泣いてしまった。


でもね、そんなのただのないものねだりに過ぎないんだよ。


人間は何かを失った時に、失ったものの大きさに気付く
って言うけれど、


とても皮肉だよね。

ないものになってからじゃ、遅いっていうのにね。





『ないものねだり』

3/25/2024, 3:27:21 PM

「おかえり、いつき。今日の晩御飯は
いつきが大好きなオムライスよ」

家に帰ると、母が台所から顔を出して言う。
別に俺はそんなにオムライスが好きなわけではない。
子供の頃は好きだったが、高校生になった今、
オムライスで喜ぶほど子供ではない。

何度か母にそう伝えたことはあるが、「そう?」なんて
言ってあまり相手にされなかったため、今では指摘するのも面倒になり、流すことにしている。

「いつきー、ご飯できたわよー」

リビングに行くと母がちょうど料理をテーブルに
運び終えていた。
ふたりがテーブルにつく。

「いただきます。」

スプーンをとり、オムライスを口に運ぶ。

「どう?美味しい?」

別にそんなに好きじゃないのに、
俺を見る目はとても優しさと愛情に溢れていて。

子供の頃から好きだったオムライスを作ってくれているのは、
ただ喜んで欲しいという親の愛情なのだろうか、
なんて考えてしまう。

そう思うとなんだか照れくさくなってきて。

誤魔化すようにオムライスを食べながら言った。


「美味しいよ。俺、お母さんの作るオムライス好きだよ。」

「そう、よかった。」


母はきっと勘違いをしている。



俺はオムライスが好きなんじゃなくて、お母さんが
俺のためを想って作ってくれるご飯が好きなんだよ。



『好きじゃないのに』

3/24/2024, 12:51:21 PM

[今日の天気です。今日は全国的に晴れますが、ところにより雨となるでしょう。最高気温は……]


雨が降っている。

朝の天気予報でそう言われたはずなのに、
残酷にも現実は予報通りにはいかないらしい。

全国的に晴れじゃなかったのかよ、なんて吐き捨てるように呟いた言葉は、雨の音にかき消されていった。

田舎の農家の家に生まれ育った俺は、子供の頃から
「雨が降っているのは、優しい神様が私たちのために雨を
降らせてくださっているからだ」と教えられた。

別に俺自身は神様を信じている訳では無いが、もしそうなら
神様は俺の涙を隠すために雨を降らせてくれたのだろうか。

雨のおかげか、周りには人ひとりいない。
目を瞑り、天を仰ぐ。
傘も持たずに出てきた俺に容赦なく雨は降り注ぐ。
でも、涙を誤魔化してくれる雨は今の俺にとっては好都合で。
俺は膝から崩れ落ちるようにその場に蹲り、
声をあげて泣いてしまった。
俺の声と雨の音だけが響いている。

雨が降ったあとに太陽の光がさして、虹が出るように、
きっとまた立ち上がれるから。


だから、今だけはどうか心ゆくまで泣かせて欲しい。


雨はそんな俺を、俺の声を隠すように更に強く降り始めた。




『ところにより雨』

3/22/2024, 6:47:39 AM

満天の星空の下に青年が二人、
芝生に寝転んで空を見上げていた。
他に人は居ない。二人だけがそこにいる。

ふたりだけの、秘密の場所。

「やっぱここから見る星は綺麗だねぇ」
「そうだな」

二人はそれきり言葉を交わさない。
でも気まずい空気が流れている訳でもなくて。
むしろ、隣にいるだけで安心できるような、
そんな空気が流れている。

「ねぇ、いつき」

1人の青年がふと口を開く。

「なんだよ」
「いつきはさ、これでよかったの?」

いつきと呼ばれた青年は、何を言っているのか分からないという顔で青年を見た。

「何の話だよ」
「だって、今日で終わっちゃうんだよ?世界。
最期は恋人とか、大切な人と過ごさなくてよかったの?
それか好きなところに行くとかさ」

青年は心配しながらも少しからかうように問いかけてきた。しかし、その表情は不安そうで、どこか寂しそうに見える。
いつきはため息をついたあと、めんどくさそうに答えた。

「俺に恋人はいねぇし、お前以上に最期に会いたいやつも、ここ以上に最期に来たい場所もねぇよ。言わせんな。」
「……そっか、ならいいや」

青年は安心したような顔をして、微笑む。
青年はそれを見て、恥ずかしそうに顔を逸らす。

ふたりはまた、星を眺める。

「なぁ、れい」
「なぁに、いつき」

「来世でも友達でいような」

「もちろんだよ」




地球最期の刻まで、あと……




『二人ぼっち』

3/21/2024, 5:34:51 AM

俺は、目が覚めた瞬間に「これは夢だ」と気付いた。
大学の寮のベッドで寝ていたはずなのに、何もかもが違うからだ。
目を開けた時に見える景色も、布団の寝心地も、聞こえてくる音も、カレンダーの日付も。
しかし、俺はその全てに覚えがあった。
ここは、間違いなく俺の実家の自室だ。
「いつきー、ご飯できたわよー」
遠くから俺を呼ぶ声に耳を疑う。
もう二度と聞くはずのなかったはずの声だった。
いや、もう二度と聞くことが出来ない声だったから。
布団から飛び起き、声が聞こえたであろうリビングへ向かう。
そこには、テーブルに料理を並べる母の姿があった。
「母さん……?」
「なによ、そんな焦った顔して。」
母は俺を見て、困惑したような顔をしている。
たちまち俺は泣いてしまった。
あぁ、これは夢なんだ。
母さんはもう死んでしまったのに。
当たり前だったこの景色が、もう二度と見れないのだという
現実を突き付けられたような気がして耐えれなかったのだ。
「いつきはほんと昔から泣き虫ねぇ。」
母はそう言いながら俺の頭を撫でてくれた。
昔からそうだ。俺が泣く度に母さんは頭を撫でてくれた。
俺が反抗期の時も、ずっとそばに寄り添ってくれた。
その時にふと思い出した。
ずっと伝えたかったこと。
でも、恥ずかしくて、伝えられずに終わってしまったこと。
言えなかった後悔がずっとあって、ここで伝えたからって、所詮自己満足なのはわかってる。
それでも、どうしても伝えたかった。

あぁ、夢が醒める前に……!


「母さん、俺をここまで育ててくれてありがとう」



『夢が醒める前に』

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