僕は狭い部屋の中にいる。
部屋には僕以外誰もいない。
たったひとりのへや。
その部屋は不思議な部屋だった。
時間になると食事が来る。
食べ終わると食事はいつの間にか片付けられており、
机の上に勉強道具と教材が置いてある。
そして時間になるとゲームや漫画などの娯楽が与えられる。
ここでの生活は、とても楽だ。
時間通りに決められたことをやる。
自分自身で考える必要もなければ、
選択を迫られることも無い。
何も考えずに目の前に出されたものをこなすだけ。
そんなある日、僕は気付いた。
本当にこれで良いのだろうか?
人の敷いたレールの上を歩く人生は
選択をすることもなければ考えることもない。
とても楽なのである。
しかし、だからといってこのまま
このレールの上を走り続けるのはどうなのだろうか?
考えに考えた。
自分自身の頭で。
そしてついに僕は自分の意思で外に出た。
他人の敷いたレールからようやく外れたのだ。
外の世界は広かった。
『狭い部屋』
「暗くなってきたからそろそろお開きにしようか」
カフェの窓から外を見ながら、不意に彼女はそう言った。
彼女は会社の同期であり、俺が想っている相手でもある。
今日は一日中2人で出かけていたが、とても楽しかったためか
空が暗くなっていくのに気が付かなかったらしい。
2人でカフェを出ると、雨が降っていた。
「すごい雨降ってるねぇ。これは止むのを待つよりコンビニに走った方が早いね。」
なんて言いながら走り出そうとする彼女をみて、気づいたら体が動いていた。
「あのっ、 雨が降り止みませんね…!」
『降り止まない雨』
あの人は夕焼けのような紅色
あの人は明け方の空のような桃が入った紫色
あの人は夏の木の葉ような緑色
「あ」という文字は澄んだ空のような空色
「か」という文字はとても綺麗な茜色
「わ」という文字は水彩画のような薄い水色
「ん」という文字は灰色に少し青を混ぜたような不思議な色
どうやらこの色たちが見えるのは共感覚というもので
これがある人は珍しいし
人によっても見え方はちがうから
この世界は僕にしか見えないらしい
それならあなたにはこの世界が
どう見えているのだろう?
僕の世界は君からしたら
カラフルすぎって思うかな
僕の世界の話をしたら
君は信じてくれるかな
もし君が信じてくれるのなら
僕の世界の話をしてみたい
太陽のように
光り輝く黄色の君に
『カラフル』
天気予報です
今日の心模様は曇りのち晴れるでしょう
最高体温は37.4度
最低体温は35.5度
降水確率は100%の予報です
今日は高校生活最後の大会があるため、
日中の体温はとても高くなる予報となっています
熱中症に注意しましょう
また、朝から昼にかけては緊張と不安のため、
天気が安定しないようです
特に、大会が終わる昼過ぎから局地的に雨が降る予報
となっています
ですが、雨がやむと雲ひとつない青空が見れそうです
それでは今日も頑張りましょう
いってらっしゃい
『今日の心模様』
「今日は、皆さんの大切なものの絵を書いてもらいます。」
6時間目の美術の授業中、先生が生徒に向かってそう言った。
お題に則していればなんでもいいらしい。
大切なもの、なんていきなり言われても何も思いつかない。
ためしに周りの人達に何を描くか聞いてみた。
昔買ってもらった飛行機の模型
部屋に飾ってある家族写真
お気に入りの服
部活で使っているシューズ
夏休みの作品で取った賞状……
どれも特別で、大切なことには変わりないだろうが、
何か違う。
じゃあ、僕にとっての[大切なもの]ってなんだろう。
結局思いつかないまま、チャイムが鳴ってしまった。
今日は部活も委員会もないため、いつもの友達と帰る。
友達と、今日の漢字テスト何点だった?とか、今日の数学の
課題だるいよなぁとか、そんな他愛もない話をしながら。
そんな時に、ふと美術のテーマを思い出した。
[大切なもの]
僕にとっての大切なものは、他の人からするととても些細なものなのかもしれない。
それでも自分の中で納得がいくものを見つけたと思う。
これをどうやって絵にしようか。
なんて考えながら、友達と帰った。
僕にとっての[大切なもの]、
それは、[何気ない日常]なのではないか。
僕はその時、そう思ったんだ。
『大切なもの』