五月雨

Open App

「おかえり、いつき。今日の晩御飯は
いつきが大好きなオムライスよ」

家に帰ると、母が台所から顔を出して言う。
別に俺はそんなにオムライスが好きなわけではない。
子供の頃は好きだったが、高校生になった今、
オムライスで喜ぶほど子供ではない。

何度か母にそう伝えたことはあるが、「そう?」なんて
言ってあまり相手にされなかったため、今では指摘するのも面倒になり、流すことにしている。

「いつきー、ご飯できたわよー」

リビングに行くと母がちょうど料理をテーブルに
運び終えていた。
ふたりがテーブルにつく。

「いただきます。」

スプーンをとり、オムライスを口に運ぶ。

「どう?美味しい?」

別にそんなに好きじゃないのに、
俺を見る目はとても優しさと愛情に溢れていて。

子供の頃から好きだったオムライスを作ってくれているのは、
ただ喜んで欲しいという親の愛情なのだろうか、
なんて考えてしまう。

そう思うとなんだか照れくさくなってきて。

誤魔化すようにオムライスを食べながら言った。


「美味しいよ。俺、お母さんの作るオムライス好きだよ。」

「そう、よかった。」


母はきっと勘違いをしている。



俺はオムライスが好きなんじゃなくて、お母さんが
俺のためを想って作ってくれるご飯が好きなんだよ。



『好きじゃないのに』

3/25/2024, 3:27:21 PM