五月雨

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俺は、目が覚めた瞬間に「これは夢だ」と気付いた。
大学の寮のベッドで寝ていたはずなのに、何もかもが違うからだ。
目を開けた時に見える景色も、布団の寝心地も、聞こえてくる音も、カレンダーの日付も。
しかし、俺はその全てに覚えがあった。
ここは、間違いなく俺の実家の自室だ。
「いつきー、ご飯できたわよー」
遠くから俺を呼ぶ声に耳を疑う。
もう二度と聞くはずのなかったはずの声だった。
いや、もう二度と聞くことが出来ない声だったから。
布団から飛び起き、声が聞こえたであろうリビングへ向かう。
そこには、テーブルに料理を並べる母の姿があった。
「母さん……?」
「なによ、そんな焦った顔して。」
母は俺を見て、困惑したような顔をしている。
たちまち俺は泣いてしまった。
あぁ、これは夢なんだ。
母さんはもう死んでしまったのに。
当たり前だったこの景色が、もう二度と見れないのだという
現実を突き付けられたような気がして耐えれなかったのだ。
「いつきはほんと昔から泣き虫ねぇ。」
母はそう言いながら俺の頭を撫でてくれた。
昔からそうだ。俺が泣く度に母さんは頭を撫でてくれた。
俺が反抗期の時も、ずっとそばに寄り添ってくれた。
その時にふと思い出した。
ずっと伝えたかったこと。
でも、恥ずかしくて、伝えられずに終わってしまったこと。
言えなかった後悔がずっとあって、ここで伝えたからって、所詮自己満足なのはわかってる。
それでも、どうしても伝えたかった。

あぁ、夢が醒める前に……!


「母さん、俺をここまで育ててくれてありがとう」



『夢が醒める前に』

3/21/2024, 5:34:51 AM