柔らかい雨が瞼に落ちた
頬を伝って首をなぞる
触れる感覚は柔らかいのに、温度は酷く冷たくて、皮膚をツンと刺す。
やがてその雨粒は垂れていき、学ランに滲んだ
ハラハラと静かに音を立ててそれはやってきた。
数粒が重なりやがて一つの大きな音となり、俺の日常の背景となる。
ぼーっと止みそうにない雨を眺めていると、隣から柔らかい声が聞こえてきた。そう…この子はまるでこの雨みたいなんだ。
「ねぇねぇみっくん、あの蜘蛛の巣、雨粒がついて綺麗だよ。」
こう言って俺の目を見て、花がほころんだように微笑む彼女の名前は、内田 華(うちだ はな)だ。そして、俺の好きな人だ。現在付き合っている。
素敵な笑顔をする人だ。
「ホントだ。今日は米粒にも満たないような小さな雨粒だから、蜘蛛の巣についている雨粒も繊細な感じがするね。」
「…ふふっ」
「なに。」
「どこでそんな色んな言葉覚えてきたの?いつも単純明快な単語しか使わないし、何なら擬音ばっかのみっくんが笑」
「…俺は元々こうだよ」
「うっそだぁ!」
「嘘じゃない。」
「まぁそういうことにしておいてあげるよ〜笑いつのまにか自分のこと{俺}って言うようになっちゃって!そうだよねーずっと{僕}じゃ恥ずかしいもんね〜!」
突然だが俺の名前は東野 海斗(とうの かいと)だ。
お分かりいただけるだろうか?彼女が呼んでいる「みっくん」という呼び名にはかすりもしない名前だ。
だが俺はみっくんということになっている。
みっくんというのはそもそも誰なのか、という話になるよな。
それは、内田さんの彼氏だ。
ん?俺が彼氏なんじゃないのかって?そうだよ。俺も内田さんの彼氏だ。だけどみっくんも内田さんの彼氏だ。
厳密にいうと、俺が内田さんの彼氏なわけではない。
みっくんとしての俺が、内田さんの彼氏なのだ。
それは今日みたいな雨の日。
下校中に道路の片隅で、うずくまって雨に濡れている内田さんがいた。
傘をそっと差し出して、
「こんなところで何してるの?」
と声をかけた。
顔をゆらりと上げた内田さんは、鼻を赤くして目からはしきりに大粒の雨…涙が溢れ出ていた。
そんな彼女を前に、俺も自然と気持ちが沈む。
ついその涙を指で拭ってしまった。
内田さんの顔に触れてしまった…!
なんて思っていると、
内田さんは、
「そばにいて…」
と細々しく呟いた。
不本意ながらも隣に一緒に座り込み、彼女へ傘を差し出しながら、そばにいた。
頭上に降り頻る冷たい雨は毛先へ雫をつくる。
冷たい雨水がズボンに触れ、滲み広がる。
学校はこの話題でもちきりだったから、情報に疎い俺も知っている。
内田さんの彼氏の早見 道翔(はやみ みちと)が、内田さんとの下校中に突っ込んできた自動車から内田さんを庇って亡くなった。
この次の日。内田さんは事があった翌日から、相変わらず普通に登校している。
俺は内田さんを何かと気にかけ、できる限りの事をして寄り添った。
「東野くんは優しいね。」
内田さんからそんなことを言われ、少し照れくさくなる。でも、彼氏の死を悲しんでいる内田さんを前に、迂闊に喜べる気にはならない。
喜んではいけないだろう。
内田さんはやがて、悲しみ、悔しさ、罪悪感、喪失感、俺には到底分かりきれない色んな感情から、俺のことをみっくんだと思い込むようになった。
何度も何度も「俺はみっくんじゃない」と伝えた。
「俺はみっくんじゃない」同じようにまたそう伝えたある時、彼女がただ静かに穏やかに、心が張り裂けそうな笑顔を浮かび上げた。
それは今にも消えてしまいそうで、彼女の腕を咄嗟に掴んだ。呼び止めようと思った。何から止めるんだ?そんなの分からない。分からないけど、今この手を放してしまえば、確実に消える。そう直感的に思ったんだ。
俺は口を開いたが、すぐに力無く閉ざすことになった。
声が出なかったんだ。少しでも音を出したら崩れ散ってしまうような脆さを感じた。
恐怖と緊迫感であふれ、自分が冷や汗でずぶ濡れになっているのに気付いたのは、
「もう、行こっか。みっくん。」
と彼女が花がほころんだような、優しくて親しみのある、愛らしい笑顔で俺に話しかけた時だった。
そんな笑顔は“みっくん”にだけ向ける笑顔。
俺はみっくんじゃないと伝えたのはこれが最後だ。
俺はみっくんだと肯定もしないが、否定することをやめた。
「みっくん」でいることにした。
「くん…みっくん!」
「えっ?」
「何ぼーっとしてんのー!バス来たよ。」
「ああ…」
「?」
内田さんが不思議そうな表情をして俺の顔をじっと見つめる。
その目はどこかあどけなさを感じる。
俺はあくまで内田さんの好きな人の代わりで、その目は俺自身を見ているわけじゃない。
俺を通して「みっくん」を見つめている。
俺は今内田さんの彼氏だけど、俺自身と内田さんでは、いつまでも恋人とは近いようで一番遠い場所にいる。
あぁ、なんでこんなことに。
なんて悲しき、運命なのだろうか。
鋭い眼差しだった
屈強で明らかに俺よりも強い。
それでも、
どうせ高校は終わる
そして人生も終わる
いずれ俺は死ぬし世界も死ぬ時が来る
誰も俺を、俺の生きた世界を、知らない日が来る
だから俺は気にせず好きなようにやりたいことをやる
グーパンで殴ってやった
倍にされた
痛い。
それでもまた明日も、
糞共に頭を下げるような価値はない明日だから
繰り返し俺はそうやって生きていく。
それなのに、
それでも、
小さな事で
俺のしたことは無駄じゃなかったって思える、
明日だから
世界だから。
終わりがくることを、知りながらも
俺は今日を歩む。
【奇跡をもう一度】
常識では思いがけない不思議なできごと。
別にそんなものを求めているわけじゃ無いけど。
まぁそんな奇跡は何かしらの行動をしなければ作り得ない
だから俺は今日、手始めに外に出た。
久しぶりに浴びる日差しに目が眩んだ。
壮大な広い視野と、家の中とは全くどこか違う空気に足がすくみながらも、一歩ずつぽそりと歩いた。
目の前から来る人に不意にビクついた。
空を見上げて深呼吸した
まっすぐ堂々と歩いた
通りかかった人が見えなくなった時、腰が抜けた。
「まあ、車通りは少ないから…大丈夫だな」
あたりが暗くなった
「な、んだ…!?」
月明かりがほんのりと俺の顔を染めた
まるで突如として太陽と月がひっくり返ったみたいだ。
ん、なんだ?
俺は、真っ赤な紅色に染まった金縁の、やけに肌触りがいい羽織りを羽織っていた。
「こんなんいつ…」
「にゃぉおーん」
「猫?」
鳴き声が聞こえて振り向くと、
終わりが見えないほどの数の猫の行列がこちらへ向かってきていた。
「……は?」
俺の頭や眼のどこかしらがイカれてしまったわけではなければ、おそらくその猫たちは二足歩行で、それぞれ日本の繊細な刺繍が施された着物を身に纏い、それは決して派手ではなく、謙虚で嫋やかで、節々の完璧で品性のある所作をしているのだ。
「まるで家臣とか仕人のような…でも猫…。ねこ…?」
頭がおかしくなりそうだ。いや既におかしいのだろうか?自分で自分の状態を疑わずにはいられない。
「さあ若様、今夜の夜風は一段と冷えます。お身体に触ることのないよう、早く屋敷にお戻りください。」
先頭に居た、大半の猫らが着ている着物とはまた別物の格好をし、提灯を持っている黒猫が俺の目をまっすぐ見てそう言った。
その眼は繊細で大きいビー玉みたいな、正真正銘の猫の眼だ。
なんだか…この、心臓がひっくり返りそうな気分はなんだろう
気分が悪い。
こんな変な光景を目の当たりにしてるからか?
「若様?」
「嫌だ。あんな屋敷に戻りたくなど無い。」
!?
なんだ、勝手に言葉が……———
「はし…おい!倉橋!!」
「はいぃい!?」
「授業中に居眠りをするな!」
「え…?」
嘘だろ?どういうことだ?だって俺は不登校で、引きこもりで、ついさっき外に久しぶりに出て…
「全く…」
男は呆れたように鼻をフンと鳴らして教壇へと向かう。
「倉橋くん、居眠りなんて珍しいね。疲れてるの?」
隣の席にいる女の子に声をかけられる。
「え、っと」
誰だ?なんだ?
…
あ、この子は…俺の好きな子だ
ここは教室で…
あの男の人は…社会科の先生で、俺は今授業中だ。
「倉橋くん?」
「あはは…そうかも。疲れてるのかな」
「そっか、あんまり無理しすぎないようにね。」
「うん。ありがとう。」
なんだ、すごい怖いな
夢の錯覚で現実との感覚が曖昧になってる。
あれ…本当に夢なのか?
この感覚はなんなんだ?
忘れていたような
消えていたような
やがて放課後になり家に帰ってからもそんな不思議な気持ちで過ごした。
「散歩でもするかな」
夢で見た、外に出てみて歩いた道は、俺の家の目の前のこの道だ。
普通に歩いてみた。
なんともなかった。
「なんだ、つまんないの」
「若様?」
力強く振り向いた。
すぐ横で話しかけられたようだ
耳をおさえた。
その耳は熱を帯びていた。
「なんなんだよぉ…」
【たそがれ】
何度でも書いた
一心になって書いた
時間を削って書いた
そんな文字は一つのタップ一瞬で全て消えるもの
何だか勝手に、お前が熱意を込めてあくせく書いたものは所詮はこれほどの価値なんだと笑われてるような気持ちになる
きっと多分嫌な空気のせいだ
換気をしよう
ああだめだ…今日は本降りだな。
もうここまできたら沈むだけ沈むしか無い。
今日は何もしないようにしよう。
部屋に行こう
ベットに横になって寝よう
私の部屋が、遠い
無駄に広くて長い廊下には、隅々にシンプルながらも全てにしっとりとした高級感が漂っていて、重い。
気づけばすぐに子供の頃の自分と光景が出てきて、
私の目の前でうろちょろするんだ
見るな 話しかけるな だめだ
そいつの首根っこを引っ張り上げてただただ目の前の光景から目を離して
強く目を瞑る
戻れた
「まただ…薬を変えてもらおう」
ああここまで来てしまった
この廊下は通りたく無い
ピアノに何度も見た肖像画
煩い音が聞こえてくる
思い出のピアノなんて言うには相応しくない。ただの廃れたピアノが視界に映るたび、どうやったってどうにもできない心のわだかまりが呼び覚まされる気がして早足になる。
忘れ去られた豪邸には私ひとり。
こんなにも大きいのに誰にも知られず気に留められず
惨めなもんだよな。
こんな豪邸から出られず終いなところ、逃げられない無力さを強く感じる
私は何がしたいか
何が好きなのか
わからず有耶無耶にして生きてきた
私はだいぶな白黒人間だが、自分に対してはいつも目を逸らしてグレーにもせず見殺しにする。
そうだな、卑怯だよ。
もういい、このままベットへ辿り着けても眠れそうに無い。寝れたとしても悪夢にうなされるだけだろう。そんなのごめんだ。テラスで雨を傍観しながらカプチーノでも飲もうか…
〔ザーーーーー…〕
何だかこんな雨は俺の記憶と一緒に全部何もかも流してくれそうだな
でも、なんだか、確かに目の前にあるはずのこの雨が遠いものに感じる。一線が引かれていて、俺はその線から更に何歩も下がって傍観している気分だ。
やがて俺だけ此処に置いてけぼりにされそうだ。
俺だけ動くことはなく、時は当然のように過ぎ去るから。そして、時が過ぎ去っても、記憶は残り続けるものだから。
…
そういえば庭にくるのも久々だな。
反対の西庭の方にはデカい噴水があったっけかな…
あの噴水ではあいつとよく遊んだな
俺が周りから色々言われているのをいいことに下心満載で媚び売りしに同情してくる奴等がうじゃうじゃいた中、あいつだけはまるで自分がされたかのようにガチギレしてたっけな。
〔ボンボンだからって調子乗ってんだろ。よく知らないけど、あんなやつ性格悪いに決まってる。〕
〔どうせあの冷たい態度に目つき、私たちのこと見下してるのよ。〕
「君のこと知らないから奴等は好き勝手あんなこと言えるんだ!知らないくせにつべこべ言う権利無いでしょ!君も言い返さないの!?」
「俺は…いや私はいいんだ。」
「どうしてよ!いいわけないでしょうに」
「知らないくせにつべこべ言う権利は無いんだろう?それはこちらにも言えることだし、何か言い返したところで大事になれば、逆に私が損害を大きく被ることになるだろう。だから、好きに言わせておけばいいんだ。」
「でも…」
「やり返すなんてもの損以外何も生まないんだ。もうこの話はこれで終わりにさせてくれ」
「……」
ああ、思えばあいつとはあれが最後だったな。
唯一の楽しかった気がする思い出さえ、綺麗なものとして残ることができないなんて。
「ハハっ、我ながら全てが最悪だな…」
父さんと母さんの期待に応えるべく、血筋を重んじて、なんて思ってるうちにいつのまにかそこに俺はいなかったんだな。
惨めだ。
どうしても、惨めだ。
〔ポロッ ツー…
〔ザーーーーーーー————……
編 集 中
文字打つの力尽きたんで一旦保存だけしとく手法
静寂に包まれた部屋。
シンプルデザインが余計に事態を悪化させるだろうか。
いいや、大勢の中で孤独を感じるのが苦痛と同じように、部屋だけ賑やかな中孤独を感じるのはなんとも惨めになる。
だから、
これで。いい。
可哀想って言われるのが多分怖かったんだ。
だからか、旧友に会うのは疲れる
時の流れを突きつけられる気がして
己と比較してしまう気がして
相変わらず目つきの悪い君はいつからか気が強い
あいつは身長がぐんと伸びたらしい
あの人はサッカーの県大会で優勝したらしい
あの子は垢抜けて今じゃクラスのマドンナらしい
私は何も変わらずただこの部屋に居る。この何とも言えない嫌な感情で俺を蝕んでくるこの部屋から、出ることができない。
瞬く間に全てが変わっている気がする。
時の流れがあまりにも早くて
俺はもうどうすることもできなくて
焦って足掻く気力もなくて
大の字になってこの部屋に一人閉じ籠る
落ちぶれた私を見て、「変わったね」
なんて言われたくなくて
鏡に映る自分の眼を見た。
こんな眼、いや…
「こんな顔、してたっけ」
〔ピーンポーン〕
インターホンがなった。
誰も映っていない。
少し考えてから
外に出ると、
玄関ドアに小洒落た小袋がかかっていた
家に入って中を見るとひとつの手紙のようなもの。
横に長方形の白袋を閉じるのに桃色のハートのシールが貼られていた。
典型的な恋文みたいなフォルムに少し笑いが零れた。
手紙の割には随分と厚みがある
「…すごい枚数だな」
中身を読んでみた。
何故かどれだけ席替えをしても、必ず私の席からは貴方の横顔がよく見える私は、とてつもない幸せ者です。近すぎず、遠すぎず。ちょうどいい距離で、ずっと見つめていても気づかれない。いや、貴方だから気付かないのかもしれません。少し視線に疎いです。
そんな貴方の鳥の濡れ羽色のように漆黒な髪の毛。それにどこまでも吸い込まれてしまいそうな時、貴方の席にちょうど当たる西陽で、波打つように煌めき出す。肩につかないくらいの長さの毛先は、いつも四方へと自由に跳ねています。私が貴方の全てを知ったような口を聞いてしまいますが、それがどうにも貴方らしいと感じて、そんな「貴方らしい」それを見つけて、見つめる度、私は心地良い気持ちでいっぱいになります。
貴方の髪の毛を結んだ時にだけ大々的に見える、太すぎなくて骨っぽすぎない首がどうにも色っぽくて。肌が弱い貴方は、少し掻いただけで、うっすら桃色のミミズ腫れになる。それに加えて肌が白い貴方は、それがよく目立つ。よく友達に「それどうした?」「大丈夫そ?腫れてるやん」なんて言われて、少し面倒くさいような顔で「いつものことだから」と返す貴方を見ていた。触れたい。私だけが貴方の全てに触れたい。どうかもっと近くで見つめていたい。
貴方の後ろ姿を静かにずっと、見ていたい。筋トレが趣味で、走ることが楽しいと言う貴方は、無駄のない筋肉がついている。貴方の筋肉も、骨格も、全てに惚れ惚れします。
体を動かすのが好きだと言う貴方の、運動している姿はとてもかっこいいです。そんな体育の時間も、私は相変わらず貴方を意識してどんな時でもちらちらと見てしまっています。もはや貴方のことを考えたり想うことがたくさんの日々で、生活の中心は貴方です。
水を飲んだり髪をかきあげたり、ふとした仕草にもくらくらと目眩がする程にピンク色で胸がいっぱいになります。一口が大きくて、水筒の水を飲むのにもあまりにも男前に飲むものだから口端から水が溢れている時もあるの、私は見てしまっています。腕にはヘアゴムが通してあって、貴方が運動する度チラチラ揺れています。貴方のヘアゴムになりたい人生でした。
私は貴方と関わるなんて機会、全くと言っていい程無いです。程遠い。話したことがほぼ無い。それでもそんなの気にすることなんて無いとでも言うように、気さくでフランクな貴方は、真冬の学年集会の時、カイロを教室に置き忘れた寒がりの私は、どうしようもなく寒くて、静かに震えてました。偶然そんな私の隣に並んでいた貴方は、それに気付き、ジャージのポケットから出した手を私に差し伸べて、「おいで」と言ってきました。大きくて細い指。貴方が隣に並んできただけで脳内は一人お祭り騒ぎをしていたのに、話しかけてもらえるなんて思ってなくて脳内は一気に停止したのをよく覚えています。なんとなく無意識に偏見で、冷たい手かと思っていましたが、ぼけーっとしたままそっと手をのせると、貴方はぎゅっと私の手を握って、そのまま貴方のポケットに入れました。貴方の手は、とても温かかったです。そして小声で、「あったかいっしょ?体温高いんだよね」と言い私の手を終始ぎゅっと握っていました。もしかしてこんな思わせぶり、誰彼構わず他の子にもしてるの!?いくら同性だからってこれは誰でも堕ちちゃうよぉ!?…と思うのと共に、自分の現状にいっぱいいっぱいでした。あまりにもベタな展開に頭が混乱して。
貴方の初めて聞く小声と体温や匂いがよく伝わってきて、壊れてしまうのではと心配になる程心臓が叫んでいました。
貴方と近距離な現実への自覚で涙ぐんで震え上がる程の嬉しさと、手汗かかないかな!?なんて死にそうな思いをしました。おかげさまで私の体温は貴方よりも熱くなりました。
周りと比べて貴方は、声が少し大きいだけでなく通りやすい声をしているので、同じ空間に居るだけで誰かとの話し声がよく聞こえてきます。貴方の話し方は、気ままで、軽い。ハキハキとしている時もあればゆらゆらしている時もある。それに少し低めで落ち着いた声。気づいたら聞き耳を立てて静かに貴方の横顔と一緒に見つめてしまいます。
百面相とは貴方のことだったのでしょうか。
これもまた日々横目で貴方に見惚れているうちに気づいたことで、貴方はクラスメイトへの接し方が分け隔てないです。基本的に自立心もあるし、単独行動が好きなように感じます。どんなグループにでもその輪には入らず、自由で好きなように人と話してたり一人で何かをしていたり。常に一緒にいるような相手を作らない感じですが、仲が良い相手は反応ですぐ分かります。貴方はぱっと見冷静でクールな澄ました印象があります。なのに特定相手と話はじめると、途端に砕け、表情筋豊かになります。
そんな様子を見つけて、可愛くて、面白くて、愛おしくて。むず痒い気持ちになりました。
あの私の左手ポッケ監禁事件からちょくちょく話しかけてくれるようになった貴方。貴方のいたずらな笑顔を向けられると、私はどうにも胸が苦しくなる。
貴方を何かに例えるならば、まるで風のようです。
形こそ無いけれど、確かに在る。一定のことをすることもなく、一定の場所にいることもないです。それは人間関係でも学校生活でも言える何事に対してでもです。
とっても気まぐれで自由。だからこう言われてました。「そんなあいつに腹が立つこともあるけど、真っ直ぐこっちの目を見て、清々しい程に無邪気で眩しい笑顔をするから、何だか憎めない」貴方の周囲の人たちはお手上げだと笑っていました。そして私も微笑みが溢れます。そんな貴方がやっぱり好きだなぁなんて思いながら、「今日もお疲れ様です」なんてその人たちに返しました。
そんな風のように爽快で涼しげな貴方の隣にいれたらなんて夢を厚かましく抱いてしまうのです。
貴方は何とも表せないほどの独特性があって、ある時それが理解されず、突っかかられてしまう場面もクラス内でありましたね。そんな時でも貴方は冷静で淡々としていました。自分の軸や芯を曲げたり変えたりすることなく貫き通す姿勢は、どんな誰よりも凛としていましたよ。
貴方の独特は、変わっているからと言って誰かを傷つけたり迷惑をかけるようなことしません。一人自由に振る舞っています。貴方をこれからも大切にしてほしいなと思いました。
恋は盲目と云いますが、それは真ですね。貴方の魅力にはなんて罪な人なんだと思い知らされます。
貴方はあの日を覚えているでしょうか。
あれは心地良い木漏れ日の土曜日のことでした。私はいつもの土曜日課のように、近くの森林公園で読書をしようと公園に向かっていた時でした。歩きながら、空を見上げて肺を空気でいっぱいにしていると、どこからか聴き覚えのある貴方の声が聞こえてきました。考える間もなく足が先に声の方へと向かっていました。曲がり角の先から聴こえてきました。
尻込みながらも、勇気を振り絞って一思いに曲がってみました。するとそこには、ほんの数メートル先に野良猫と戯れる貴方の姿を見つけました。そんな貴方は、一段と楽しそうで、柔らかくほころんだ、どこか優しい笑みを浮かべていました。そんな姿をそのままずっと傍観していたくもあり、目の前に居る貴方に私を見て欲しくもあり、胸が絞られるように熱くなりました。
すると貴方の白くて大きくて細い手の平に、すっぽりと頭を預けながら、猫が私を横目で見て、「にゃ〜ん」と愛らしい声をかけてきました。そして貴方が私を見ました。
急に目が合って、驚いて咄嗟に隠れてしまいました。
私の心臓の痛い程早く強い鼓動も知らずに「なんで隠れるの」なんて言いながら軽く首を傾げて、耳から落ちた髪の毛がサラサラで、その一瞬は貴方しか見えなくなりました。太陽すらも貴方を照らしていて、より輝かしさが増して、目眩がしました。遂に心臓が止まってしまうかと思いました。
それからなんやかんや声が上擦りながらも貴方と会話をしているうちに、とんでもないことにせっかくだから一緒に遊びに行こうなんてことになって、とりあえずお茶でもしないかなんて言って、数分でつくからと貴方の家に行くことになりました。
『部屋で待ってて』なんて言われて、心の準備もままならず気づいたら貴方の家についていて、貴方の部屋という聖地に放りやられました。咄嗟に正座になって硬直しました。
自分を落ち着けるために深呼吸をしようとしましたが、貴方の匂いをたくさん吸い込んで余計悪化。心臓が嬉しさと緊張とで悲鳴をあげていて意識が飛びそうな程でした。
そのまま貴方の部屋をそっと見渡しました。
シンプルで落ち着いた、
ビターカラー木材の家具で統一されてる。
壁には絵画が飾られている。
脱ぎっぱなしの服が、
床に落ちていたり椅子にかけられている。
物があまりにも少ない。
ベットシーツはぐしゃぐしゃで、
枕は頭の位置にありません。
特に強いこだわりは感じない、
お下がりだとか貰い物とかの思春期は嫌がりそうな子供っぽいデザインのものも普通に使っているところとか
そのまんま貴方の部屋。
この後ことはもう語り出したら四時間、綴り出したら六時間はかかるので、大人しく黙りますね。
地頭が良くて要領が良い貴方は普通にかっこよくて。何だか近寄りがたいです。私も貴方にはなかなか声をかけられなくて、気持ち悪いと言われても仕方がないような、貴方をこっそり見つめ続けることしか…笑
実は結構貴方は多くの人から人気なこと、きっと知らないと思います。
聡い貴方へ。
私の勝手な考えによるものですが、貴方に伝えたいことがあります。
貴方は太陽じゃない。
輝かなくて、
目立たなくて、
熱くなくて、
明るくなくて、
全然いい。
繊細な風、私は好きです。
堂々としていて下さい。
私にとって貴方の全てが美であり、光であり、糧であり、憧れであり、私に最大限の好きを与えてくれる存在です。
貴方の持つ卑屈だったりマイナスな考えや感情、きっとある。それを含め私は貴方のことを愛しています。愛していますなんて重いだろうけど、一回だけ言わせて下さい。
貴方のことを、私は心から愛しています。
貴方が学校に来ない日は楽しくないです。
貴方の姿が見えないだけでこんなにも寂しい気持ちになるなんて。
明日は来るかな、なんて希望を持つ毎日です。
自分が休むのも嫌になりました。貴方に会いたい。いつか会える日が来ると信じて、貴方がいる時、私もいれるように。
周りより少し高い背丈
気取らない
自分の非を受け入れられる
自由で柔軟性のある考え
独特な世界
器用さ
もっっっっと、もっっっっっといっぱい貴方のいいところがあって、好きなところも語り切れない!!無限大です!!!
手紙を読み終わってからしばらく瞬きを繰り返した。
「…………——ふはっ」
「めちゃくちゃ愛されてんじゃん、私」