【たそがれ】
何度でも書いた
一心になって書いた
時間を削って書いた
そんな文字は一つのタップ一瞬で全て消えるもの
何だか勝手に、お前が熱意を込めてあくせく書いたものは所詮はこれほどの価値なんだと笑われてるような気持ちになる
きっと多分嫌な空気のせいだ
換気をしよう
ああだめだ…今日は本降りだな。
もうここまできたら沈むだけ沈むしか無い。
今日は何もしないようにしよう。
部屋に行こう
ベットに横になって寝よう
私の部屋が、遠い
無駄に広くて長い廊下には、隅々にシンプルながらも全てにしっとりとした高級感が漂っていて、重い。
気づけばすぐに子供の頃の自分と光景が出てきて、
私の目の前でうろちょろするんだ
見るな 話しかけるな だめだ
そいつの首根っこを引っ張り上げてただただ目の前の光景から目を離して
強く目を瞑る
戻れた
「まただ…薬を変えてもらおう」
ああここまで来てしまった
この廊下は通りたく無い
ピアノに何度も見た肖像画
煩い音が聞こえてくる
思い出のピアノなんて言うには相応しくない。ただの廃れたピアノが視界に映るたび、どうやったってどうにもできない心のわだかまりが呼び覚まされる気がして早足になる。
忘れ去られた豪邸には私ひとり。
こんなにも大きいのに誰にも知られず気に留められず
惨めなもんだよな。
こんな豪邸から出られず終いなところ、逃げられない無力さを強く感じる
私は何がしたいか
何が好きなのか
わからず有耶無耶にして生きてきた
私はだいぶな白黒人間だが、自分に対してはいつも目を逸らしてグレーにもせず見殺しにする。
そうだな、卑怯だよ。
もういい、このままベットへ辿り着けても眠れそうに無い。寝れたとしても悪夢にうなされるだけだろう。そんなのごめんだ。テラスで雨を傍観しながらカプチーノでも飲もうか…
〔ザーーーーー…〕
何だかこんな雨は俺の記憶と一緒に全部何もかも流してくれそうだな
でも、なんだか、確かに目の前にあるはずのこの雨が遠いものに感じる。一線が引かれていて、俺はその線から更に何歩も下がって傍観している気分だ。
やがて俺だけ此処に置いてけぼりにされそうだ。
俺だけ動くことはなく、時は当然のように過ぎ去るから。そして、時が過ぎ去っても、記憶は残り続けるものだから。
…
そういえば庭にくるのも久々だな。
反対の西庭の方にはデカい噴水があったっけかな…
あの噴水ではあいつとよく遊んだな
俺が周りから色々言われているのをいいことに下心満載で媚び売りしに同情してくる奴等がうじゃうじゃいた中、あいつだけはまるで自分がされたかのようにガチギレしてたっけな。
〔ボンボンだからって調子乗ってんだろそんなの性格悪いに決まってる。〕
〔どうせあの冷たい態度に目つき、私たちのこと絶対見下してるんでしょ。〕
「君のこと知らないから奴等は好き勝手あんなこと言えるんだ!知らないくせにつべこべ言う権利無いでしょ!君も言い返さないの!?」
「俺は…いや私はいいんだ。」
「どうしてよ!いいわけないでしょうに」
「知らないくせにつべこべ言う権利は無いんだろう?それはこちらにも言えることだし、何か言い返したところで大事になれば、逆に私が損害を大きく被ることになるだろう。だから、好きに言わせておけばいいんだ。」
「でも…」
「やり返すなんてもの損以外何も生まないんだ。もうこの話はこれで終わりにさせてくれ」
「……」
ああ、思えばあいつとはあれが最後だったな。
唯一の楽しかった気がする思い出さえ、綺麗なものとして残ることができないなんて。
「ハハっ、我ながら全てが最悪だな…」
父さんと母さんの期待に応えるべく、血筋を重んじて、なんて思ってるうちにいつのまにかそこに俺はいなかったんだな。
惨めだ。
どうしても、惨めだ。
〔ポロッ ツー…
〔ザーーーーーーー————……
10/2/2024, 4:01:15 AM