定まらない

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【奇跡をもう一度】

常識では思いがけない不思議なできごと。

別にそんなものを求めているわけじゃ無いけど。

まぁそんな奇跡は何かしらの行動をしなければ作り得ない

だから俺は今日、手始めに外に出た。

随分久しぶりに浴びる日光。ブルーライトとは違い、燦々とした日差しに目が開かない。

壮大な広い視野と、家の中とは全くどこか違う空気に足がすくみながらも、一歩ずつぽそりと歩いた。

目の前から来る人に不意にビクついた。

空を見上げて深呼吸する

まっすぐ、堂々と歩いた

通りかかった人が見えなくなった時、腰が抜けその場で地面へ崩れ落ちた。

「はぁ…外、怖すぎるだろ……」

外への恐怖、自分の情けなさ、うんざりしてため息をつくと、唐突に辺が暗くなった。

「へっ?な、んだ…!?」

空を見上げると、何もかもを吸収してしまいそうな真っ暗な夜空に、ぽっかりと月が浮かんでいる。
月明かりがほんのりと俺の顔を照らす。

まるで突如として太陽と月がひっくり返ったみたいだ。

「どういうことだ…って、え?これは…?」

キョロキョロと周囲を見渡していると、自身の服装まで変わっていることに気づく。

「上質な…着物だな」

明らかに俺には奢侈な、やけに肌触りがいい羽織りを羽織っていた。

「え…ん?なんだ?なんなんだ?」

こんな状況を理解できるはずもなくただ狼狽えていると、突如としてどこからか猫の鳴き声が聞こえてきた。

「にゃぉおーん」

「猫…?」

鳴き声に振り向けば、終わりが見えないほどの数の猫の行列がこちらへ向かってきていた。

「……は?」

俺の頭や眼のどこかしらがイカれてしまったわけではなければ、おそらくその猫たちは二足歩行で整列を成している。衣服まで着ていて、それぞれ繊細な刺繍が施された着物を身に纏う。視線や手先から足先まで品性のある所作が滲み出る。

「家臣…猫?いや、なんだそれ」

まるで名家なんかの奉公人みたいじゃないか。しかも、猫。ファンタジックにも程がある。
夢でも見ているのか?
頭がおかしくなりそうだ。いや、既におかしいのだろうか?自分で自分の状態を疑わずにはいられない。

「さあ若様、今夜の夜風は一段と冷えます。お身体に触ることのないよう、早く屋敷にお戻りください」

先頭に居た、大半の猫らが着ている着物とはまた別の装い。し、提灯を持つ黒猫が俺の目をまっすぐ見てそう言った。

その眼は綺麗な大きいビー玉みたいな、正真正銘の猫の眼だ。

なんだか…この、心臓がひっくり返りそうな気分はなんだろう。

気分が悪い。

こんな変な光景を目の当たりにしてるからか?

「若様?」

「嫌だ。あんな屋敷に戻りたくなど無い」

!?

なんだ、勝手に言葉が……———





「——はし…おい!倉橋!!」

「……へぁっ!?!?」

「授業中に居眠りをするな!」

「え…?」

嘘だろ?どういうことだ?だって俺は不登校で、引きこもりで、ついさっき外に久しぶりに出て…

「全く…」

男は呆れたように鼻をフンと鳴らして踵を返し、教壇へと向かう。

「倉橋くん、居眠りなんて珍しいね。疲れてるの?」

隣の席にいる女の子に声をかけられる。

「え、っと」

誰だ?なんだ?

………

あ、この子は…隣の席の…
ここは教室で…
あの男の人は…社会科の先生で、俺は今授業中だ。

「倉橋くん?」

「あ、はは…そうかも。疲れてるのかな」

「そっか、あんまり無理しすぎないようにね」

「うん。ありがとう」

なんで、忘れてたんだ。覚えていることをじんわり思い出していく感覚が、すごく恐ろしい。

夢の錯覚で現実との感覚が曖昧になってるなんて。






あれ…本当に夢なのか?


この感覚はなんなんだ?


忘れていたような

消えていたような。







放課後、家に帰ってからもそんな不思議な気持ちで過ごした。


「散歩でも…するかな」

夢で歩いた道は実際にある、家の目の前のこの道だ。


普通に歩いてみる。


……


辺を見渡してみると、別にどうということもなく、なんでもない。


よく分からないまま、なんだかなと思いつつ同時にバカらしく思えてきて、そのまま家へと踵を返すと、

 

「若様?」


力強く振り向いた。

すぐ横で話しかけられたような、確かに聞こえたその声。

耳をおさえた。

その耳は熱を帯びていた。




「な、なんなんだよぉ…」

10/2/2024, 2:16:09 PM