やなまか

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11/8/2023, 11:45:30 AM








先に死んだものに、年に何度か祈りを捧げる日がある。
彼女はすでに居ない両親に手を合わせていた。

「それって届くのか?」
「届くというか…。そうですね」
彼女はふんわりした眉を寄せて言葉を探す。そして手を合わせるように促してきた。
「私は…幸せに元気でやってるから心配しないで、とか伝えています」
「そう、か。そういうもんか」
オレも、何年も前に逝った仲間達を思い浮かべてみる。
(あー…またお前らに会いたいな。ずっと先になるけどな…)
少し静かな時間が流れた後、彼女はこう言った。
「きっとそういうことなんだと思います。あと…幸せにしたい人ができましたって言っときました」
戸惑うオレに、彼女は春の風のように優しく笑った。

11/7/2023, 8:01:30 PM

握り合わせた手に力がこもる。
今日はとても辛いことがあった。
傷付くのが悪いと。お前の苦しみなど大したことではないと。

誰かを悪く言うのは嫌だった。
だけど悲しかったと言えば、その程度でと笑われる。

「逃げればいい」
私は息を呑んで彼を見上げる。
私達は異質だ。私以上に彼が傷付いている。知っていたのに、なんて無様なの。
「戦いなんてなぁバカがやってればいいんだよ…」
ぐっと近づいて、肌と肌が触れあう。
「ま。ちょっと昔はオレも戦いばっかりのバカだったけどな…」

何が彼をそうさせたのだろうか。
じっと見てくる瞳に、私が映っていた。


11/6/2023, 12:55:55 PM

小麦が広がる丘陵に豪奢な館があった。
午後から降りだした霧雨が世界を包んでいる。

領主の息子に無理やり連れてこられて何時間経っただろう。周りには誰もいない。暗がりの部屋で、彼女の心細さは最高潮に達していた。

(このまま街に帰れなかったら…どうしたら…)

コツコツと外から壁が叩かれる。明らかに雨の音ではない。
「まさか」
窓を細く開けると、街に居たはずの彼が壁に身を潜ませていた。 

「よう、囚われのお姫様」
「どうしてこんな雨のなか…」
衣服から布切れを出して彼のびしょ濡れの額を拭いてやる。
「気配が紛れる雨だからこそだぜ。泥棒の基本だろ」
「えっ」
「お前さんのことだ。迷惑が掛かるとか言って普通に連れて行こうとすると怒るだろ」
ハンカチを持つ腕が握られ、そのままふわりと身体が浮く。
「ちと乱暴にいくぜ」
「ちょっ、…待っ」
まるで小麦袋のように肩に担がれてしまった。
(うそ…!!)
「なんか楽しくなって来やがった」
ここ、2階…!!
彼は担いでいる自分の重さを物ともせず走り出した。確かに悲鳴を上げても雨がかき消してくれるのかもしれない。
「でも、こ、怖い…です!」
「スリリングで最高じゃねーか。ははっ!」
先程までの心細さはかき消えて、雨が顔を優しく濡らしてくる。


館には、窓の近くにびしょ濡れとなったハンカチが無造作に落ちていたらしい。



11/5/2023, 11:46:01 AM

戦犯者であり、敗戦者--。
汚名が鉛のように身体に絡み付き、何かを求めることを制している。
彼女を欲望のまま欲せれないのがそのせいであったのなら、なんと重苦しい理不尽な枷だろうか。

彼は義理堅い性格だ。
一度は死を覚悟したのに、もう一介の兵士には戻れない。この手に彼女を抱いて思い切り愛したいのだ。

たまに想像をする。彼女に溺れることができたらどれほど心地いいのだろうか。

ともに堕ちるわけにはいかない。
「らしくねぇな…」
手放すことはできない。足りないのは覚悟なんだ。

11/4/2023, 1:09:19 PM


「哀愁をそそる」
哀愁を「そそる」という言葉が最近はあるのですか??
「誘う」でもなく?


※ ※ ※

彼女が嬉しそうに手作りクッキーを持ってきた。兎とか猫とか熊とかハートとか、めちゃくちゃ可愛く型抜きされている。
いつもは丸い形ばかりなのにどうしたんだ!?

くれるのだとばかり思っていたのだが
「これからお友達と交換するんです」と
にこにこ楽しそうに去っていった。
見せた…だけかい…。

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