やなまか

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10/15/2023, 3:01:05 PM

村の集会所にメルルは呼ばれた。
一部の人は酒盛りを始めていた。
「あの…」
入ったとたんに人達が恐ろしい目付きをしながら、占い師の少女を糾弾し始めた。
「そもそもこの娘の言うことが嘘だったんじゃないか!?」
「そうだ!災いと言うのもこの娘がし仕組んだのではないのか!」
とんでもない濡れ衣だった。だけど…
「この娘の連れている魔物のような男を見たか!どう見ても人間じゃなかった」
それの仲間なんじゃないか。
酒を飲んだあとは本性が出ると言う。だけどこれではあまりにも…

山奥の村は野生に戻りつつある魔物に苦しめられていると聞いた。城で依頼を聞き、メルルはヒムと長い旅の末やってきたのだ。滞在も二週間目。襲撃をピタリと当てると、はじめは感激していた村人も、次第に不審げになっていった。

「黙って聞いてればお前らはよ!」
ヒムが我慢できずに出てきてしまった。当然、村の女達は悲鳴を上げ、子供達は親の後ろに隠れる。泣き出す子もいた。
「ほらみろ!とんでもねぇ目付きだ!おっかねぇ」
「んだとコラ…!!」
「ヒムさん…!」
彼を止めようと、メルルがおどりでる。
そんな彼女を乱暴に抱き寄せると、鋭い目付きで人間達をねめつけた。
「オレ達はなぁ、お前らを助けようと旅をしてきたんだ!わざわざ来るかよこんな所!オレに言えばいいのに、なんで同族のメルルに言うんだよ!!」
オレの好きになった人間はこんな生き物だったのか。
怒りが失望になり、涙に変わった。それがメルルには痛いはど伝わった。
「ヒムさん、言わせてしまってごめんなさい…。私が、私がいけないんです」
「んな訳あるか」
「人は臆病な所もあるんです…」
あなたに、こんな目をさせてしまった。
抱き寄せられたまま、メルルの細い手がヒムの顔を触れ、唇を撫でた。そして頬に流れる涙をぬぐう。
「人の恐怖の増幅を私は知っているのに。私はあなたに頼りきっていたんです」
人を助けたいというわがままをどうか許して。とても優しい人に涙まで流させてしまった。
「お前が望むなら。オレはお前の剣となり、盾となる。言ったろ」
人間を好きになったのは…オレの勝手なのだから。
そっと額同士を合わせる二人に、村人達は立ち入れない空気を感じ押し黙っていた。



10/14/2023, 11:44:42 PM

野菜が高い。そのネタでいこうかと思ったけど。空でも飛ぼうかと思ったけど。

※ ※ ※

大好きな人の大きな手であちこちじっとりと撫でられて、身体中が敏感になったみたい。
首筋に落ちる吐息さえもドキドキと胸を高鳴らせる。
「メルル…」
名前を呼ばれて「ここがいいのか?」と問われ、もう耐えられなかった。
「あっ…」
「そんな声だすな」
出すなと言われても困る…。ヒムのまさぐる手が少しずつ高く上がってくる。ぎしりと乱暴に腰を掴まれたら、もう我慢なんて出来ない。
「もっと、お願いします…っ」
「おねだりが上手いな」
「意地悪しないで下さい」
「してねぇよ。気持ちよくしてやってるだろ」
恋人は、気持ちいいのと痛いの間をふわふわと加減して攻めてくる。
「人間ってのは厄介だな…」
「…んっ…」
口を閉じても声が漏れてしまう。気持ちいいのだ、たまらなく。メルルはそのまま彼の優しい指に身を委ねた。

「まぁ草むしりなんてほどほどにしろ、オレがやってやるから」
「ヒムさんだと切らなくてもいい木やハーブまで切っちゃうじゃないですか!この間はミントだから良かったものの…」
ヒムはお叱りの声を聞き流す。
ミントなどのハーブ類は丈夫だからまた生えてくる。問題は、彼女お気に入りの沈丁花を抜いてしまいそうになったことを言っているのだ。
ヒムは取りあえず、ようやく覚えた力加減を駆使して、彼女の凝り固まった背中を撫でていた。



※ ※ ※


ほぐすという言い方から「もみもみ・ごりごり」するほうが効くと思いがちですが、優しく撫でる方が一番凝りには効くそうな。でも気持ちいいのには抗えないですよねぇ

10/13/2023, 2:21:06 PM


「ヒムさん!!」
髪を振り乱しながら、小柄な彼女が走ってきた。
「メルル」
「ヒムさん、LINE見てくれましたか!」
「みた。見たからここに来たんだ」
こちらの言ったことが理解できなかったのか…彼女は荒く呼吸を繰り返したまま立ち尽くしていた。
折しも霧雨で、髪や肌にしっとりと細かい水滴が這っていく。
時刻は夜の6時。秋の入りでもう少しで辺りは真っ暗だ。オレは部活を終え、ペコペコな腹を抱えて帰宅する所だった。
「傘も射さねぇでよ…」
折り畳み傘を差し出すけど、彼女は無反応のままだ。
彼女は暇さえあれば校舎から少し離れにある用務員さんの部屋に来ていた。無理をいい、こっそりと子猫を預かってもらっていたのだ。自分達が学校に迷い込んだ子猫を拾ってからほんの一週間前になる。
「どうしよう、飼い主が見つからなかったら…保健所に連れて行かれちゃう」
その先を想像したのか、彼女は顔をくしゃくしゃにして小さな子供のように泣き出した。
「嫌です、あんなに、あんなに、小さいのに…!」
彼女は雨の中、わぁわぁ泣き出して。正直どうしたらいいのか分からなかった。
オレはスマホを取り出して少し操作をする。
「スマホ…あるんですね…」
「兄貴のお古なんだけど。ちょっと待ってな」
説明しながら操作できる気がしない。
ぐすぐすと泣く彼女を隣に立たせたままの操作はなんというか…居たたまれない。すごく。
「よし!」
メッセージ送信完了の確認をしたあと、画面の最小化をしてからポケットに戻す。
メルルはなぜか不審げだ。
「私、おやつとかあげてる時、ほんとに癒されて… ヒムさんは、可愛くないんですか」
「は?」
「一緒にヒムさんと猫と遊んで、一緒に学校に残ったり、写真送り合ったり、私すごく嬉しかったのに…」
涙で赤くなった瞳でぶすくれててやっと理解した。薄情だと思われているのだ。
「ち、違うって!掲示板!!」
「けいじ、ばん?」
「そう!町役場のやってる地域の事件や事故とか高齢者の徘徊探しだとかの掲示板に書き込んでたんだって」
まだよく分からないみたいだ。
「ほらよ!」
スマホを操作して、メルルに書き込んだ内容を見せてやる。
「探しています、子猫の飼い主。色は茶色…」
「審査通ればすぐに地域用のショートメール登録してる人間全員に届くから!」

勘違いされたままではまともに居られない気がして、オレは必死に説明していた。
やがて愉快な着信音が鳴る。画面が操作もしていないのに点灯した。メルルの眉を寄せた顔がぱっと明るく照らされる。
地域メールが配信されていた。
「早っ」
さすが平和な町だな、とか言いながらタップしていく。
「家どこだよ」
「えっ」
「送る。雨だし、真っ暗だし」
外はもう夜の世界だった。

「飼い主さん、見つかりますよね」
「わかんねーけど…。見つかるといいよな…」
オレにとってもあの子猫は大切なんだよ。
雨はしとしとと辺りを濡らし、少し鼻声になった彼女の途切れ途切れの声を包んでいた。いっぱい泣いてた。
かわいかったな。
「そうですね」
「へっ?」
「ネコにまた会いたいですね」
思ったことが声に出ていたらしい。

10/12/2023, 9:56:08 PM

日誌も職員室に持っていったし、黒板も綺麗にした。
窓の戸締まりもオッケー。

最後の鍵かけを終えて下駄箱に行くと、猫の鳴き声がした。実家で昔、私が飼ってた猫に似ている。くるくると喉をならす甘えた鳴き声。

「お前どっからきた」
見知らぬ男子が迷い込んだ猫と喋っている。まだ子猫だ。
「くすぐってぇな、舐めるな。それはダメだって!噛むな、破れる!」
ジャージの袖を噛まれて悪戦苦闘しているみたい。
普段だったら知らない人、それも男子になんて声も掛けられないはずの私だけど。
筆箱に付いているキーホルダーや飾りを手に取って、しゃらしゃら鳴らしながら近づいた。
「おっ」
猫が興味津々でこちらを向いた。あ。茶トラだ。可愛い。
「下駄箱の上でにーにー鳴いててよ、オレどうしたらいいか分からなくて」
「この子、まいご?」
「かもな」
2人でしばらく猫と遊ぶ。
男の子は髪を纏めていて肩幅がすごい。運動部かな。ちょっと見た目が怖いけど、子猫に向けている目がきらきらしている。可愛いもの好きなんだ。
「かわいー」とか「ねこー」「これが欲しいのかーほれほれ」とか。名前も知らない男の子と、猫を中心にして遊ぶ。
陽の落ちかけた下駄箱で、私達以外の誰もいない不思議な空間。
「お前、名前は?」
と、突然問われた。どきりとして、慌てないように気を付けながら口を開く。
「める」
「は?」
「メルルって言います」
顔を上げた男の子と見つめあう。
「いや、猫な。オレはヒムな。こいつはもうネコでいいや」
猫に言ったのか!恥ずかしい。私は真っ赤になる。
「あ、やべ。オレ倉庫の鍵取りに行く途中だった。猫頼むな」
突然彼が立ち上がる。背が高い。180…あるかも?
大きな身体に圧倒されながら、どう返すか困ってるうちに、彼は廊下を靴下のまま行ってしまった。
「ちょ…」
猫、どうするの!?

夕方の迫る中、私は小さな猫を抱えて途方にくれた。
ぬいぐるみのようなもこもこで温かい生き物はこちらの気持ちなんかお構いなしに、可愛くにーにー鳴いていた。

10/11/2023, 3:32:59 PM

メルルは唐突に実感した。前よりももっと彼を意識している自分に。
付き合ってるんだから…そのうちキスをしたり抱き合ったりするんだと思ったら照れくさくて。
こんなに意識をしているのは私だけかもしれない。
恥ずかしくて顔が真っ赤になる。メルルは彼の男友達の前から逃げ出した。
「ご、ごめんなさい」
「メルル!」
友人に「バカ野郎!茶々いれんな!」と叱って、追いかけてくる気配がある。
スカートを翻しながら走るけど、あっという間に追い付かれてしまった。
「あっ」
転ぶ。と思って覚悟をしたけれど、一瞬身体が浮いて、がっちりと抱き止められた。
「危な」
彼が庇うようにメルルと身を入れ換えていた。
「ヒ、ヒムさん」
「どこも痛くないか?」
彼の問いにこくこくと頷く。
「ヒムさんは」
「丈夫なだけが取り柄だからよ」
良かった…。メルルの黒髪がさらさらとカーテンのように落ちて彼を覆っていく。
(近い)
どうしたらいいの。あんなにいっぱい喋っていた彼の口がすっかり黙ってしまって。いつもよりずっとカッコいい。
ああ、もう逃げられない…。
頬を支えられ、メルルはゆっくりと目を閉じる。腹筋で顔を起こしてきた彼に、一気に唇を奪われた。

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