木陰

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1/20/2024, 11:30:25 AM

‪死にたかった。
生きている価値なんて無いと思った。
だから、海の底に堕ちた。


物心ついた時から、幸せというものがわからなかった。何もしてないのに同級生からは泥だんごを投げられ、家に帰れば「こんな汚い子はいらない」と夜中まで家に入れてもらえなかった。先生は道徳の授業で「親には感謝しましょう」と声高に話すが、感謝って、何を感謝すればいいの?少しでも夜更かしをすれば早く寝ろとベッドまで髪を引っ張られたことを?それとも成績が悪いという理由で殴られ蹴られたことを?私にはわからなかったし、次第に幸せなんて自分には無縁なものなんだと思うようになっていった。

そんな風に私を道具の如く扱ってきた両親は、ある日突然事故で亡くなった。私は一時期施設に預けられ、そこでも変わらず孤独な日々を過ごした。そして数週間前、私は知らない男性の養女となった。その人はなんでも、なんちゃら医師会?とかに所属している立派なお医者さんだそうで、身なりも家も綺麗だった。優しくて、賢くて、職業のわりにオカルトやスピリチュアルが好きで。この間も有名な神社に行ってきたとかで、私に安全のお守りをくれた。曰く、このお守りを持っていれば、絶体絶命の時に神様が助けてくれるんだとか。

何もかも新しくなった生活は快適だった。作ってくれるご飯も掛けてくれる言葉も暖かい。暴力を振るわれる心配もない。
それでも。信じられなかった。どうせこの新しい父だって、前の父と同じだって。今は優しいけど、いつか化けの皮が剥がれて本性をむき出す。どうせ私なんて都合のいいアクセサリーなんだろ?あなたは独身だから、きっと妻子がいないのがコンプレックスだったんだ。私なんてきっとその埋め合わせだ。


そんな根も葉もない考えが頭を支配して。
耐えられなかった。
でも、そっか。最初からこうすればよかったんだ。
海面で身を強く打つと共に、私は意識を失う。
これでもう思い悩むこともない。愛も憂いも忘れて、ただただ静かな場所へ。
さよなら、世界。


電子音が聞こえる。
おもむろに目を開けば、視界に広がるのは真っ白な天井。
ここは、病院か?どうやら私は助かってしまったみたいだ。
横で眠っていたらしい父がハッと目を覚まし、私の名前を呼ぶ。お父さん、と小さく呟くと、父の顔は崩れるように安堵の表情へと変わり、良かった、生きてて良かったと涙目になりながらひたすら繰り返す。その姿に偽りは見られない。
本当に、私が生きてたから、喜んでいるの?父への不信が揺らぐ。
ふと、太腿に違和感を覚え、ポケットを探ると、ポケットの中には父からもらった安全のお守りが入っていた。このお守り、持っててくれたんだ。神様が助けてくれたのかな?と父が言う。私はこう返した。もしもお守りなんてものに効力があるのなら、わたしを助けてくれたのは神様とお父さんだ。お父さんがお守りをくれたから私は今生きているんだ、と。


人を信じるのはとても難しい。
それでも、あなたなら。大切な家族と呼べるかな。

海の底に、一寸の光が差し込み、こちらへ差し出す手が見える。私は震えながらも、その手を握る____

1/19/2024, 11:54:42 AM

「久しぶりだな」

少し冷めた微笑みを浮かべながら君は言った。

高校生の時以来、ずっと会えていなかった、安否すらも知らなかった君の手がかりを拾ったのは数週間前。友人から君らしき人を見たとの情報を得て必死に探った末、今、大好きだった君は僕の目の前にいる。

「君は……ずいぶん変わったね」
「……12年も経てば人は変わるだろう」

そうは言ってもいささか変わり過ぎているように見える。華奢だった身体は硬そうな筋肉に覆われ、長く麗しかった髪はばっさりベリーショートに切られ、綺麗だった笑顔は今や残像すら見当たらない。言葉遣いも明らかに棘があって男性らしくなっている。

「幻滅したかい?あの頃の私じゃなくて」

無表情のまま君が問う。
僕はその問いに、言葉ではなく笑顔を返す。
そんなわけ、無いじゃないか。一体幾つ寂しくて不安な夜を、君がいない夜を越えてきたと思ってるんだ。
君がなんの前触れもなくいきなり高校を中退して引っ越した時から、僕は君に会いたくて会いたくて仕方がなかったんだ。その願いが、今日、やっと叶ったんだ。

「"少し話"をしようよ」

君がどう生きてきたのか聞きたくて、近くの喫茶店を指差す。

「フッ。"長い話"の間違いじゃないか?」

ああ、どれだけ見た目や言葉遣いが変わっても、その柔らかい笑い方は変わってないね。
僕と君は店の中に吸い込まれていった。それぞれ12年分の思い出を抱えて。

1/18/2024, 12:51:17 PM

いつも使う机の棚、真ん中から少し左。そこに過去の日記帳を並べている。時々読み返しては、あ〜、自分変わってないな〜、なんて思ったりするのだが、ひとつだけ開く気になれない日記帳がある。一番最初の日記帳、私が日記を始めたキッカケになった黒いノートだ。
あのノートに文字を書き始めた時、私の心は大量の毛虫の死骸が転がっているような不快感を纏っていた。こんなしょうもないことであの人と離ればなれになるなんて、有り得ない。どうか悪い夢で終わってくれ。そんな願いも虚しく、しょうもないことでその人との縁は切れた。そこからその黒いノートは、まるで本物のデスノートのようになった。人を呪う趣味はない。ただ、自分の感情に整理がつけられなかった。
今でもあのノートをじっくりと見返す勇気は無い。相手も相手だったが、めちゃくちゃに羅列されている怒り狂った感情は、あまりにも未熟で、泣き喚く3歳児のようで、見るに堪えないのだ。そんなわけで、私の最初の日記は、未だ閉ざされたままだ。

1/17/2024, 2:47:54 PM

「え〜、恥ずかしいよ……」
「いいじゃんかよぉ」

不貞腐れた顔で、ぶっきらぼうに「好き」と君に言われた日から数ヶ月。気温はグッと下がったが、誰かさんのおかげか、心はやけにポカポカ暖かい日が続く。

「ちょっとくらいいいじゃん、誰も見てないんだし。な?」
「でも、周りに人いるよ?やだぁ…」
「つべこべうっせーな、」

拒否していたのに半ば強引に手を繋がれた。

「あーもう、恥ずかしい!!」

手を振りほどこうとした時、突然強い風が視界を遮る。

「うわっ、風つよ……」
「ちょwwおまえスーパーサイヤ人かよ‪w‪w‪」

そう言われ、近くの湖の水面を見る。水面に映った自分の髪は、ガチガチにワックスを塗ったように逆立っていた。
恥ずかしくて、おかしくて、2人して笑い合う。

木枯らしが絶え間なく吹き荒ぶ。
それでも、2人の手と心は暖かかった。

1/17/2024, 2:20:15 AM

あなたが持っている美しいものは何かと聞かれ

答えられるものは多くない

皆が美しいという顔は持ってないし

性格も特別突出しているわけでもない

おしゃれが好きだが高価なアクセサリーは付けないし

歌うのが好きだが魅力的な歌声は持ってない

唯一 家族愛は美しいと言えるだろうか

そもそも世間が美しいと持て囃すものは

自分にとっては価値が無いのかもしれないな

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