「久しぶりだな」
少し冷めた微笑みを浮かべながら君は言った。
高校生の時以来、ずっと会えていなかった、安否すらも知らなかった君の手がかりを拾ったのは数週間前。友人から君らしき人を見たとの情報を得て必死に探った末、今、大好きだった君は僕の目の前にいる。
「君は……ずいぶん変わったね」
「……12年も経てば人は変わるだろう」
そうは言ってもいささか変わり過ぎているように見える。華奢だった身体は硬そうな筋肉に覆われ、長く麗しかった髪はばっさりベリーショートに切られ、綺麗だった笑顔は今や残像すら見当たらない。言葉遣いも明らかに棘があって男性らしくなっている。
「幻滅したかい?あの頃の私じゃなくて」
無表情のまま君が問う。
僕はその問いに、言葉ではなく笑顔を返す。
そんなわけ、無いじゃないか。一体幾つ寂しくて不安な夜を、君がいない夜を越えてきたと思ってるんだ。
君がなんの前触れもなくいきなり高校を中退して引っ越した時から、僕は君に会いたくて会いたくて仕方がなかったんだ。その願いが、今日、やっと叶ったんだ。
「"少し話"をしようよ」
君がどう生きてきたのか聞きたくて、近くの喫茶店を指差す。
「フッ。"長い話"の間違いじゃないか?」
ああ、どれだけ見た目や言葉遣いが変わっても、その柔らかい笑い方は変わってないね。
僕と君は店の中に吸い込まれていった。それぞれ12年分の思い出を抱えて。
1/19/2024, 11:54:42 AM