sibakoのおさんぽ🐾

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5/28/2024, 2:15:48 PM

お題「半袖」

「あっつ」
朝起きてあまりの暑さに声が出た。まだ、薄手の長袖で大丈夫だろうと思って寝たのが良くなかったらしい。
「まだ5月だよなあ?季節バグってね?」
暑さのあまり悪態をつくが、暑さが和らぐ理由がない。

半袖に着替えようとタンスを開ける。
「半袖……??」
…ない。半袖がなかった。
去年も着たし、ないわけがないのだが。
タンスの中を引っかき回して探すも出てこない。半袖だけを盗む泥棒に入られ……ってそんな泥棒がいてたまるか。
仕方なく、冷房をガンガンにつけてアイスをくわえた。何気なくテレビをつけると、ちょうどニュースをしていた。

「現在、世界中で半袖の服が消滅するという奇妙な事件が起こっています」
はあ?危うくくわえたアイスを落とすところだった。
ニュースキャスターがいうには、世界中のすべての半袖という半袖が消滅したという。そんな馬鹿な、と言いたいところだが現にうちのも消えてしまったのだ。
しかも、長袖を切って半袖にした途端消えてしまうらしい。実演していたが、怪奇現象以外の何者でもなかった。

正直、ここまで見せられると諦めがついた。そのうち、冷房器具の使いすぎで電力も供給できなくなるだろう。はあ。どうしたものか。俺はテレビを消して、ふと外を見た。

ん?半袖?思わず二度見してしまった。
外に半袖を着た女の子がいる。この世のどこにもないはずの半袖を着た女の子が。
俺は走って外へ駆け出した。長袖の俺にも暑さは容赦なく襲いかかってきた。
玄関を出ると、50メートルほど先に女の子が見えた。

「あ、おい。そこの半袖の……!」
最後まで言い切る前に女の子は振り向き、気づくや否や走り出してしまった。俺も慌てて追いかける。
あと少し、あと10メートルほどで…というところで女の子の目の前の空間が歪んだ。比喩ではなく本当に。

そして、女の子も、減速出来なかった俺も吸い込まれるようにして入っていった。

木の根のようなものに足を引っ掛けて手をつく。
顔を上げると深い森の中だった。

「あら、あの子はだあれ?」
「……!?!?」
「連れてきちゃったの?仕方ない子ね?」
大きな…5メートルくらいあろうか…女性が開けた森の真ん中に座っていた。そこだけ光が差し込むように輝き、絵画を切り抜いたような幻想的な美しさをしていた。

女の子はこっちをチラチラと見ながら終始あたふたしていた。周りには他の人の姿があった。いや、人というより、妖精とかエルフとかいう方がしっくりくるような気がする。遠目から俺を物珍しそうに眺めている。

「あの……」
何というか、どうしていいかわからなすぎて声をかけてしまった。
「あら、ごめんなさいね?心配しなくても元の場所へ戻してあげるわ。」
ふわふわとしていて一見優しい綿のような女性の声は、問答無用な、否定することが許されないような、そんな絶対感を持っていた。思わず、後退りしたくなる。
…しかし、しかしこれだけは聞いておかなければ。

「あ、あの!その子、どうして半袖を持ってるんですか!えーっと!あの!えーっと、その…、半袖の消滅と何か関係が……あったり、なかったり……?」
最初は勢いで聞いてやろうとしたが、最後まで絶対感に勝てるほど俺は強くなかったらしい。

「これ?これね、人間がいろんなもの壊して、星が熱くなちゃってるでしょ?だから、代わりにもらうことにしたの」
よく見ると、女性を含む、周りの人(?)はみんな半袖を着ていた。

「人間が星を大切にするまでお預かり〜 きっと暑くて暑くて困って、気づいてくれるはずよ!さんごちゃんたちや、流氷ちゃんたちと会えなくなるのは寂しいもの」
女性は優しそうな顔で微笑んだ。彼女は何者かはわからないが、とにかく人ではないことは確かそうだ。

「人間も布なんか巻かずに過ごせばいいのよ。自然の中でゆっくり過ごせばいいわ。あんな四角いところに引きこもっているより、よほど快適よ」
「しかし今から裸でと言われましても…」
「アダムとイブなんていないのよ〜?人間はもともと何も着ていなかったのだから、そこに戻るだけ〜 簡単よ?」
「しかし……」

何か言わなければ…このままでは暑い夏が来る前に死んでしまう…!!
「人間にも、地球を守ろうとしている者がたくさんいます!どうかもう少し待っていただけないでしょうか!」
俺は深々と頭を下げた。
女の子が女性の服をちょいちょいっと引っ張った。

「そうねえ。いい人間がいるのも確かなのよね〜 
…仕方ないわ。今回は、あなたの頑張りとこの子に免じて返してあげる〜」
心の中で大きくガッツポーズをしたことは言うまでもない。

「じゃあ、元の場所に戻すわ。このことは忘れちゃうけど、気にしないでね〜?」
目の前がぐにゃりと曲がる。記憶が途絶える間際、声が聞こえた。
「そうそう。返してあげるのは今回だけよ〜?これからはあなたの行動次第〜 悪い子だったら、またお預かりね?」

。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。

「あっつ」
朝起きてあまりの暑さに声が出た。まだ、薄手の長袖で大丈夫だろうと思って寝たのが良くなかったらしい。
「まだ5月だよなあ?季節バグってね?」
暑さのあまり悪態をつくが、暑さが和らぐ理由がない。

半袖に着替えて、エアコンのリモコンを手に取って…やめた。押し入れにしまい込んであった風鈴を取り出して、窓を開けて、そっとかける。

チリン、チリン…

涼しさが和らいだ。
なんとなく、いいことをした気がする。

12/25/2023, 2:50:17 PM

お題【クリスマスの過ごし方】

皆さんは知っているだろうか?
ホワイトサンタとブラックサンタがいることを。

「今年も大量じゃ!」
かごいっぱいのじゃがいもを眺めてニッと笑う立派なおひげのサンタクロース姿のおじさん。
ただし、帽子も服も靴も、全身真っ黒。
そう、彼はいわゆるブラックサンタである。
悪い子に石炭とじゃがいもをプレゼントする、あの。

「おい、小人や、積み込むのを手伝ってくれ!」
「あいよ!」
ブラックサンタの膝下くらいのサイズのたくさんの小人たちがこれまた真っ黒な袋に、真っ黒い小包にじゃがいもと石炭をえっさほいさと詰めてから、放り込んでいった。

すっかり夕焼け空になる頃には、真っ黒なソリいっぱいに小人が詰めた袋が乗っていた。
黒い鈴をつけたトナカイが、ブラックサンタを乗せ、重い鈴の音を鳴らして飛んでいく頃には、綺麗な星が瞬いていた。

「ほうほうほう、今年も真っ黒だねぇ、君は」
空の上で話しかけてきたのはホワイトサンタだった。
「そういう君も、相変わらず赤が好きだねぇ」
「「ふぉふぉふぉ」」
二人は声を揃えて笑った。
「ではまた、明け方に。バレるんじゃないぞ」
「もちろん。ブラック君もお気をつけて」

それぞれのサンタはリストを片手に何万、何億、何兆もの家も飛び回った。
時には妖精に、時にはゴーストに手伝ってもらいながら。


*・゜゚・*:.。..。.:*・*・゜゚・*:.。..。.:*・*・゜゚・*:.。..。.:*・*・゜゚・*:.


「ほうほう、お疲れ様、ホワイト」
「ほうほう、君もお疲れ様、ブラック君」
ほんのり赤くなった空の上で二曹のソリが並ぶ。
「今年もすまないねぇ、汚れ仕事をさせてしまって」
「ホワイトは、気にしすぎだ。今年はバターをサービスしておいたから、きっと明日にでも美味しいじゃがバターを食べているさ」
いや今日か、とブラックサンタは笑った。
「優しいなぁ、ブラック君は」
ホワイトサンタが申し訳なさそうに言う。
「ほうほうほう、優しくなんてないさ。なにせ、意地悪ブラックサンタだからな。悪い子にちょいッと灸を据えるのが得意なのさ」
「ほうほうほう、そういうところが優しいんだよ」

そのうち綺麗な朝日が顔を出した。
二人は顔を見合った。
「メリークリスマス、ブラック君」
「ほうほう、メリークリスマス、ホワイト」

こうしてクリスマスは、ゆっくりと始まっていく。
この二人によって。


    〜・:*+.🛷merry Xmas🎄.:+ ・:*〜

12/16/2023, 12:12:17 PM

お題【風邪】

「ぶえ、ぶじゅん! 」
隣で盛大にくしゃみをしたのはブルドッグの小茶郎だ。
「あれ? 風邪引いた? 」
ちょっと前から父ちゃん、風邪気味だったからなあ。犬にも風邪ってうつるんだ。
そんなことをぼーっと考えながら、たたみ終わったタオルを片付けて、晩御飯の用意をする。
小茶郎のご飯はちょっと体にいいものを。

ご飯の後も小茶郎は心なしか元気がないように見える。
いつもなら、まだ走り回っている頃なのにもう毛布の上で寝ている。
それを見ながら、私もこたつで寝てしまった。

次の日、小茶郎は元気いっぱいで、昨日のくしゃみはどこへやらという感じだった。
父ちゃんも完全回復したようでピンピンしていた。
それに対して私は…
「クシュンッ!!」
ずぴーっと鼻をかむ私に父ちゃんは「こたつなんかで寝るからだ」っだって。
そういや、父ちゃんが風邪引いたのもこたつでなちゃったせいだったか?

なんにせよ、さっさと風を治さねば。
心配そうにくっついてくる小茶郎に風をうつしてしまわないように。

7/21/2023, 3:04:56 PM

お題【今一番欲しいもの】

どこでもドアー!!
暗記パンっ!!
もしもボックスー!!

あったらいいなこんなもの











(あ、お題一番なのに一個じゃない…… ま、いっか。)

7/21/2023, 2:59:22 PM

お題【私の名前】

「私の名前、なんだっけ?」
首を傾げる私を見る驚愕の視線。
この人たちは誰だろう。誰一人として見覚えがなかった。

その人たちはどうやら私の家族らしい。「父」、「母」、「兄」、私の四人家族で、私は階段から落ちて記憶喪失になったとか。何が何だかさっぱり。他人事としか思えなかった。

二週間後退院した私は、「家」に帰った。郊外の少し大きな一軒家だった。きっと何か思い出せるさ、と「兄」に言われたが、その日は何一つ思い出せなかった。

「父」も「母」も「兄」も優しかった。会社員の「父」と「兄」が出かけると浪人生らしい私は専業主婦の「母」の手伝いをしながら勉強を進める。そのうちこんな生活にも慣れてきた。

この家には入っちゃいけない部屋がある。物置部屋らしく、色々置いてあって危ないからと母は言っていた。絶対駄目だと必死に念を押す「母」はどこか変だった。

ある日、「母」がママ友とお茶に行った時その部屋にこっそり入ってみることにした。そこには大量の段ボールが積まれ、鏡や扇風機などが乱雑に置かれていた。確かに散らかってはいるが、私は19歳だ。禁止するほどのことだろうか。

私は適当に段ボールを開けてみることにした。中からは食器やら服やらが出てきた。開けては閉め、開けては閉めを繰り返していると、一つだけ何重にも袋に入れられている大きい段ボールを見つけた。何かあったわけではないが何としても見なければという思いに駆られ手を伸ばした。

かなり重かったがなんとか引き摺り出し、思いっきり袋を割いた。中から嫌な匂いがした。何かが腐ったような嫌な匂いが。私は水分でへにゃった蓋を開けた。

そこには真っ赤な何かがあった。頭が追いつかずその塊が人だとわかるのに時間がかかった。

母さん…

涙と共に声が漏れた。ああ、そうだ。あの日、本当の母さんはあいつらに殺されたんだ。父さんも兄さんも。襲われた母さんは命に変えて私を逃がしてくれたのに、私は捕まって階段から突き落とされた。たまたま軽傷で搬送され、記憶喪失だったからあいつらはリスクを冒さず、何も思い出さないように証拠から遠ざけることを選んだんだ。

母さんたちを殺したあいつらが許せなかった。「母親モドキ」が帰ってくるまであと三十分はある。あいつはスマホをお茶会には持って行かない。パスワードも生年月日と名前というありきたりなものだ。

⚫︎⚫︎⚫︎⚫︎⚫︎⚫︎⚫︎⚫︎⚫︎⚫︎

スマホが開く。あとはあの段ボールの写真を撮って、自白文をつけ拡散すればこの一家はきっと一躍時の人だろう。私は、スマホをベッドの下に隠して今度は自分のスマホで証拠を取って「家」を出た。「兄」の自転車で一気に繁華街まで下りていく。

私は本当の家へと向かった。だが、そこあったのは更地とあの「家族」だった。気持ち悪い笑顔を貼り付けて、記憶が戻ったの?と近づいてくる。私は咄嗟に降りかけた自転車に乗って逃げようとした。が、「父」の反応は思ったより早かった。気がついた頃には首に腕が回され、口を塞がれる。逃れようと暴れるが三人がかりで抑えられ少し離れた死角にあった車へと連れて行かれる。

もう駄目かと諦めかけた時、サイレンが聞こえた。意識が朦朧とする中、サイレンに驚き緩まった手をどけて叫んだ。いくつかの家の窓が開き、住民が顔を出す。勇敢な男性陣と駆けつけた警察官によって私は何とか救出され、あいつらは連行されていった。

念の為入院した私は病室で取り調べを受け、あの日の事と証拠の写真について話した。よく頑張ったと警察官のおじさんは笑った。ただ、無茶は駄目だぞ。あと少しで君も殺されてしまうところだったんだからな。おじさんは真剣だ。私は素直に頷いた。あの家に着く前に、思い出した住所を使って偽の通報をしたのに思っていたよりくるのがギリギリで死にかけたんだから、何も言えない。

おじさんは、頷いた私に再度笑いかけ、扉を開けた。
頑張った君には一つくらいいい知らせがないとな。

そこには死んだはずに父さんと兄さんがいた。

確かに私は母さんの遺体しか見ていない。二人が死んだところは見ていない…!すると自然と涙が落ちた。そのあと私たち三人はしばらく抱き合って泣いた。気がつくと警察官のおじさんはいなくなっていた。

あれから数年経った。私は本当は高校生だったため、あの数ヶ月間を取り戻すべく、もう勉強しなんとか大学に受かった。今は大学生だ。あいつらは、今獄中にある。あの写真と自白文はかなり話題になり、ニュースやトレンドになった。出てきてもきっと苦しむことになるだろう。

これからは残った家族を大切に毎日を楽しんでいこう。






……私はこの時、この家族がまた、整形によって父さん、兄さんそっくりになったニセモノだということを知らなかった。

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