たまき

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9/22/2023, 12:30:48 AM

#84 秋恋


千早ぶる 神代もきかず 竜田川
からくれなゐに 水くくるとは

「あーあ、どこかに良い人いないかなー」

「そりゃ、どっかにはいるだろうよ」

「私の目の前にいて欲しい!」

「はいはい、俺はどうせ悪い人ですよ。んで?付き合ってた奴はどうした」

「もちろん別れた」

「うん、それは冒頭のセリフで察してるから。肉付けしてほしいんだが」

「それよりお代わりちょうだい」

「あーはいはいワカリマシタ」

目の前でくぴくぴ呑んでるこいつ曰く、
俺は『飲み友No. 1だけどタイプじゃない』んだそうだ。
お前のタイプなんぞ知るか。

「はぁ〜、おいしいねぇ」

交際期間は1年保たなかったり2年以上続いたりバラバラだが、
別れるのはいつも夏の終わり、秋のはじめ。
んで、俺のところに酒を飲みに来る。
なんなんだ。人を安全牌にするんじゃねえよ。

無防備に頬を真っ赤にさせやがって。


「…竜田川」

「え、なになに?」

「何でもねえ。それより水飲め、水」

早く俺のところまで流れてこい。


---

こんなの神代の時代にも聞いたことないよ〜
竜田川の水面を韓紅の絞り染めにしちゃうなんて。
みたいなことです。
竜田川は紅葉の名所らしいですね。また、竜田姫は秋の女神なんだとか。

秋と恋で、昔読んだ漫画に和歌があったのを思い出して引っ張り出し。
そこの解釈を元に創作しました。

9/20/2023, 4:37:34 PM

#83 大事にしたい


考えるとき
話すとき

自分と向き合うには素直さが必要

追い詰めるのではなく
捻じ曲げるのでもなく

ただ、見つめるために

心に
気持ちに
ぴったりな言葉を探して

己を認めるために


人間関係を築くには的確さが必要

言うか
言わないか

自分の感情を表すか
相手の感情に合わせるか

心地のいい言葉
傷つける言葉
認める言葉

求めるものが何であれ


だけど
大事にしたいと想う人ほど
傷つけてしまう

本当の私なんて、そんなもの

だから考える
どうしたらいいか

その人を見つめて

9/19/2023, 2:39:48 PM

#82 時間よ止まれ


彼の唇が触れるのを感じながら、
叶わぬことを思った。


やがて顔を離した彼は、まだ近い距離にいて。

「止まらないね、涙」

ほんのり笑って今度こそ、頬に流れる涙を優しく拭ってくれた。

「このまま泣いていたら、今夜あなたと別れずにすむかしら」

「君の涙が止まらないなら、いつまでもそばに居るよ。だけれど君のご両親には怒られてしまうな」

「それは困るわ。あなたに会えなくなってしまう」

「今度は僕が泣いてしまうね」

「そうしたら私は抱きしめてあげるわ」

話しているうちに涙は乾いて、
彼が近すぎる距離-未婚の男女としては、だが-を
戻そうとしたので、咄嗟に袖を引いた。

「僕だって離れ難いんだ…そんな顔をしても駄目だよ?」

「わかっているわ…でも、もう少しだけ」

彼の纏う香りが、ふわりと届く。

両親からもらった時間は短くて、あっという間に過ぎていく。

夜の逢瀬が終わるまで、あと何度願うだろう。


このまま時が止まってしまえばいいのに。


---

前話の続きを彼女視点から。

ありきたりな内容ですが、ふわふわ砂糖菓子系もビターチョコも、口の中が幸せになるやつが好きです。

でも最初に思い浮かんだのは、
「ザ・ワールド‼︎」って言ってる承太郎だった。

9/19/2023, 1:04:55 AM

#81 夜景 / 花畑(9/17) / 空が泣く(9/16)


「ずっと、君に見せたかったんだ」

小さな白が一面に広がる花畑。
それは星のごとく輝く。
ただし、夜の間だけ。

だから夜間外出を渋る君の両親を必死に説得したんだ。その甲斐はあった。

言葉も忘れて見入る君の横顔。

視線を周りに向ければ、
満天の星空の下、丘の上に立つ今。
それこそ星空の中に浮いているような。


-こんな景色が見られるほど
生きられると思わなかった

思わずこぼれたような小さな呟きに、
仄かな光に照らされるほど潤んだ瞳。


「とてもきれい…ありがとう」

「いいんだ。泣いているの?」

太陽の下なら、
真昼の空のような色が見られるだろうな。

「そうよ、あなたが泣かせたのよ。ひどいわ…」

心が締め付けられる。


「それは困った。どうしたらいいのかな」

「さて、どうしようかしら?うふふ…」

ぽろぽろと流れる涙もそのままに笑う君が、
あんまり綺麗だったから。

涙を拭おうと頬に向かっていた手は、
少し方向を変えて。

空が泣くのを、
もっと近くで見たかったんだって言ったら、
君は怒るかな。

近づく距離。
答えは、瞳と一緒に目蓋で隠された。


---

時間が取れず空いた分までまとめて。

花畑のような夜景か、夜の花畑か、
現実を直視するのが辛いので幻想風景にしました。

空が泣く部分は当初「遠くで雷鳴が聞こえるけど知ったこっちゃない」でしたが、彼女は幼少病弱だったから雨は無視できないと彼が急に言い出し、こうなりました。
雨が降ってきて帰れなくなるトラブルも良いと思うんですけど。健全ですね。

9/15/2023, 11:46:22 AM

#80 君からのLINE


ため息の多い金曜日の夜。

「疲れちゃったなあ…」

今週は特にキツかった。
毎週そう思ってる気もするが。

週末も済まさなくてはいけない用事があって、
楽しい予定も入れられず。

夕飯後の満腹感が一層体を重くする。
心のままに、ずるずるとソファに沈もうとしたら、

軽快な通知音がストップをかけてきた。

「ああー…」

ゾンビさながらの呻き声を出しながらもスマホを手に取る。

そこには。

「サトリがおる、サトリが…」

1週間の労をいたわる君からのLINE。
少し軽くなった心のままにソファに飛び込み、
返事を打つ代わりに通話ボタンを押した。

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