#82 時間よ止まれ
彼の唇が触れるのを感じながら、
叶わぬことを思った。
やがて顔を離した彼は、まだ近い距離にいて。
「止まらないね、涙」
ほんのり笑って今度こそ、頬に流れる涙を優しく拭ってくれた。
「このまま泣いていたら、今夜あなたと別れずにすむかしら」
「君の涙が止まらないなら、いつまでもそばに居るよ。だけれど君のご両親には怒られてしまうな」
「それは困るわ。あなたに会えなくなってしまう」
「今度は僕が泣いてしまうね」
「そうしたら私は抱きしめてあげるわ」
話しているうちに涙は乾いて、
彼が近すぎる距離-未婚の男女としては、だが-を
戻そうとしたので、咄嗟に袖を引いた。
「僕だって離れ難いんだ…そんな顔をしても駄目だよ?」
「わかっているわ…でも、もう少しだけ」
彼の纏う香りが、ふわりと届く。
両親からもらった時間は短くて、あっという間に過ぎていく。
夜の逢瀬が終わるまで、あと何度願うだろう。
このまま時が止まってしまえばいいのに。
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前話の続きを彼女視点から。
ありきたりな内容ですが、ふわふわ砂糖菓子系もビターチョコも、口の中が幸せになるやつが好きです。
でも最初に思い浮かんだのは、
「ザ・ワールド‼︎」って言ってる承太郎だった。
9/19/2023, 2:39:48 PM