思い返すと実生活に置いてシンプルな「わぁ!」って長らく使ってない…
「うっわぁ!」
「おわぁ〜!」
「ぐわぁ〜!」
「わ゛ぁ!」
「ん゛わぁ!」
だいたい上記五段活用に表情筋の合わせ技。
どこか濁ってる。
ピュアなあの頃に戻りたい。
——— わぁ! ———
何故そこまでの熱量を長時間保てるのだろう…
今宵も延々と愚痴を聞かされている。
残業したせいで、聞き手役は私一人。
娘は避難し終えて、自分の部屋で息を潜めている。
幾ら嘆こうとも助けはこない。
反論の余地は無い。
ならば、と同調してはならない。燃料を投下するだけだからだ。
チラリと時計を盗み見る。
もうすぐ明日がやってくる。
終わらせるために、オシッコでも漏らしてやろうかと、本気で考え始めた。
——— 終わりのない物語 ———
やさしい嘘の正体を知りたいならば、試しに自分についてご覧。
あら不思議。
自分の短所を炙り出す魔法の言葉に大変身。
ついたやさしい嘘は、諸刃の剣となってあなたをやさしく斬り刻み、本当の自分を浮き彫りにする。
だからこそ、人は時にやさしい嘘をつく。
大事な人が傷つかないように、片刃を事前に平にするのだ。
それはきっと、共感共苦の境地、労りの心。
——— やさしい嘘 ———
男はソファーに深々と腰掛け、本を読みながらグラスを傾ける。
満たされていた琥珀色した液体は、喉仏にぶつかる度にゴクリゴクリと音をたて、たちまち透明となった。
ソファーにだらしなく、本当に見ていられない格好で横たわり、漫画を読み、麦茶をがぶ飲みしているパパも、小説の世界ではハードボイルドなおじ様となる。
瞳をとじて生活すれば、人の粗探しばかりの世の中は駆逐され、優しい気持ちが溢れかえる世界が訪れるのかもしれない…。
否!
現実から目を背けてなんかいられない。
「ソファー独占しないでくれる?パパ!」
——— 瞳をとじて ———
リビングにて
瓶ビール片手にスマホをポチポチやってると、娘が近づいてきた。
「ねぇ、ちょっといいかな?聞きたいことあるんだけど?」
「ん?おお、何?」
「いつもお世話になっているオジサンに、気の利いた物プレゼントしたいんだけどさ、わかんないんだよねー、何を貰ったら嬉しいのかがさー」
「若い女の子がくれるもんだったら何でも嬉しいと思うぞ?」
「いやだから、その何でもって言うのが難しいって話しよ!」
「いやいや、若い女の子がプレゼントしてくれた…という事象だけでおじさんは天にも登る気持ちになる生き物なのよ。わかる?」
「あのさ、そのポチポチそろそろ止めてくんない?」
「今忙しいのよ。白熱してんのよ。オンライン対戦中なのよ。」
「誰とやってんの?」
「会社の新人君」
「は?そんな人とやってたの?」
「うん?何かおかしいか?」
「20代前半の子と遊んでるの?オジサンが?」
「だから、そうだって!」
「ありえないんだけど…」
「あぁ、なるほどな、お前は大事なことがわかってないな〜」
「はい?」
「男って生き物はだな、どんなに皺が増えようとも、髪が薄くなろうとも、社会的立場が変わろうとも、本質的なものは何も変わらないのよ! しかもスマホのゲームもただのお遊びだと侮るなかれ!これはな、趣味と実益を兼ね備えた最強のコミニュケーションツールと言っても過言ではない代物なのだよ…今の時代ぃぃぃぃぃぃ。あーぁ、死んでもーた!」
「…アホくさ」
「そう、正にソレ!男は幾つになってもアホなの!だから、真剣に考えるだけ無駄なんよ。媚びない程度の可愛げのある言葉を添えてプレゼントすればさ、あちらで勝手に拡大解釈してくれてニヤニヤしながら満足するんだから」
「何だか…損した気分」
「もう一つだけこの世の真理をお伝えしてあげよう。女の人は自己承認欲求の忠実なる下僕、男は自己快楽の忠実なる下僕。これテストに出ます、よく覚えておくように!」
「んー、ソレは何となく合ってるような気がする」
「そんじゃ、俺は風呂入ってくるわ〜」
「いてらー」
翌々日
いつものように出勤しようと玄関に行くと、
沢山の駄菓子が入ったBOXにポストカードが添えてあった。
「お父さん いつもありがとう お仕事頑張ってね♡」
知らず知らずの内に繰り出された数十年振りのスキップ。
超低空飛行だったけれど、背中に羽が生えたよな、そんな一日となりました。
——— あなたへの贈り物 ———