心模様は視点に現る。
良い時は上に。
悪い時は下に。
何も考えていない時はニュートラル。
不安な時は右往左往。
先ずは落ち着いて。
そして雲が流れる様を追ってみて。
あなたの少年少女時代はよく見てたでしょ?
風も木々も人の心も、時にざわめくモノだから。
——— 心のざわめき ———
三寒四温は訪れている。
足音も聞こえ始めている。
しかしながら、土壌が絶滅危惧種の私の街で、その姿形を捉えることは難しい。
それでも、どうしても、この大都会で、春を真っ先に迎えに行きたいのならば、耳鼻咽喉科を覗くしかない。
——— 君を探して ———
時は流れていく。
自らを慰めたり鼓舞したりして、ほんの少しだけ区切りを打ちたいのに残念ながら彼奴らは一時も待ってくれない。
無粋な奴だ。
鏡を見ると目が浮腫んでいる。
良い小説を読み終えた後は感傷に浸るもの…だとすれば昨夜までの私達の物語は私が思っていたよりも良いモノだったのだろう。
目の周りに温冷マッサージを施し、終焉の痕跡を必死で消し続けた甲斐あって、次第に滞っていた血流が息を吹き返し始めた。
もう大丈夫。
昨日までの血液やらは心臓へと追い出した。
今より、私の物語の新章が始まる。
——— 終わり、また始まる、 ———
「願いが一つ叶うならば、何を願う?」
ゴリゴリのリアリストの父が私に問いかけた。
とても意外な問いかけに私は何だか可笑しくなって吹き出した。
「俺だって、たまには妄想の世界の住人となる時もある」
そう言うと、少しばかりぶすくれながらビールを飲み干した。
可愛いとこあるじゃん。
「んー。それじゃ、私は願いを10個に増やしてもらう!」
父はピタリと動きを止め、暫し私を見据えた。
「なるほど…そうきたか、無粋なヤツめ」
動き出した父は、空になったグラスにビールを注ぎながら片方の口角を上げ、こう続けた。
「ファンタジーの世界にも幾つか決まり事があってだな…お前のその願いは…一般的なファンタジーの世界では禁忌とされている」
「はぁ?おかしくない?ファンタジーでしょ?」
「間違いなく注釈が入る事象だ。ファンタジーも所詮は人の手によって生み出されている産物だからな。都合ってもんがある」
「…つまんなっ!」
「しょうがない。ファンタジーにも枠組は必要だ。何でもかんでも許されたなら世界感が崩壊してしまうだろ?」
「なるほどね、その世界の自由度は作者の力量に直結するってことね…ん?という事は、ここで言う作者はパパよね?」
「まぁ、そうなるな」
「世界…狭っ!そして、浅っ!!」
——— 願いが一つ叶うなら ———
日本の国立大学卒の私は外資系企業に務めている。
普段の私は、極々普通の25歳女性。
インスタ系の自己承認欲求を充たすSNSは、可愛いアイコンで着飾って、それなりに自分を盛って人生楽しんじゃってます感を出す。
出会い系の私は、シンプルを心掛けて、邪を削ぎ落す。
ガッツリ思念を解放する系のSNSの世界の私は、ガッチリと理論を武装して、為政者共を厳しく糾弾するゴリッゴリの愛国者。
本当の自分が行方不明。
辻褄の合わない私が完成。
多様性を謳う文化は自由なようで不自由で、生きやすいようで生き辛い。「ありのままでいいんだよ」の精神の具現化は、為政者達が脆弱な国民を作り上げる為に生み出した国民性弱体化の魔法…ただの思念なのにね。私を含め、みんな考える事をやめちゃって、開き直っちゃった結果が今の世の中。
あ!
やばい!
愛国精神が漏れ出してる。
自制しないと…引かれちゃう。嫌われちゃう。フォロー外されちゃう。ブロックされちゃう。通報されちゃう。
——— 秘密の場所 ———