ラフロイグ

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1/24/2025, 12:13:41 AM


男はソファーに深々と腰掛け、本を読みながらグラスを傾ける。
満たされていた琥珀色した液体は、喉仏にぶつかる度にゴクリゴクリと音をたて、たちまち透明となった。


ソファーにだらしなく、本当に見ていられない格好で横たわり、漫画を読み、麦茶をがぶ飲みしているパパも、小説の世界ではハードボイルドなおじ様となる。


瞳をとじて生活すれば、人の粗探しばかりの世の中は駆逐され、優しい気持ちが溢れかえる世界が訪れるのかもしれない…。

否!
現実から目を背けてなんかいられない。

「ソファー独占しないでくれる?パパ!」



——— 瞳をとじて ———

1/22/2025, 2:01:07 PM

リビングにて
瓶ビール片手にスマホをポチポチやってると、娘が近づいてきた。

「ねぇ、ちょっといいかな?聞きたいことあるんだけど?」
「ん?おお、何?」
「いつもお世話になっているオジサンに、気の利いた物プレゼントしたいんだけどさ、わかんないんだよねー、何を貰ったら嬉しいのかがさー」

「若い女の子がくれるもんだったら何でも嬉しいと思うぞ?」
「いやだから、その何でもって言うのが難しいって話しよ!」
「いやいや、若い女の子がプレゼントしてくれた…という事象だけでおじさんは天にも登る気持ちになる生き物なのよ。わかる?」

「あのさ、そのポチポチそろそろ止めてくんない?」
「今忙しいのよ。白熱してんのよ。オンライン対戦中なのよ。」
「誰とやってんの?」
「会社の新人君」
「は?そんな人とやってたの?」
「うん?何かおかしいか?」
「20代前半の子と遊んでるの?オジサンが?」
「だから、そうだって!」
「ありえないんだけど…」

「あぁ、なるほどな、お前は大事なことがわかってないな〜」
「はい?」

「男って生き物はだな、どんなに皺が増えようとも、髪が薄くなろうとも、社会的立場が変わろうとも、本質的なものは何も変わらないのよ! しかもスマホのゲームもただのお遊びだと侮るなかれ!これはな、趣味と実益を兼ね備えた最強のコミニュケーションツールと言っても過言ではない代物なのだよ…今の時代ぃぃぃぃぃぃ。あーぁ、死んでもーた!」

「…アホくさ」

「そう、正にソレ!男は幾つになってもアホなの!だから、真剣に考えるだけ無駄なんよ。媚びない程度の可愛げのある言葉を添えてプレゼントすればさ、あちらで勝手に拡大解釈してくれてニヤニヤしながら満足するんだから」

「何だか…損した気分」

「もう一つだけこの世の真理をお伝えしてあげよう。女の人は自己承認欲求の忠実なる下僕、男は自己快楽の忠実なる下僕。これテストに出ます、よく覚えておくように!」
「んー、ソレは何となく合ってるような気がする」

「そんじゃ、俺は風呂入ってくるわ〜」
「いてらー」


翌々日

いつものように出勤しようと玄関に行くと、
沢山の駄菓子が入ったBOXにポストカードが添えてあった。

「お父さん いつもありがとう お仕事頑張ってね♡」


知らず知らずの内に繰り出された数十年振りのスキップ。
超低空飛行だったけれど、背中に羽が生えたよな、そんな一日となりました。


——— あなたへの贈り物 ———

1/21/2025, 4:08:26 PM

アイツと私は幼馴染だった。
小学生の頃は、毎日一緒にいて一番の親友だった。

中学に入る頃、アイツの両親が離婚した。
丁度、そのあたりだろうか…少しずつ疎遠になっていったのは。

私は県内で一番の進学校を目指し、毎日遅くまで塾に通った。
アイツは中学生活も程々に、毎晩バイクに跨り夜の街を徘徊していた。塾の帰り道に、バイクの集団の真ん中辺りに陣取ったアイツと何度もすれ違った。

必死に机にかじりついた甲斐あって、私は志望していた高校に合格した。
アイツは中学卒業と同時に、職人の道を選んだのだと同級生から知らされた。

私が都内の大学への進学を決めた頃、アイツは地元で父親になる準備を始めていた。

成人式に出席するために地元に戻った時、アイツは颯爽と紋付袴姿で現れた。他人行儀なスーツの私も主役の一人であるはずなのに、どこか脇役だと感じてしまった。社会の波に揉まれたアイツの佇まいに魅了されてしまっていたのだ。自分の金で大人になったアイツを尻目に、親の金で大学生活を謳歌する己を少し恥じた。アイツは2児の父親となっていて、夏頃には3人目が生まれるのだと、嬉しそうに話していた。

大学卒業後、私は地元の地方銀行に就職した。
長男ということもあり、結果的に両親の強い意向に逆らえず、言われるがままにそれを受け入れた。そんなことは言い訳で、4年という猶予を与えられながらも、恥ずかしいことに自分で自分の夢を見い出すことが出来なかっただけなのだ。
一方、アイツは独立し、会社を興していた。

春が2度過ぎた頃、突然アイツが私の職場にやってきた。
「お前に担当して欲しい」
そう言うなり、書類をドカりと目の前に積み上げた。
どうやら自宅を兼ね備えた3階建ての鉄骨造3mm以下の自社ビルを計画しているらしく、資金調達の為に銀行に借り入れを申請し、その計画はほぼ終わりを迎えようとしていた。にも拘らずアイツは、半ば強引に私を担当者にしてくれと銀行側に訴えたのだった。

私はアイツが集めてきた資料を貪り読んだ。
家族構成5人、資本金、従業員数…ふと所得の欄で指が止まった。
銀行員である私の所得と同程度の額に胸をなで下ろしたのも束の間に、従業員の給与欄と手厚く充実した福利厚生費に驚きを禁じ得なかった。アイツの経営理念が滲みでた塊がそこにはあった。
アイツの人懐っこい笑顔が不意に思い出された。

私は襟元を正し、アイツの用意した書類と向き合い直した。
大した奴だと素直に思った。
そして、全力を尽くし手助けしようと心に誓った。
生まれて初めて自分の意思で動き出した瞬間だった。

書類の不備はなかったが、一つだけ懸念材料が見つかった。
減価償却期間の対応年数の欄だ。
鉄骨造3mm以下は19年であるのに対し、返済計画を見るときっちり19年で完済する計算となっていた。それは最強の保険である団体信用生命保険も19年で切れるという事を意味するものだった。
額が額だけにアイツに進言した。危うい…と。
しかし、帰ってきた答えは、それで良い。と言うものだった。
真っ直ぐで律儀なアイツらしい金の借り方だと、得心した。

時は流れ、アイツは見事にやり遂げた。
お互い40を幾つか過ぎ、私も中間管理職になっていた。
アイツの会社は順調に業績を伸ばしていた。
最後の支払いを終えた夜、私とアイツはサシでたらふく飲んだ。
19年間の戦いを労い、朝まで互いに称えあった。

その数日後、夜中にアイツのスマートフォンから電話があった。
受話器を取ると、アイツの奥さんからの電話だった。

私は私では無い物体となって、ただがむしゃらに車を走らせた。
道順など覚えていない。裸足、パジャマ姿の私は、ベッドに横たわるアイツにしがみつき、目や鼻や口から大量の液体をばら撒きながら、この世のものでは無い言葉らしきものを叫んだ。

どれほどの時間が経過したのかさえ覚えていない。
我に返り、後ろを振り返るとアイツの奥さんが、子供達が、従業員達が、泣き疲れ、目を腫らし呆然と佇んでいた。
私はフラフラとその場を離れた。
どのようにして家にたどり着いたのか覚えていない。

告別式で、アイツが1年前から大病を患っていた事を知らされた。

決して恵まれた環境にあった訳では無いのに、アイツは自分の命を燃料に巧みに船を操り、そして荒波を越えていった。

光を失った真っ暗な海は、再び私を一人置き去りにした。


——— 羅針盤 ———

1/20/2025, 12:37:34 PM

ヤバい。

正月が私を甘やかしたせいで体重が3kg増えちゃった。
脱衣所から飛び出しリビングにいる両親に泣きつくと、ママは牛飲馬食が原因と宣い、パパは鯨飲馬食が原因だと斬り捨てた。

ひどくない?
牛と馬と鯨に例えるなんて…こちとら花も恥じらう乙女ですよ?
しかも…いつの間にか、牛か鯨かの正誤の論争に発展しててさ…いい加減にしてくれないかな?どちらが正しい、正しくない、とか関係ないから!あたしに言わせれば両成敗よ!


終わったことをグダグダ言っても仕方がないカルビ…かもね。
過去を振り返っても戻ってこないミノ…もの。
動き出シマチョウ…しましょう。

明日に向かって歩く、でも明日から…

だって今から皆で、今年ハツ外食なんだもん。
牛、豚、鳥、鯨、みんなおサガリ!
ジョウロース三枚、もとい…女王様のお通りよ!
あたしが全部まとめて平らげちゃうハラミ…からね。



——— 明日に向かって歩く、でも ———

1/20/2025, 6:00:16 AM

ただひとりの君が集まって、僕らの世界があるのです。


——— ただひとりの君へ ———

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