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2/1/2024, 10:14:11 AM

星屑のブランコ。
漕ぐ度、キラキラと音が鳴る。
女の子、両方の赤い靴をそろえて、茶色い紙を真空に揺らしながら、天の川を越えていく。
ゆらぐ鼓動と、月まで登れそうな加速度と、プラネタリウムみたいな空の公転。
美しくそよぐ、母さんの横顔をした、月の砂漠。
カノープスのサソリの心臓。
ヘラクレスの腰帯。
カストルとポルックスの双子の兄弟。
おおぐま座の尻尾。
南から北まで見渡すと、北斗七星の柄杓が、ちょうど、ブランコの形をしていることに気づいたよ。
ハレルヤと母さんが歌う。
星たちよ、今日はもうお眠りよ。
女の子もはにかんで、一緒に節をつけて歌ったよ。
父さんはギターを鳴らし、弦の音が夜空に澄み渡った。
おやすみ、ハレルヤ。目覚めない時も、また幾月も、神様が降りてくるまで。

1/31/2024, 10:13:41 AM

旅路の果てに、
「この旅路は幸せなものであったかい?」
と、彼は聞いた。
「ええ、幸せでしたとも」
と、彼女は囁いた。
二人はもう、生涯を共にすると決めてから、死がふたりを分かつまで一緒にいた。
彼が、ドラゴンの毒にやられた時も、死の魔法にかかった時も、餅を喉に詰まらせたときも……って、俺いっつも死にかかってるみたいじゃんか!
と、彼が大袈裟にツッコミを入れていたのは、三十代も半ばぐらいまてで、そのひょうきんさはなりを潜めてから、もつ五十年は経つ。
彼女は、彼が死にかける度に彼を蘇生し、介抱した。
彼は、むせぶように泣きながら、息を引き返したこともあったし、思わず吹き出しそうになりながら、
「なんで、こんなことで死にかけたの?」
って、彼女に笑われたこともあったんだ。
それから、幾星霜が過ぎ、二人はすっかり、おじいさんとおばあさん。
「ねぇ、あなた?」
「なんだい?」
「もう、あなたを生き返らせてあげることは出来ないけれど、これだけは言えるわ」
――私と一緒に生きてくれてありがとう。

1/29/2024, 10:32:59 AM

アイラブユーを唱える時、ただ混乱のさなかだったと思う。それは、空中からダイブするより勇気がいって、なんなら口か心臓が吐き出せそうなくらいだった。
その、言葉は必然性を持っていた。
だが、カードを切るように、ボクは偶然を装って言った。
切り札は、僕の心のうちにはなかった。
ただ、君が持っていた、返答のカードは、
「愛してるって、本当? ごめんなさい。本当に嬉しいんだけれど、実際に愛してるのは、あなたっていうより、あなたと友人を含めた、環境そのものなの!」
という、いわば、ハートのジャック的なよく出来た答えだったのさ。
彼女との友好関係に、たしかに楽しみを見出していた僕も僕だが、彼女を含めた友達とやる、スプラトゥーンや、APEXはたしかに楽しかったが、彼女が実は僕のことなんか、眼中になかったなんて!
それはそれは、悲しいすれ違い。
カードはやっぱり、あがれないような、陳腐な組み合わせで、だけれども僕はその、狭量さに彼女を見下してもいたんだ。

1/28/2024, 10:13:51 AM

街へ、今日も街へ。
教会に行くために街へ。
グラウンドを跨ぎ、街と名の着いていた場所へ。
荘厳なる御堂。豪奢なステンドグラス。白いイエス様の像。十字架。オルガンには、広げられたままの楽譜。朽ち果てた回廊、螺旋階段。
シトリは、この教会で祈るのが好きだった。
それは、神様の不在を物語っていたからだ。
神様がいない感じがするのが、好きだった。
十年前、戦争が起こった。
結局、この国は負けた。
そんな戦争の後の廃屋には、瓦礫の下の死体ぐらいしか祈る者もなく、その死体も白骨化してもう影もまばらだ。
彼は、神父であった人、逃げ惑う人々を匿い、そこにミサイルが落ちた。
ミサイルは、住人ごと、教会を半壊させた。
消えていく命と、親子の叫び。
それから……。
そこまで夢想して、シトリはなにか考えあぐねたように空を見た。
神父様、なぜ神に祈らなかったんです?
どうして、それを信じられなかったんです?
シトリは無神論者だ。
けれど、神様が共にある人の事は分かる。
霊魂の声がした。
「私は、結局私を信じられなかったのだ」
と。

1/27/2024, 7:11:41 AM

「ミッドナイトレイディオ。
FM38ネットワークで、お送りしていますこの、『明け方までメンテナンス』ですが、本日のゲストはこちら。
ゲームクリエイターの、明野真太さんです。
真太さん、どうもこんばんは。
よろしくお願いします。
『よろしくお願いします、大阪で███という、ゲーム会社で働いています、明野真太です。代表作は、██████、それと最新作は……』」
おかしい、電波が悪いのか、ラジオのインタビューの声が聞きとれない……。
僕は夏の岩手まで来ていた。
そういえば、オタクである僕は、この人の名前ぐらいだけは聞いた事があって、確か最新作は、ホラーゲームだったはずだ。
車中泊をしようと、山の麓にバンを停めた。
『ダシュダシュ!!』
車の外から、何かを叩くような音がする。
(なんだ、なんなんだ、……!?)
僕は恐怖にかられ、エンジンをつけて、辺りをヘッドライトで、照らした。
『最新作である███は、とある岩手の寒村が舞台で……そこにゾンビが現れるという……』
車を急発進させると、ガコンという大きな音がして、何かを轢いたとわかった。
俺は、車を降りてそれを確認した。
それは、人のような形をした何か、だった……。

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