逆光になって見えない君の瞳が、群青色に輝くのを、僕は知ってる。
それは、その排他的感情の虫の居所の悪さ、といったところから、来るのかもしれないけど。
なんで君は、空に願わないの。
ずっと、星だけを見てるの。
永遠に届かないものを夢想して、どうして微笑んでばかりいられるの。
その自宅では、広葉樹の落ちた枯葉が、玄関先に沢山散らばっていて、それを片付ける君の背中が、明日死ぬともわからぬ湿っぽいメランコリで満たされていて、どうしても抱きしめたくなったけど、それは出来なかった。
俺が男だからじゃない。
君が男だからじゃない。
ただ、仕事仲間という関係であるのにも関わらず、これ以上の関係になるのは、俺が許せなかったんだ。
「ただ、君は俺の前に這いつくばっていればいいんだよ、負け犬」
そんな、非情な言葉をかけて悦に入るぐら俺は子供で、君は
「ははは、その通りかもしれない」
なんて日和見主義なことを言うから、目も当てられないんだ。
俺は、ただ微笑む君を目の前にして、目をそらすことしか出来なかった。
タイムマシーンがあるのなら、八年後ぐらいに戻って、馬鹿だった自分を殴り倒して
「なにやってんだ、ちくしょう! このままじゃ人生ボロっカスじゃねえか!」
と言ってから、十分ぐらい説教して帰りたい。
もしも、タイムマシーンがあるのなら、その後の私の行方を知りたい。
タイムパラドックスは起こるだろうか。
帰ってきた途端、生活が一変して、やはりあの人生の続きをぬくぬくと過ごしているかもしれない。
分からないのは、それが本当の幸せかってことだ。
『今の人生は、幸せですか?』
と聞かれたら、
「失意の縁にある」
と、答えるより他ない。
幸せは、山のあなたの空遠く。
どこにあるのやら。幸せさーぁん!
特別な夜をここで過ごそう。
悲しみのよるも、慈しみの夜も、悲しい時もそばに居てくれた君に曲を送るよ。
それは、僕のレクイエムに似ていた。
夜の帳を満たす歌。
友人はみんな呼んでおくれ。
きっと誰も来ないに違いはしないが。
この夜を、愛で包んでおくれ。
それは、愛しい君の抱擁。
夜の色がする。
暗い夜の、コットンキャンディみたいな味がする。 それは、愛と呼ぶには不確かすぎて、いささか酩酊をともなった。
君に会いたくて、ここまで来たよ。
君のお母さんは随分ふくよかな人だって聞くね。
君のお父さんは随分寡黙な人だって聞くよ。
その、レンガ造りの家屋は、屋根は緑色で、ウェストミンスターの、コテージみたいな小さな造りをしていた。
彼女の家は、カナダにあって夜になるとオーロラがよく見えた。
地球の高緯度帯で観測されるオーロラは、自然の奇跡のように思えたよ。
とにかく雪深い町で、クマがよく森に出るのだと聞いた。
秋の暮れのクマを、お父さんがやっつけた話も聞いたよ。
今日はそれで、ホット・バター・ド・ラムを引っ掛けて眠りについた。
暖炉の日が、燃え尽きるまで、二人はこれからについて話し合った。
日記の筆者は知れない。
この日記の最後に記された署名の欄に記された名は、ロミオ・デ・ル・ロッサの銘。
しかし、この作者は女性。
なら、彼は何者なのか?
筆者の恋人か、夫か? 何故にこの日記に銘を打ったのか?
ロミオは、航海の途中、とある島でこの日記を手に入れた。
(彼女は何者だ? この、清廉な筆致。神をも恐れぬ、背徳的な文面)
その島は、邪教徒に滅ぼされ狩り尽くされた後で、人っ子一人いぬ有様。だが、妙な生活臭が残っているところを見ると、この漁村で祀られていた神の足跡を彼は知ることになる。
彼女は、民俗学者であり、その神を調査していた。
年に一度、人を捧げ物に食らうという、ダゴン。
それが、この村で崇拝されていた神の名前だった。
魚頭に人間の身体をした、漁民の民であり、この漁村では、その神との混血のもの達が暮らしていたという。
日記は途中で途切れているが、その奇異なる生活は、邪悪なる信仰と共に、書き綴られている。
邪悪なる神の信仰は廃れたが、その廃村では今も時折、人では無いものが、陸に上がるという。