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12/21/2023, 10:06:31 AM

大空を舞う、大鯨のように風を纏って行く。
遠征は、吠える。
緑色の大海。最果ての海へ。
緑雲は真下に見ゆ。
安達太良山の鳥瞰図の、壮大さよ。
雲間に犬鷲が、くるくると舞う。
その上を行く、大鯨よ。
苦しみはないのか。
果てはあるのか。
紺青の色は慈しみを帯びて遠く。
また、泣きて空の遠さを想う。

12/20/2023, 10:17:46 AM

ベルの音がする。
足早にクリスマスを先取りして。
「楽しみにしてて、アンネ! 僕は、君のことを思って、今年は本当に最高なクリスマスをプレゼントするからさ!」
サンソンが、ココアを練りながら言う。
クッキーを焼くのは私。
ジンジャーブレッドには、たっぷりのシナモンをきかせて。
サンソンは、高い鼻にそばかすの入った赤ら顔を、裏の畑で取れたにんじんみたいに、しわくちゃにさせて笑った。
私は、なんて言い返そうか、って悩んだ時に。
ああそうだ。私は、この人の愛に素直に答えれば良いんだって、思ったんだ。
その日、プレゼントはなんだったと思う?
小さな子犬。シェパードの子犬。名前は、トムって名付けた。
トムはその日から私たちの家族になった。
どこへ行くのも一緒だった。
トムは、歯の生え変わるとき、噛みグセが酷かったけど、私たちは一切怒らなかった。
庭の外に置いてある、木製のちょっとした寝台がゴミ箱行きになったけど、そんなことはどうでも良かった。
ただ、二人の間に、一人の子犬。
それだけで、幸せっていうものが、三人には、もう理想的な形で決まってしまったのだった。

12/19/2023, 10:30:34 AM

みそ汁の具が寂しい。
麸。
明日を省みることも出来ない私に、喜びのうちに、生を謳歌することはできない。
せめて、あら汁が食べたいなんて、贅沢なことは言わないけれど。
この前、寿司屋で、あら汁を食った。
美味かった。
ただ吸い物なのに、生きているという味がした。
生き物の、味がした。
麸は生きていないもののみそ汁の味だ。
この差は偉大である。
なんにせよ、あら汁は美味かった。

12/19/2023, 3:47:12 AM

冬は一緒に飾りつけをしよう。
クリスマスの大きなもみの木に。

「クリスマスツリーなんて、大っ嫌い!」
とメリーは言ったよ。
だって、お母さんがプレゼントをくれないんだもん。
メリーは知っていた。
サンタクロースが両親だってことも。
貧乏な家には、プレゼントがやってこない理由も。
そりゃ、五歳ぐらいの時には、枕元に靴下を吊り下げて思ったさ。
(明日になったら素敵なプレゼントが、絶対詰まってるんだ!)って。
でも、クリスマスの朝、お母さんは怒鳴ってこう言った。
「本当にもう、いけない子! サンタクロースってのは、親のことなんだよ。そんな夢なんていつまでも見ていないで、仕事を手伝いなさい!」
ってね。
それで、メリーは末の弟を、背中におぶったよ。
そして、八歳の朝。
初めて彼女はクリスマスプレゼントをもらいました。
叔父さんがやって来て、メリーを養子に迎え入れるというクリスマスプレゼントを。
それは、メリーにとって、新しい幸せの扉を開ける鍵でした。
そして、メリーの波乱万丈な、人生の始まりでもあったのです。

12/13/2023, 10:16:09 AM

愛を注いで。
カクテルグラスはロングで。
カシスウーロンの、青から茶へのグラデーション。
陽一は、このバーでマスターをやって、六年になる。カクテルをステアするシルエットは、シャンデリアの明かりに照らされて浮かび上がる。黒と白のハイライトは、コルク栓の赤茶けたワインボトルに投影されて、喧騒的に光っている。
キールは、ワインとトニックウォーターをステアしたカクテルで、ピンク色に光るグラスの底が愛らしい。女性に受けるカクテルだ。
愛してると言う時、カクテルがあれば、どんなに幸せだろう。
別れを切り出す時、カクテルがあれば、どんなに円滑に話が進むだろう。
酒の力は偉大だ。
今日もカップルがやって来て、二人ともソルティドッグで、と言うので陽一は、グラスの端に薄く塩を付けた。ウォッカをベースにグレープフルーツジュースで割った酒は、度数は強いが根強い人気がある。
それは、この日の疲れを癒しにやって来る、人々の潤いである。

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