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ベルの音がする。
足早にクリスマスを先取りして。
「楽しみにしてて、アンネ! 僕は、君のことを思って、今年は本当に最高なクリスマスをプレゼントするからさ!」
サンソンが、ココアを練りながら言う。
クッキーを焼くのは私。
ジンジャーブレッドには、たっぷりのシナモンをきかせて。
サンソンは、高い鼻にそばかすの入った赤ら顔を、裏の畑で取れたにんじんみたいに、しわくちゃにさせて笑った。
私は、なんて言い返そうか、って悩んだ時に。
ああそうだ。私は、この人の愛に素直に答えれば良いんだって、思ったんだ。
その日、プレゼントはなんだったと思う?
小さな子犬。シェパードの子犬。名前は、トムって名付けた。
トムはその日から私たちの家族になった。
どこへ行くのも一緒だった。
トムは、歯の生え変わるとき、噛みグセが酷かったけど、私たちは一切怒らなかった。
庭の外に置いてある、木製のちょっとした寝台がゴミ箱行きになったけど、そんなことはどうでも良かった。
ただ、二人の間に、一人の子犬。
それだけで、幸せっていうものが、三人には、もう理想的な形で決まってしまったのだった。

12/20/2023, 10:17:46 AM