StRat

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4/11/2026, 12:05:31 PM

 「私」がペンを持ち、作文用紙に向かってから1時間が経過した。
 相も変わらず作文用紙は真っ白のままで、ペン先のインクは紙に触れる事もなく乾いていくばかり。
 けれど、それでも……それでも物語を描かなければいけない。
 だって、だって『私』は。文字を書き連ねなければ、作品が作られなければ、生きていけないのだから。

 「私」が初めてショートショートを描き、ネット上にある小さな作品投稿サイトに投稿した時。『私』は生まれた。
 流石に「私」という名でネットに作品を投稿する訳にも行かなかった「私」は、『私』という名で書いた作品を公開したのだ。
 『私』の書いた作品は大人気とまでは行かないものの、少しずつ見てくれる方々やコメントを残してくださる方々が増えてきてくれて。
あぁ、書いて良かった。喜ばれて嬉しいな。なんて胸が暖かくなる。

 けれど……ある時。「私」は書けなくなった。
 なにか怪我をしたとか、そういう訳では無い。
ただ、なにも。なにも思いつかなくなってしまった。書こうと紙の前に向かったとしても、今現在みたいに何も書けなくなってしまうのだ。
 無論。「私」が作品を生み出さなければ、『私』は何も発信できない。
 何も発信できなければ、今見てくれている方はどんどん消えていってしまう。
 そうなれば……『私』は、死んでしまうのだ。
どれだけ現実世界で「私」が生きていようが関係ない。『私』は、『私』という名のアカウントの心臓は止まったままなのだ。

 だから酸素を、文字を、作品を、言葉を。
 書かなければ。発信しなければ。
 『私』はまだ、消えたくなんて……。


(お題 言葉にできない)

3/5/2026, 7:44:58 PM

 スランプ。そう、スランプなのだ。
哲学思想に出てくるコピー人間ではない。それはスワンプマンだ。
調味料で味付けした昆布の話ではない。それはスコンブだ。
コンクリートの検査?たしかにそれもスランプだが……。
 兎も角、私が言いたいのはまともにアイディアの泉が枯れ果て、無理に筆を取っても凄まじい怪文書が出来るだけなのだ。
そう、君達が読んでいるこの話みたいな……。

 だからたまには筆を置いて、1泊2日の温泉にでも行って休んでも良かろう。それで疲れが取れて、アイディアの源泉が湧けば、ゆっくりと筆を持ち直そう。
……違う、たしかに私は筆を置くとは言ったが、ボールペンを渡されても困る。
私は常に筆で文字を綴っているわけではない!デジタルだ!

 いい加減にしないか。君は……。


(お題 たまには)

3/2/2026, 12:57:05 PM

 パソコンを叩く、パソコンを叩く。
1分でも、一秒でも早く打って、早く帰りたいのだ。
終電がなくなってしまえば、また家に帰れなくなってしまうし、そこまで残らなくても家帰って寝るだけになるのは苦痛なのだ。
定時退社。それがたった一つの希望だ。

 あれ、いつの間に、私の希望や、夢は……こんなちっぽけなものになってしまったのだろうか……。

(お題 たった一つの希望)

2/28/2026, 11:04:07 PM

 知らない土地に来た。
ここは海辺の街のようで、潮の香りと波の音がどこからでも聞こえる。店の数もかなり多い方なここは、きっと観光地なのだろう。
最も、今は夜も遅いせいで人はほとんどいなかった。
 こんな夜にここに来た理由はただ1つ。
……海に溺れて死ぬためだからだ。
別に、死ぬ理由はそこまで大したものではない。親からはそこそこ大事に育てられたし、学校で孤立することもなかった。変な犯罪に巻き込まれたことなんて生まれて1度もない。
ただ、本心から好きだと感じている物を共感してくれる人が欠けてただけ。けれど、その小さな理由が、私の足を動かすに至った経緯だった。

 私は、救いようのないバッドエンドが好きだった。
別に、可哀想な子が可愛いって思うような癖を持っている訳ではなくて。気分を害すような苦しい話が、一生トラウマとして自らに刻まれる感覚が好きだった。
 だが、どうやら周りの人はそうではないらしい。ハッピーエンドではない話を描いては「悲しいからちゃんとハッピーエンドにして」と言われたこともあるし、なんなら勝手に修正されてた事もあった。
 ついに同じ好みを持つ人に出会えたとしても、大体はキャラクターをいじめたい人であったりだとか、所謂メリーバッドエンドといった、別のものを愛する人だったりと、どうも話が噛み合わなくなるのだ。
 たったこれだけ。これだけではある。のに、どこに行っても話が合わないというものは、自らが知らない街へ迷い込んでしまったかのような孤立感が常に纏わりついてくるようなことで。
そんなことに耐えられなかった。……これが、自らを死に至らしめる経緯である。

 走馬灯を頭の中で再生していれば、やっと浜辺に着いた。
私は、迷うことなく足を動かして、服を着たまま水の中へ入っていく。
 ……きっと、この遺書を読む人は私を止めたいと願うのだろう。
死にゆく人を無理やり堰き止めて、もう二度としないでねと諭してハッピーエンド。読んでいる君達はそうしたいかもしれない。
 けれど、お願い。私を止めないで欲しい。
最期くらい、私は、大好きな救いのないエンディングで締めくくりたいのだ。


(お題 遠くの街へ)

2/27/2026, 12:16:20 PM

 VRの世界は最高だ!
俺がどんなに化粧してもなれなかったかわいい女の子にだってなれるし、ボイスチェンジャーを使えばキラキラした声が出せた。
そんな俺を見て男共は俺をチヤホヤしてくれる。
昔からかわいい女の子のアイドルになりたくても、自身の醜い姿で諦めていた夢が、VRの世界であれば叶えることができたのだ!
 そして、VRの世界であれば、どんなところにだって行ける。
例えば宇宙、例えばお化け屋敷、例えば終わらない遊園地。
夢にまで見た景色を、俺は空を飛んで眺め、時には遊び、学び……自由なひとときを過ごすのだ。

 あぁ、そろそろ眠らなければ。そう考えた俺は、空を飛びながらひとつの建物へと向かう。
そこはコンクリートでできた無機質な建物で、未だ稼働中のアンドロイドがこちらに見向きもせずに警備を続けている。
俺は、慣れた様子で道を歩んでいく。嫌だ、眠りたくない。もっとVRの世界に浸っていたいと考えるも、歩みは止まらない。仕方ないことだ、と内心諦めつつあったのは、成長の証なのだろうか。
 俺はある一室に入っていく。そこには、億を超えそうな程たくさんの水槽があった。
その中の1つ。自らの脳が浮かぶ水槽の前で、俺はため息を吐いた。

 どうして、こんなにもVRが発展したというのに、現実という夢を見なければいけないのだろう。
外で警備するアンドロイドのように、眠らなければいいのに。
 俺は憂鬱な感情に支配されながらも、繋げられたチューブから発した電波のせいで、速やかに意識を失う。そうして、現実という夢の世界へと落ちていくのだった。


(お題 現実逃避)

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