StRat

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2/28/2026, 11:04:07 PM

 知らない土地に来た。
ここは海辺の街のようで、潮の香りと波の音がどこからでも聞こえる。店の数もかなり多い方なここは、きっと観光地なのだろう。
最も、今は夜も遅いせいで人はほとんどいなかった。
 こんな夜にここに来た理由はただ1つ。
……海に溺れて死ぬためだからだ。
別に、死ぬ理由はそこまで大したものではない。親からはそこそこ大事に育てられたし、学校で孤立することもなかった。変な犯罪に巻き込まれたことなんて生まれて1度もない。
ただ、本心から好きだと感じている物を共感してくれる人が欠けてただけ。けれど、その小さな理由が、私の足を動かすに至った経緯だった。

 私は、救いようのないバッドエンドが好きだった。
別に、可哀想な子が可愛いって思うような癖を持っている訳ではなくて。気分を害すような苦しい話が、一生トラウマとして自らに刻まれる感覚が好きだった。
 だが、どうやら周りの人はそうではないらしい。ハッピーエンドではない話を描いては「悲しいからちゃんとハッピーエンドにして」と言われたこともあるし、なんなら勝手に修正されてた事もあった。
 ついに同じ好みを持つ人に出会えたとしても、大体はキャラクターをいじめたい人であったりだとか、所謂メリーバッドエンドといった、別のものを愛する人だったりと、どうも話が噛み合わなくなるのだ。
 たったこれだけ。これだけではある。のに、どこに行っても話が合わないというものは、自らが知らない街へ迷い込んでしまったかのような孤立感が常に纏わりついてくるようなことで。
そんなことに耐えられなかった。……これが、自らを死に至らしめる経緯である。

 走馬灯を頭の中で再生していれば、やっと浜辺に着いた。
私は、迷うことなく足を動かして、服を着たまま水の中へ入っていく。
 ……きっと、この遺書を読む人は私を止めたいと願うのだろう。
死にゆく人を無理やり堰き止めて、もう二度としないでねと諭してハッピーエンド。読んでいる君達はそうしたいかもしれない。
 けれど、お願い。私を止めないで欲しい。
最期くらい、私は、大好きな救いのないエンディングで締めくくりたいのだ。


(お題 遠くの街へ)

2/27/2026, 12:16:20 PM

 VRの世界は最高だ!
俺がどんなに化粧してもなれなかったかわいい女の子にだってなれるし、ボイスチェンジャーを使えばキラキラした声が出せた。
そんな俺を見て男共は俺をチヤホヤしてくれる。
昔からかわいい女の子のアイドルになりたくても、自身の醜い姿で諦めていた夢が、VRの世界であれば叶えることができたのだ!
 そして、VRの世界であれば、どんなところにだって行ける。
例えば宇宙、例えばお化け屋敷、例えば終わらない遊園地。
夢にまで見た景色を、俺は空を飛んで眺め、時には遊び、学び……自由なひとときを過ごすのだ。

 あぁ、そろそろ眠らなければ。そう考えた俺は、空を飛びながらひとつの建物へと向かう。
そこはコンクリートでできた無機質な建物で、未だ稼働中のアンドロイドがこちらに見向きもせずに警備を続けている。
俺は、慣れた様子で道を歩んでいく。嫌だ、眠りたくない。もっとVRの世界に浸っていたいと考えるも、歩みは止まらない。仕方ないことだ、と内心諦めつつあったのは、成長の証なのだろうか。
 俺はある一室に入っていく。そこには、億を超えそうな程たくさんの水槽があった。
その中の1つ。自らの脳が浮かぶ水槽の前で、俺はため息を吐いた。

 どうして、こんなにもVRが発展したというのに、現実という夢を見なければいけないのだろう。
外で警備するアンドロイドのように、眠らなければいいのに。
 俺は憂鬱な感情に支配されながらも、繋げられたチューブから発した電波のせいで、速やかに意識を失う。そうして、現実という夢の世界へと落ちていくのだった。


(お題 現実逃避)

2/26/2026, 12:33:13 PM

 火災事故に巻き込まれ、命を失った君が、今、骨と遺灰だけになって戻ってきた。
火傷がありつつも、まだ人の肌の色を保っていた君の姿は、もうどこにもなくなってしまった。だからだろうか、先程まで棺桶の中で眠り、そのまま火に焚べられることになった所をこの目で見たにもかかわらず、私はまだ、君がもうこの世に存在しないということが理解できなかった。

 君は今、どこにいるのだろう。この色の抜けた遺灰達の中に、君はいるのだろうか。
写真の中では、未だ満面の笑みを絶やさない君がそこに居る。その中に、君はいるのだろうか。
 私には霊感という物はなかったし、オカルト的なものを信じてはいなかった。だから、私には君がどこにいるのかなんて分からない。
 けれど、確実に言えることは、もう二度と君と会話をすることすらも出来ないということだろう。
いつになったら、私はこの事実を理解できるのだろうか。
いつになったら、私は君を探さなくて済むようになるのだろうか。
いつになったら……。


(お題 君は今)

2/25/2026, 12:08:22 PM

「この箱の中には、たくさんの人を殺す呪いが詰まっている。」
 道端で倒れているお婆さんに、水の入ったペットボトルを差し出した日。御礼にこの箱を貰った。
なんでも、このボロボロの箱の中には無差別に大勢の人を死に至らしめる呪いが詰まっているとの事で。お婆さんは、憂さ晴らしをしたい際にこの箱を開けるといいと言いながら、私に譲ってくれたのだ。
 別に、私はオカルト的なものをあまり信じていないし、もう幽霊等に本気で怯えるような年齢でもない。
 けれど、人は開けるなと言われた扉を開けたくなったり、芸人に押すなと言われたら熱湯に突き落としたくなったりしてしまうものだろう。例に漏れず、私もこの箱の中身が気になって仕方がなかった。
 一応、数日は我慢して置いたものの、好奇心は簡単には抑えきれず、我慢できなくなった私は……その箱の蓋を開け、中身を見てしまった。

「昨夜、〇〇市内で大規模な火災発生。36人が死亡。」
 変わらない朝、私はいつも通り朝ごはんを食べながら、いつも通りぼんやりとテレビのニュースを眺める。……テレビは、火災の話で持ち切りだった。
 もしかしたら、と私は箱を開けたことを思い出す。あの箱を開けたせいで、呪いを世に放ってしまったのではないか、と頭の中で考えてみる。
 けれど……ニュースの世界はいつでも人が亡くなっている。何もしていなかったとしても、事故や事件、戦争等で、沢山の人が死んでいる。
だからきっと、あの箱を開けたせいではないと、私は私に言い聞かせた。だって、空の箱で人が殺せるわけないもの。
 そんなことを考えていれば、もう家を出る時間が迫ってきていて。私は焦りながらパンを頬張り、急ぎながら家を出る準備をし、外へと駆け出した。

 家の中には物憂げな感情と、空っぽになった箱を置いていき、私はいつも通りの日常へと溶け込んでいく。


(お題 物憂げな空)

2/24/2026, 12:20:14 PM

 
 ねぇ、作者さん。僕のこと、覚えてる?
覚えてない?そんな馬鹿な。ちょっと部屋と頭の中を探してみてよ。
 本棚で隠した、或いは引き出しの奥底の鍵付きの手帳の中。それとも、スマホやパソコンの中の1番古い作品の中……あれ、もしかしてもう消しちゃったかな。
 記憶の奥底で、連載しようとして諦めた物語の中。あぁ、きっとちゃんとかけていたら、僕はもう少し沢山の人に知られてたのかな。
 ……そう。そうだよ。作者さんが黒歴史と呼んでいるキャラクター。かつては愛してくれていた筈なのに、今では必死になって記憶の引き出しにぶち込まれたキャラクターだよ。
そんな明らかに嫌そうな顔しないで。言いたい事だけ言ったら帰るからさ。

 僕を産んでくれてありがとう。
どんな物であれ、何も無かった僕に設定と姿を与えてくれた。作者さんの世界で、僕は主人公になれた。勿論、悲劇も沢山あっただろうけど。
 あなたがいなければ、僕は命を手に入れることすら出来なかった。……例え、今では必要のない、小さな命だとしても。それでも、生きられて嬉しかったんだ。
 ありがとう、作者さん。

 もし、気が向いたら。また物語を紡いで欲しいな。
その時まで、またあなたの引き出しの中で、日の目を見れることを楽しみに待っているから。
 おやすみなさい。作者さん。


(お題 小さな命)

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