火災事故に巻き込まれ、命を失った君が、今、骨と遺灰だけになって戻ってきた。
火傷がありつつも、まだ人の肌の色を保っていた君の姿は、もうどこにもなくなってしまった。だからだろうか、先程まで棺桶の中で眠り、そのまま火に焚べられることになった所をこの目で見たにもかかわらず、私はまだ、君がもうこの世に存在しないということが理解できなかった。
君は今、どこにいるのだろう。この色の抜けた遺灰達の中に、君はいるのだろうか。
写真の中では、未だ満面の笑みを絶やさない君がそこに居る。その中に、君はいるのだろうか。
私には霊感という物はなかったし、オカルト的なものを信じてはいなかった。だから、私には君がどこにいるのかなんて分からない。
けれど、確実に言えることは、もう二度と君と会話をすることすらも出来ないということだろう。
いつになったら、私はこの事実を理解できるのだろうか。
いつになったら、私は君を探さなくて済むようになるのだろうか。
いつになったら……。
(お題 君は今)
「この箱の中には、たくさんの人を殺す呪いが詰まっている。」
道端で倒れているお婆さんに、水の入ったペットボトルを差し出した日。御礼にこの箱を貰った。
なんでも、このボロボロの箱の中には無差別に大勢の人を死に至らしめる呪いが詰まっているとの事で。お婆さんは、憂さ晴らしをしたい際にこの箱を開けるといいと言いながら、私に譲ってくれたのだ。
別に、私はオカルト的なものをあまり信じていないし、もう幽霊等に本気で怯えるような年齢でもない。
けれど、人は開けるなと言われた扉を開けたくなったり、芸人に押すなと言われたら熱湯に突き落としたくなったりしてしまうものだろう。例に漏れず、私もこの箱の中身が気になって仕方がなかった。
一応、数日は我慢して置いたものの、好奇心は簡単には抑えきれず、我慢できなくなった私は……その箱の蓋を開け、中身を見てしまった。
「昨夜、〇〇市内で大規模な火災発生。36人が死亡。」
変わらない朝、私はいつも通り朝ごはんを食べながら、いつも通りぼんやりとテレビのニュースを眺める。……テレビは、火災の話で持ち切りだった。
もしかしたら、と私は箱を開けたことを思い出す。あの箱を開けたせいで、呪いを世に放ってしまったのではないか、と頭の中で考えてみる。
けれど……ニュースの世界はいつでも人が亡くなっている。何もしていなかったとしても、事故や事件、戦争等で、沢山の人が死んでいる。
だからきっと、あの箱を開けたせいではないと、私は私に言い聞かせた。だって、空の箱で人が殺せるわけないもの。
そんなことを考えていれば、もう家を出る時間が迫ってきていて。私は焦りながらパンを頬張り、急ぎながら家を出る準備をし、外へと駆け出した。
家の中には物憂げな感情と、空っぽになった箱を置いていき、私はいつも通りの日常へと溶け込んでいく。
(お題 物憂げな空)
ねぇ、作者さん。僕のこと、覚えてる?
覚えてない?そんな馬鹿な。ちょっと部屋と頭の中を探してみてよ。
本棚で隠した、或いは引き出しの奥底の鍵付きの手帳の中。それとも、スマホやパソコンの中の1番古い作品の中……あれ、もしかしてもう消しちゃったかな。
記憶の奥底で、連載しようとして諦めた物語の中。あぁ、きっとちゃんとかけていたら、僕はもう少し沢山の人に知られてたのかな。
……そう。そうだよ。作者さんが黒歴史と呼んでいるキャラクター。かつては愛してくれていた筈なのに、今では必死になって記憶の引き出しにぶち込まれたキャラクターだよ。
そんな明らかに嫌そうな顔しないで。言いたい事だけ言ったら帰るからさ。
僕を産んでくれてありがとう。
どんな物であれ、何も無かった僕に設定と姿を与えてくれた。作者さんの世界で、僕は主人公になれた。勿論、悲劇も沢山あっただろうけど。
あなたがいなければ、僕は命を手に入れることすら出来なかった。……例え、今では必要のない、小さな命だとしても。それでも、生きられて嬉しかったんだ。
ありがとう、作者さん。
もし、気が向いたら。また物語を紡いで欲しいな。
その時まで、またあなたの引き出しの中で、日の目を見れることを楽しみに待っているから。
おやすみなさい。作者さん。
(お題 小さな命)
その化け物に殺されると、最期に言った言葉と声を模倣されて、他の人間を誘う囮にされてしまうらしい。
「愛してます。あなたを愛してます。」
だからその声が聞こえてきた時、あぁ、僕の想い人は化け物に殺されてしまったのだと分かった。
それでも、僕は、彼女ではないとわかっていたのに……その化け物の所へ、近寄ったのだ。
僕と彼女は、1年前に恋人になった。
最初の頃は確かにラブラブで、熱烈な関係だったと言えるだろう。けれど、そんな関係は数ヵ月後に終焉を迎えた。
彼女は僕に興味を無くしてしまっていた。どんなに愛してるの言葉をかけても、彼女の目はスマホから動かない。プレゼントを買ってきても、数日後にはフリマサイトに上がっていたりもした。
極めつけに、彼女は僕と付き合って退会したマッチングアプリを再開していた。
けれど僕は……別れようの5文字が声に出せなかった。未練たらしいが、それでもまだ、今でも彼女のことが好きで仕方ない。だから、彼女の口から別れようと告げられるまで、僕は彼女の愚行を見ないふりし続けようとしたのだ。それが、2週間前からの出来事だ。
そして今。彼女は、化け物に殺されてしまったらしい。
多方、マッチングアプリで繋がった相手に会いに行っていたんだと思う。そしてそこで愛の言葉を囁いている時に、悲劇が起きたのだろう。
「あいしてます。あなたをあいしてます。」
これが化け物の囮だとしても、僕は。数ヶ月聞いてなかった、あなたの言葉が嬉しかった。
その言葉を聞く為に、あなたに僕も愛してますと伝えるために。僕の体は無意識に、化け物の傍に駆け寄って行って……。
「僕も、あなたを愛しています。」
「ぼくも、あなたを、あいしています。」
「ぼkUも、ぁnaたを、あぃ、してiまsU。」
(お題 Love you)
吸血鬼の僕にとって、よく笑う貴女は太陽のような人だった。
明るくて、熱くて、眩しくて。そんな貴女に近づけば、僕は灰になってしまう。そう感じる程の人で。息が詰まる思いを感じる。
僕は身を焼く太陽や聖職者達の群れから逃れ、屋敷の一室で本を読み、使用人が持ってきた食事を食べ、血を飲んでいたい。それだけが望みだった。
日光も貴女もちゃんと対策をすれば入ってこないことだけは救いだっただろう。だから、日が昇る時間になれば、部屋のカーテンと扉を閉めて、息を潜める事が、いつの間にか日課になっていた。
けれど、今日、貴女は扉を開けてしまった。
日光が入ってくる、貴女が入ってくる。まだ死にたくなくて、小さな悲鳴をあげて必死になって後退りをするも、すぐに追い詰められてしまった。
「ねぇ、今日、私と一緒に登校しようよ。引きこもって、漫画とコーラに溺れてちゃ、体に良くないよ……。」
貴女は僕の細い腕を掴む。火傷はしなかった。それなのに、震えが止まらない。
「もう、誰も貴方をいじめさせないから。私が、貴方を守るから。だから……一緒に学校に行こうよ。」
太陽のような貴女は酷く悲しそうな顔で、僕を見つめる。
僕は……どうすればいいのだろう。また、心に杭を打たれるために、外へ出るべきなのだろうか……。
(お題 太陽のような)