StRat

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 知らない土地に来た。
ここは海辺の街のようで、潮の香りと波の音がどこからでも聞こえる。店の数もかなり多い方なここは、きっと観光地なのだろう。
最も、今は夜も遅いせいで人はほとんどいなかった。
 こんな夜にここに来た理由はただ1つ。
……海に溺れて死ぬためだからだ。
別に、死ぬ理由はそこまで大したものではない。親からはそこそこ大事に育てられたし、学校で孤立することもなかった。変な犯罪に巻き込まれたことなんて生まれて1度もない。
ただ、本心から好きだと感じている物を共感してくれる人が欠けてただけ。けれど、その小さな理由が、私の足を動かすに至った経緯だった。

 私は、救いようのないバッドエンドが好きだった。
別に、可哀想な子が可愛いって思うような癖を持っている訳ではなくて。気分を害すような苦しい話が、一生トラウマとして自らに刻まれる感覚が好きだった。
 だが、どうやら周りの人はそうではないらしい。ハッピーエンドではない話を描いては「悲しいからちゃんとハッピーエンドにして」と言われたこともあるし、なんなら勝手に修正されてた事もあった。
 ついに同じ好みを持つ人に出会えたとしても、大体はキャラクターをいじめたい人であったりだとか、所謂メリーバッドエンドといった、別のものを愛する人だったりと、どうも話が噛み合わなくなるのだ。
 たったこれだけ。これだけではある。のに、どこに行っても話が合わないというものは、自らが知らない街へ迷い込んでしまったかのような孤立感が常に纏わりついてくるようなことで。
そんなことに耐えられなかった。……これが、自らを死に至らしめる経緯である。

 走馬灯を頭の中で再生していれば、やっと浜辺に着いた。
私は、迷うことなく足を動かして、服を着たまま水の中へ入っていく。
 ……きっと、この遺書を読む人は私を止めたいと願うのだろう。
死にゆく人を無理やり堰き止めて、もう二度としないでねと諭してハッピーエンド。読んでいる君達はそうしたいかもしれない。
 けれど、お願い。私を止めないで欲しい。
最期くらい、私は、大好きな救いのないエンディングで締めくくりたいのだ。


(お題 遠くの街へ)

2/28/2026, 11:04:07 PM