涙の跡 オアシス 虹のはじまりを探して タイミング 熱い鼓動 です。
涙の跡
「結婚してください」
キミにそう告げると
「…はい」
キミは涙を流す。
「ありがとう」
流れるキミの涙を拭おうと、キミの頬に手を伸ばすと
「そのままにして」
伸ばした手をキミに掴まれてしまう。
「…どうして?」
想いを受け入れてくれたはず。なのに、拒絶されたようで呆然としていると
「悲しい涙は残したくないけど、嬉しい涙は、跡にして残しておきたいの。だから、このままにして」
涙の跡はそのままにして微笑むキミを、僕は強く抱きしめたのだった。
オアシス
「あーあ、もうこんな時間か」
自分の周り以外、電気の点いていないオフィスで伸びをする。
「もうちょっとで終わるけど、休憩しようかな」
一息入れようとオフィスを出て、自販機で飲み物を飲んでいると
「あれ?まだいたのか?」
部長に声を掛けられた。
「お疲れさまです。明日の朝提出の書類がまだ終わらなくて」
あはは。と笑うと
「そうなの?俺、手伝えることある?」
と、聞かれる。
「ありがとうございます。あと少しで終わるので大丈夫です」
「そう?なら、終わるまで待ってるよ」
「いえ、部長は出張帰りでお疲れですよね?お先にどうぞ」
待たせるのは申し訳なく、断ると
「邪魔じゃなければ、待たせてよ。こんな時間に女性が1人で歩くのは危ないし」
ニコッと微笑まれる。
「…ありがとう、ございます」
心配してもらえたことが嬉しくて思わず俯くと
「いつも頑張ってくれてありがとう」
優しく髪を撫でられる。
「え?」
撫でられたことに驚いて顔を上げると
「あっ、ごめん」
慌てたように部長は手を引っ込める。
「いえ、あの、また、髪、撫でてもらえませんか?」
「は?」
私の反応に部長は目をぱちくりさせるけれど
「部長に髪を撫でられたら、疲れがスッと飛んでいきました。部長は私の、心のオアシスみたいです」
それに気付かないふりをして、思ったことを口にすると
「べ、別にかまわないけど」
あたふたしながらも、部長は私の願いを受け入れてくれるようだ。
「ありがとうございます」
撫でてくれた部長には、深い意味はなかったと思う。けれど、部長に片思いしている私にとっては、部長への想いも、仕事へのやる気も一気に上がり、残業してて良かった。とさえ思えたのでした。
虹のはじまりを探して
虹のはじまりを探して、自転車を走らせる。
辿り着く前に消えてしまうかもしれない。いや、その可能性は高いとわかっていながらも、走ることはやめられない。
「あー今日もダメだったか」
虹が消え、道の端に自転車を停め、息を整える。呼吸が荒くなるくらいの全速力で自転車を漕いでも、虹のはじまりを見つけられなかった。
「でも、まだ諦めねえ」
何をやっても続かない俺。
「虹のはじまりってどこなんだろう?見てみたいよね」
こんな俺みたいな奴にも優しくしてくれたキミが言ったその言葉。キミに、虹のはじまりの写真を撮って見せたくて俺は走り続ける。
「もし見せてあげられたら、キミは笑ってくれるかな」
仕事が忙しくて。と嘆いていたキミを笑顔にしたくて、続けられない俺が、虹を見つけてははじまりを探す。ということを、今日も続けているのだった。
タイミング
彼女と付き合い始めて3ヶ月。友人は、まだ早い。と言うけれど、俺は彼女と結婚したかった。
「なあ、お前はどう思う?」
俺の、小さい頃からの親友。彼を呼び出し、話を聞いてもらっていた。
「ん?お前が結婚したいと思うなら、したら良いんじゃね?」
向かいでパスタを口に入れながら、彼は答える。
「でも、他の奴らは、まだ早いって…」
俺の言葉に、彼は持っていたフォークを置くと
「お前さ、何でそいつらの言葉に従ってんの?」
俺を軽く睨みつける。
「え?」
「他の奴らの言葉は、ただの意見だ。もちろん、参考にしても良い。けど、大切なのはお前の気持ちだろ?結婚したいと思うなら、今がそのタイミング。彼女が受け入れてくれるかはわからないが、お前の気持ちは伝えた方が良い。と、俺は思う」
「あ…」
彼の言葉にハッとした俺に
「ほら、早く行って来な」
彼は微笑む。
「ありがとう。行って来るわ」
「おう」
彼の言葉に背中を押され、俺は彼女の家へと向かうのだった。
熱い鼓動
「あ~どうしよう。緊張する」
今日はキミとの初デート。想いが通じただけで幸せなのに、今日はキミと2人きり。デートの誘いをキミが受け入れてくれたときから、今日までドキドキが止まらなかったけど、キミを待っている今が、1番ドキドキしている。
「ごめんね、待った?」
キミを待つこと数分。キミが笑顔で近づいてくるその姿を見つめながら、平静を装うため、熱い鼓動をぐっと抑えるのだった。
星を追いかけて またいつか True Love もしも過去へと行けるなら 半袖 です。
読み返しはしていないので、変な文章になっていたらすみません。
星を追いかけて
「…やっぱり、ムリなのかな」
自分のやりたいこと。あこがれの職業。その夢に向かって夢中で追いかけているけど、遠ざかる気しかしないし、手が届かない。
「…諦めが肝心…か」
はぁ。とため息を吐いたとき
「あれ?久しぶりじゃん」
後ろから肩を叩かれる。
「え?…久しぶりだね」
振り向いた僕の目に映ったのは、仲良くしていた同級生で。
「で、何かあったのか?」
彼は、会うのが久しぶりにもかかわらず、あの頃のように話しかけてくる。
「…どうして?」
落ち込んでいることを悟られ、ドキッとしながらも落ち着いて返事を返すと
「どうして。って、俯いて、とぼとぼ歩いてただろ」
苦笑いされる。
「そう、だったんだ。気づかなかったな」
ハハッと笑ってみせるけど、気を抜くとため息が出てしまう。
「で?」
「ああ、うん。…今でも夢を追いかけてるんだけど、上手く、いかなくて…」
情けなさに、込み上げてきそうな涙を、唇を噛んで耐えると
「そっかあ。けど、諦めずに追いかけるなんて、お前、やっぱすげえわ」
ニッと笑いながら、彼は、僕の肩をバシバシ叩く。
「ちょっ、痛いって」
「お前の夢はさ、年齢関係なく掴める夢じゃん。だから、焦らず追いかけろよ。んで、勝利という名の星を掴むために、どこまでも、星を追いかけて行け」
彼に励まされ
「…ありがとう。元気、出たわ」
また頑張ろうと思えた。
「そっかそっか。なら、久しぶりだし、どっかで話でもすっか」
「いいね。そうしよ」
あの頃と同じように、僕たちは肩を並べて歩くのだった。
またいつか
「またいつか」
「ああ、またな」
お互いに片手を挙げ、別々の道を歩く。
数年前に出向で、今は出張で来ている場所。
「たまに見かけるが、あんた、この辺の人か?」
出向に来たとき、週一で通っていたバー。そこで彼に話しかけられた。
「ここには出向で来てる。あと少しでその期間も終わるがな」
「そうか。あんたが1人なら、隣いいかい?俺は1人だから話し相手がほしくてね」
「ああ、かまわないよ」
それから、ここが地元だということ以外、何も知らない彼と一緒に飲むようになった。けれど、時間を合わせてここに来る約束をするわけでもなく、偶然会えたら飲むか。くらいな関係。けれどそれが、気付けば楽しい時間になっていた。
「今日で出張は終わりなんだ。会えて良かったよ」
「そうか。また来たときは、一緒に飲もうな」
「ああ。約束だ」
乗り気ではなかった、出向で来た場所。それも、彼のおかげで、憂鬱な気持ちはなくなり、むしろ楽しみになった。お互いに詳しいことは知らない間柄だけれど、こんな付き合いも悪くない。と思うのだった。
True Love
「…別れようか」
ため息を漏らしつつ、彼女に告げると
「え、何で?イヤだよ」
と、縋りつかれる。
「そうだよね。俺と別れたら、金づるがいなくなるもんね」
ギロリと彼女を睨みつければ
「え…」
彼女は顔を青くする。
「俺の金があれば、人生はイージーモードなんだろ?そんな奴を逃がしたら、散財できなくなるもんな」
ハッと乾いた笑いを浮かべれば、彼女は何も言えなくなって俯く。
「わかったら、さっさと出て行ってくれ」
俺の冷たい声が恐かったのか、彼女は抵抗することなく出て行った。
「はぁ。恋愛って難しいな」
1人になった部屋で、ソファに座り、俺は天井を見上げる。
「両親たちみたいなTrue Loveは、俺には探せないのかね」
仲睦まじい両親。2人の間には、愛以外の想いは見当たらない。
「俺もいつか探せるといいな。真実の愛を」
思ったよりすんなり別れられて良かった。と安堵しながら目を閉じたのだった。
もしも過去へと行けるなら
もしも過去へと行けるなら、やり直したい場面はいくつかある。
あのときああしてれば、しなければ。ってことが。
でも、それがあったからこその今日だから、後悔はあったとしても、良かったんだと思う。
後悔のない人生を送ることは難しいけれど、それがあったからこその今を大切にしたいと思う。
半袖
「ねえ、これどうかな?」
キミと一緒に来た買い物。本格的に暑くなる前に、夏物を買いに来た。
「いいんじゃないかな。キミに良く似合うよ」
「ホント。じゃあ、これにする」
キミはうれしそうに笑い、手にした半袖のシャツを胸に抱きしめている。
「………」
けど僕は少し不安だった。その服を着たキミは、さらにかわいくなるのは目に見えている。
「次はあっち見ようよ」
キミに手を引かれ、別の場面に移動しながら、早く気持ちを伝えなきゃ。と焦る僕だった。
Special day 飛べ 今を生きる です。
書けてないお題は早めに出せるようにします。
Special day
「ただいま」
今日は、キミと暮らすようになって、半年の記念日。ささやかだけどお祝いしたくて、小さなホールケーキを買って来た。
「おかえり」
エプロンを着けたままのキミは、いつものように、僕を笑顔で迎えてくれる。
「はい、これ」
持っていたケーキの箱をキミに差し出すと
「ありがとう。ケーキ買って来てくれたんだ」
キミはうれしそうに笑う。
「今日はSpecial dayだからね」
「Special day?」
「うん。一緒に暮らし始めて、今日で半年だから」
「…そっか、半年経つんだね」
感慨深そうにするキミに
「記念日とか、気にしないの?」
と、聞いてみると
「大好きなあなたと一緒にいられる。それだけで、私にとっては毎日がSpecial dayなの。だから、気にならなかった」
あはは。と笑うキミを見て、今年中にプロポーズしようと決めたのだった。
飛べ
一歩一歩、少しずつでも確実に…。
石橋を叩いて渡るように、ここまで歩いて来た。
辛い思いや、悲しい思いをしないように、そうっとそっと。
けど、僕は出会ってしまった。僕とは違い、傷ついたり、失敗することを恐れず、前へ前へと進む奴に。
「…恐くないの?」
そう聞いた僕に
「恐がって逃げてたら、楽しいことにも出会えないし、失敗したときの悔しさもわかんねえだろ」
彼はニッと笑って答える。
「お前もさ、そんなに下ばっか向いてねえで、ビビらずに飛べよ。見たことねえ景色が見えるから」
「でも…」
今までにしたことがないことをする。恐がる僕に
「仕方ねえなぁ。俺がついててやるよ」
彼は手を差し伸べる。
性格の違う彼と僕。
彼の手を取ったときから、僕たちは友だちになった。
「悪い、遅れた」
「いいよ。行こ」
今でも新しい景色を見せてくれる彼と、休日を一緒に過ごすのだった。
今を生きる
「来年は、良いこといっぱいの年になるといいな」
今年は良いことがなかったなあ。とボヤくキミ。
「そんなに、良いことなかったの?」
「なかったよ~。仕事でミスしたり、体調を崩すことが多かったり」
はぁ。とため息を吐き肩を落とす。
「そっかあ。でもさ、どんなに辛くても、イヤなことばっかでも、今を生きるしかないじゃん」
ポンと肩を叩くと
「そうだけどさぁ」
キミは不満そうな顔で僕を見つめる。
「僕で良ければ連絡してよ。気晴らしとか付き合うから」
「え、ホント?」
「うん。都合が合えばだけどね」
「ありがとう」
ガバっと抱きつかれ、思わず目を白黒させる。
キミに片思いしている僕の胸は、ドキドキとうるさく騒ぐのだった。
夏 二人だけの。 真昼の夢 揺れる木陰 です。
夏
「今年の夏も暑いんだって」
ギラギラと照りつける太陽を見上げ、キミはうんざりしたような顔をする。
「そうみたいだね。家から駅まで近いのに、その距離さえも、歩くのが億劫になるよ」
僕がふぅ。とため息を吐けば
「ホントにね」
キミは落胆したように、はぁ。と息を吐く。
「けどさ」
僕をちらりと見るキミは表情を一変させ
「夏にしかできないこともいっぱいあるし、楽しまなきゃ損でしょ」
ニッと笑う。
「…そうだね。海も行くし花火も見る。祭りも行くしグランピングも…暑さに負けてられないね」
「そうでしょ、そうでしょ」
キミはふふふと笑うと
「その日のために…」
僕の手を掴み
「買い物行くよ!」
駅まで引っ張ったのだった。
二人だけの。
「ホントに、出かけなくて良かったの?」
僕の家に来たキミに問いかけると
「うん」
キミはニコッと笑う。
今日は久しぶりのデート。
「どこかに出かけようか?」
と聞くと
「あなたの家に行きたい」
と言われ、今に至るわけなんだけど…。
キミが借りてきた映画を見て、買って来てくれたお菓子を食べ、のんびり過ごす。
キミもくつろいでいるようだから良かったけど、仕事で疲れてる僕を気遣って、家デートにしてくれたんだろうな。そう思うと、気を遣わせて申し訳なかったな。という思いも出てくる。
「僕を気遣って、家に来てくれたんだよね。ありがとう」
夕食を作るね。と、キッチンに向かったキミを背中から抱きしめると
「あなたのこと大好きだし大切だから、ゆっくりしてほしいな。と思ったのは確かだよ。けどね」
キミは僕の方に顔を向け
「どこかに出かけるのも楽しいけど、出かけなくても私はいいの。だって、私が大切にしたいのは、あなたと二人だけの。時間だから」
そう言って微笑む。
「僕と二人だけの?」
「そう。二人だけの」
キミは僕の左頬に手を添えると、右頬にキスをしたのだった。
真昼の夢
「お昼、一緒に食べない?」
僕に声をかけてきたのは、社内で人気が高いと言われている受付嬢。
「え?僕ですか?」
「そう、あなた」
声をかけられたのは僕じゃないだろう。と聞き返すも、僕だと言われてしまう。
何で僕なんだろうと思うけれど、もちろん、悪い気なんてしない。
他の社員の痛い視線を感じながら
「僕で良ければ喜んで」
と微笑んだところで
「何、ボケっとしてるんだ」
頭を小突かれる。
「え?え?」
わけが分からず、頭を押さえると
「何だ?真昼の夢でも見てたのか?」
僕を小突いた彼に呆れられる。
「もう少しで昼休憩だ。それまで頑張ろうぜ」
僕の肩をポンと叩き、彼は颯爽と去って行く。
「…受付嬢に声をかけられるのは、彼みたいな人なんだろうな」
去って行く彼の背中を見ながら、僕はため息を吐いたのだった。
揺れる木陰
「ここ、入ってみようか」
犬と散歩をしながら立ち寄った公園。
そこに大きな木があり、その下で休憩することにした。
「初めて寄ってみたけど、いいとこだな」
木陰は涼しいし、心地良い風も吹いている。
犬に目を向けると、何やら尻尾を振っていた。
「何してるの?」
犬をよく見てみると、揺れる木陰を見ているようだ。
「ああ、木陰が動くのが楽しいのかな」
犬の頭を撫でながら、のんびりと休憩するのだった。
心だけ、逃避行 風鈴の音 隠された真実 です。
すみません、夏は、後日書きます。
心だけ、逃避行
「あ~、終わらねえ」
デスクに積み上がっているファイルの山。少しずつではあるけれど、片付けているはずなのに、一向に山は低くならない。
「仕事がないよりマシでしょ」
なんて友だちは言うけど、仕事がない方がいい。と今の俺には簡単に言えてしまうほど、心身ともに疲れていた。
「…休憩しよ」
ファイルを1つ片付け休憩を取る。休憩のときだけは、心だけ、逃避行させ、自己を保つようにしていた。
「…はぁ、やるか」
休憩が終わると、俺はまた、逃げられない現実と向き合うのだった。
風鈴の音
風に吹かれて、響く風鈴の音。
チリンチリンという澄んだ音に、束の間だけでも、暑さを忘れられる。と、俺は思うのだけれど…。
「仕方ない…か」
風鈴の音がうるさい。と、隣の部屋の方から苦情を言われ、渋々、軒下から風鈴を外す。
「風流が理解されない、淋しい時代なのかなあ」
外した風鈴を見つめ、俺はため息を吐くのだった。
隠された真実
「今日こそは負けねえから」
ニヤリと笑い、俺に宣戦布告してくる俺のライバル。
「今日も俺が勝つ」
対抗するように俺もニヤリと笑ってみせるけれど、今日は勝てる気がしなかった。というのも、彼がケガをしている。という情報を聞いたから。彼が隠している、隠された真実を知り、どうするべきかを悩みながら、俺はスタートラインに立つのだった。