「これ、追加で今日中に頼む」
「はい、わかりました」
課長に書類を渡される。
「さて、どの順で処理しようかな」
渡された書類の内容を確認し
「よし、やるか」
俺は腕まくりをすると、パソコンに向かった。
「もう終わったのか?」
「はい、確認をお願いします」
頼まれた仕事を終え、確認してもらうため課長のデスクに行くと
「うん、良くできてる。仕事は早いし、ミスもほぼない。キミに頼んで良かったよ、ありがとう」
書類を確認した課長に褒められる。
「ありがとうございます」
「けど、キミばかりに頼んでしまって、すまないね」
申し訳なさそうに課長に言われ
「いえ、もっとお役に立てるように頑張ります。私で良ければいつでもお声がけください」
笑顔を向けると
「そうか、悪いな。これからもこの調子で頑張ってくれ」
「はい」
ホッとした顔を見せる課長に、俺は一礼して自分のデスクに戻った。
課長には、役に立てるように頑張る。と言ったが、俺が頑張るのは役に立ちたいからではない。1日でも早く昇進したいから。
「昇進できたら、すぐにでも…」
付き合っている彼女にプロポーズしたい。
俺はその想いを叶えるため、静かな情熱を燃やすのだった。
「ん?」
月を背に、バイクで海岸沿いを走っていると何やら聞こえる。
「何だ?」
邪魔にならないところにバイクを停め、ヘルメットを外すと
「私も……」
やはり、何か聞こえる。
「何を言ってるんだ?」
遠くの声に耳を澄ませると
「ありがとう。絶対に、キミを幸せにします」
かすかに、そんな声が聞こえる。
「ああ、もしかして、海でプロポーズかな」
そんなに大きな声で言わなくても。と思わなくもないが、大きな声で伝えたい想いがあるのはうらやましいな。とも思う。
「俺にもいつか…」
大切な人ができるといいな。と思うのだった。
「あー、出会いないかな」
公園のベンチに座り、キミは深いため息を吐く。
「別れたばっかなのに、よく次にいこうと思えるよな」
つられたように、俺も深いため息を吐く。
「だって春だよ?春なら新しい出会いがありそうじゃん。春恋したいな」
「…春恋ね」
彼とケンカして別れたから。と、憂さ晴らしに付き合えとキミに言われ、公園に来たわけだけれど。
「興味なさそうだけど、彼女いないんだよね。春恋したくならない?」
俺達は家が隣同士の幼なじみだから、俺達が話さなくても親情報である程度のことは把握している。だから、俺に彼女がいないことも知っているんだろう。
「俺は、別に」
「ふーん、そっか」
聞いたくせにどうでもいいのか、俺から視線をそらし、キミはジュースを飲んでいる。
「俺はずっと、キミのことが好きなんだ」
そう言えたら、俺達の関係は何か変わるのかな。
でも、憂さ晴らしに付き合わされるだけだとしても、キミと会えなくなるのは辛い。
俺の覚悟ができない限り、俺の春は遠そうだ。
風景 ひとひら 未来図 です
風景
「…少し、淋しいな」
私は今、彼と2人で新幹線に乗っている。
「ごめんね、こっちに来てもらって」
ぼそっと呟いた独り言が聞こえたのか、彼は申し訳なさそうに眉尻を下げる。
「いいのいいの、わかってたことだもの。それに…」
頭では、こうなることはわかっていた。でも、実際そうなると、淋しさが込み上げてくる。
「今日からは、愛するあなたとずっと一緒にいられるのよ、嬉しいに決まってる」
笑顔を向けると
「俺も嬉しいよ」
安心したように彼も笑った。
私の地元へ出向していた彼と付き合い、彼が戻るタイミングでプロポーズされた。結婚すれば、慣れ親しんだ地元を離れなければならないことがわかっていて、受けたのは私。
「わかっていても、やっぱりダメね」
生まれ育った風景を心に刻むように、流れる景色を見つめたのだった。
ひとひら
「あ、ちょっと止まって」
桜並木をキミと散歩中、キミに呼び止められる。
「え、何?」
足を止め、キミを振り返ると
「少しかがんで」
「?」
訳がわからないまま言う通りにすると、キミは俺の髪に触れ
「はい」
俺の手のひらに、ひとひらの花びらを載せる。
「桜の花びらか」
「うん、髪にのってたから」
ふふっと笑うキミに
「これ、押し花にできないかな?」
提案すると
「できるよ」
「じゃあ頼んでもいい?」
「うん」
桜からのプレゼント。キーホルダーにして、合鍵をつけてキミに渡そうと思うのだった。
未来図
「ねえ、来年の今頃、私たちどうなってるかな」
仲の良い同僚のキミと話していると、そんなことを言われる。
「どうだろう。どうなってると思う?」
「私は、主任になってるといいな」
口に手を当て、キミはふふふと笑う。
「キミならなれそうだよね」
「ありがとう。で、あなたは?」
「俺は…」
俺の理想とする未来図。昇進していれば嬉しいがそれよりも、キミと恋人になっているといいな。と思うのだった。
元気かな 夢へ! 君と僕 です
元気かな
「元気かな。…って、元気に決まってるよね」
スマホを握りしめ、僕は苦笑いする。
キミと離れてまだ2日。なのに、今すぐにでも会いたくて仕方ない。
「たった、1週間。そう、1週間なのに…」
上司とともに来た出張。1週間なんてあっと言う間だと思っていたのに…。
「せめて、キミの声が聞きたい。けど、聞いたらキミが恋しくて、帰りたくなってしまう…」
そうわかっているからこそ、我慢しなければ…。
僕はスマホを握りしめたままベッドに横になると、きつく目を閉じたのだった。
夢へ!
「ああ、まただ」
いつも見る夢を今日も見た。けれどその夢は、いつも同じ内容の繰り返しで、同じところで目が覚める。
「うーん、どうにか続き、見れないかな」
続きを見る方法、続きを…。
「何かないかな」
と考え、ふと思う。
「そっか。いつもは出かけなきゃならないから起きるけど、今日は休み。もう一度寝たら、続きが見れる…とか?」
いや、そんなわけ…でも…。
「うん、やってみなきゃわからないよな。いざ、夢へ!」
僕は布団をかぶると、目を閉じたのだった。
君と僕
君と僕。
第一印象は、お互いに良くなかった。
僕は君を、愛想のない人だと思い、君は僕を、軽い人だと思っていた。
そんなお互いの印象が変わったのは、仕事でのトラブル。君が発注した品と同じ物を、別の社員が別の会社に発注し、数が多くなった。それを捌くのに僕が一役買い、君は、別の会社に発注する。というミスをした社員のフォローをした。
「ごめんなさい。発注ミスは、発注済みを課で共有していなかったことで起こりました。私の伝達ミスです」
と、頭を下げる君に
「何とかなったんだし良しとしよう」
ニッと笑うと
「いえ、それでは私の気が済みません。何かお礼をさせてください」
責任を感じているのか、君は必死な顔をする。
「なら、食事に付き合ってもらえませんか?」
必死な君に応えるため、そんな提案をすると
「はい、良ければご馳走させてください」
君は肩の荷が下りたように、ホッとした表情をする。
「…そんな表情もするんですね」
「…はい?」
「いや、なんでも」
トラブルと食事がきっかけで、お互いの距離を縮めた君と僕。今では公私ともに、良いパートナーになっているのでした。