「どこに行こうか」
キミと待ち合わせをして、デートに行く。
そう決めて、迎えたデートの日。デートすることは決めたけど、行く場所は決めてなかったので、今、デート当日に決めている。
「…どこでもいいよ」
「じゃあ、映画を見に行こうか」
「うん」
ニコッと笑ってキミは言うけど、何か言いたげに見える。
「じゃあ行こうか」
キミと付き合ってまだ1ヶ月。遠慮しないで、言いたいことは言って。そう言いたいけれど、キミに嫌われたくなくて、僕もキミに言いたいことは言えてない。
「手、つないでいい?」
嫌がられたら…そんなことを考え、それすらも言えない。でも、僕はこのままキミと一緒にいたいから、このままはダメだと思っている。
「今日は映画に行くけど、次はキミの行きたいとこ行こうね」
僕とキミ。2人がお互いに、心と心を開けたら、ずっと一緒にいられるかもな。
そんなことを思いながら、まずは最初の一歩。キミの手を握ろうと
「ねえ…」
キミに話しかけたのだった。
「おはようございます」
いつもより早めに出社すると、受付業務の女性が掃除をしていた。
「おはようございます。今日は早いんですね」
掃除の手を止め俺を見る女性。笑ってはいるが、やはりムリをしているように見える。
「ええ。気になることがあって、早めに来ちゃいました」
「そうなんですね。お疲れさまです」
微笑む女性をよく見ると、かすかに目が腫れているようだった。
「あの…」
そのことを聞こうかと口を開きかけると
「おはよう…ございます」
他の社員が出社して来る。
「おはようございます」
「おはよう……ございます」
気まずそうにする2人。その理由を知っている俺は、出社して来た男性の顔を見た。
「ああ、では…」
俺がいるのが気になるのか、男性は自分の部署へ向かおうと歩き出そうとする。
「ちょっと待って」
慌てて呼び止めた俺の声に反応し、男性は足を止めると振り返った。
「あの、何か?」
怪訝な顔をする男性に構わず、俺は口を開いた。
「ごめんね。俺、昨日の君たちのケンカ、聞いちゃったんだ」
そう言うと、2人とも顔がこわばる。
「誰かに言うことはないから安心して」
昨日の話しから、2人が恋人なのは秘密らしい。そのことをまず伝えると
「なら、何ですか?」
男性が不機嫌そうに、俺に突っかかってくる。
「実は俺、あなたのこと、いいな。って思ってたんだよね」
女性の方を向きニッコリ笑うと、女性は驚いた顔をする。
「ケンカの勢いで別れる。なんて言っちゃったんだろうけど、もしかしてチャンスかな。って思って、早く来たんだよね」
ハハッと笑うと、2人は呆然とする。
「けど、2人を見てたら、俺の入る隙はないな。ってわかったし」
「え?」
「どうしてですか?」
2人に詰め寄られ
「だって2人とも、ちょっと目が腫れてるよ」
俺の指摘に、2人は顔を背ける。
「きっと2人とも、相手を想って泣いたり、寝られなかったりしたんでしょ。それだけ想い合ってるんだから、早く仲直りしなよ。ま、仲直りしようと思って早く来たんだろうけど」
俺はそれだけ言うと、2人に背を向ける。
「あーあ」
2人にはああ言ったけど本当は…
「失恋か」
悲しい気持ちに蓋をし、何でもないフリをして部署に向かうのだった。
「やったあ。完成だ」
秋に行われる文化祭。クラスで何をするかを話し合った結果、空き缶をつなげてキャンバスに見立て、大きな絵にする。ことに決まった。
「何の絵にしますか?」
「学校」
「担任の先生」
「何かのキャラ」
いろいろな意見が出る中
「学校と楓」
という意見が出る。
「楓?秋だから?」
楓という意見に疑問が浮かんだ誰かが声を上げると
「楓の花言葉は、大切な思い出。なの。みんなで作る絵は、大切な思い出になるかな。と思って」
意見を出した理由を教えてくれ
「それにしよう」
満場一致でそれに決まった。
空き缶を集めて白い紙を張りつなげる。そして、別の紙に書いた絵を元に色を塗り、絵は完成した。
「お疲れさま。大変だったけど、無事に完成して、先生も嬉しいよ。クラス全員が頑張って作り上げた作品。ステキな仲間を持てて、みんなも先生も幸せだね」
絵を完成させる。という目標を掲げ頑張った数日間。今まであまり話さなかったクラスメイトとも話せたことで仲良くなることもでき、絵に込めた思いのように、大切な思い出になったのでした。
「たまには2人で出かけようか」
よく晴れた休日。僕はキミを誘って、車で水族館へ出かけた。
「水族館なんて、いつ以来かしら」
水族館に入り、キミは少しはしゃいでいるように見える。
「子どもが小学生の頃に来たよね」
キミの楽しそうな様子に、連れてきて良かったな。と、僕も嬉しくなった。
「はぁ、かわいい」
一緒に動物を見て、次の水槽に行くとき、並んで歩いていたはずが、キミはどんどんと先に行ってしまう。
「待って」
咄嗟にキミの手を取ると、キミは足を止め、僕を振り返る。
「どうしたの?」
「楽しいのはいいんだけど、僕を置いていかないで」
苦笑すると
「ごめんなさい。次は何かなぁって、ワクワクしちゃって」
キミは照れ笑いする。
「このまま、手を繋いでてもいい?」
先ほど取った手をギュッと握ると
「こんな、カサカサな手だけどいいの?」
キミは不安そうな顔をする。
「そんなの、良いに決まってるでしょ。お互いに、手がしわしわになっても、手を繋いでようね」
そう言って微笑むと、キミも微笑んでくれる。
「じゃ、行こう」
「ええ」
水族館を出るまで、手を繋いで歩いたのだった。
部屋の片隅で と ありがとう、ごめんね です。
部屋の片隅で
部屋の片隅で、キミは僕に背を向け何かをしている。
「静かにしているし、まあいいか」
と、気にすることをやめ、本の続きを読んでいたが、視界の端に何か白い物が映る。
「ん?何か見えた?」
本から顔を上げ白い物が映った方を見て
「あっ、コラ。ダメでしょ」
慌てて取り上げてももう遅い。
「あーあ」
キミにプレゼントしたばかりのぬいぐるみ。ぬいぐるみは、しっぽを振るキミにボロボロにされてしまったのでした。
ありがとう、ごめんね
ありがとう、ごめんね。
この言葉が言えたなら、今もキミと一緒にいられたのかな。
ご飯を作ってくれたり、洗濯してくれたり、キミは家にいるんだから、やって当たり前。なんて思ってない。
キミが家のことをしてくれるから、俺が仕事を頑張れる。
キミが支えてくれてたから、俺は不自由なく過ごせてた。なのに、恥ずかしくて、ありがとうが言えなかった。
頼まれたことを忘れたり、キミに文句を言われて、俺が悪いのに、ごめんねも言えなかった。
今更後悔しても遅いのはわかってる。
けど、最後にキミに伝えたい。
一緒にいてくれてありがとう。泣かせてしまってごめんね。と。