「おはようございます」
いつもより早めに出社すると、受付業務の女性が掃除をしていた。
「おはようございます。今日は早いんですね」
掃除の手を止め俺を見る女性。笑ってはいるが、やはりムリをしているように見える。
「ええ。気になることがあって、早めに来ちゃいました」
「そうなんですね。お疲れさまです」
微笑む女性をよく見ると、かすかに目が腫れているようだった。
「あの…」
そのことを聞こうかと口を開きかけると
「おはよう…ございます」
他の社員が出社して来る。
「おはようございます」
「おはよう……ございます」
気まずそうにする2人。その理由を知っている俺は、出社して来た男性の顔を見た。
「ああ、では…」
俺がいるのが気になるのか、男性は自分の部署へ向かおうと歩き出そうとする。
「ちょっと待って」
慌てて呼び止めた俺の声に反応し、男性は足を止めると振り返った。
「あの、何か?」
怪訝な顔をする男性に構わず、俺は口を開いた。
「ごめんね。俺、昨日の君たちのケンカ、聞いちゃったんだ」
そう言うと、2人とも顔がこわばる。
「誰かに言うことはないから安心して」
昨日の話しから、2人が恋人なのは秘密らしい。そのことをまず伝えると
「なら、何ですか?」
男性が不機嫌そうに、俺に突っかかってくる。
「実は俺、あなたのこと、いいな。って思ってたんだよね」
女性の方を向きニッコリ笑うと、女性は驚いた顔をする。
「ケンカの勢いで別れる。なんて言っちゃったんだろうけど、もしかしてチャンスかな。って思って、早く来たんだよね」
ハハッと笑うと、2人は呆然とする。
「けど、2人を見てたら、俺の入る隙はないな。ってわかったし」
「え?」
「どうしてですか?」
2人に詰め寄られ
「だって2人とも、ちょっと目が腫れてるよ」
俺の指摘に、2人は顔を背ける。
「きっと2人とも、相手を想って泣いたり、寝られなかったりしたんでしょ。それだけ想い合ってるんだから、早く仲直りしなよ。ま、仲直りしようと思って早く来たんだろうけど」
俺はそれだけ言うと、2人に背を向ける。
「あーあ」
2人にはああ言ったけど本当は…
「失恋か」
悲しい気持ちに蓋をし、何でもないフリをして部署に向かうのだった。
12/12/2024, 7:57:26 AM