鉄棒で逆さまになり、景色を眺める。
「逆さまに見ると、こんな感じなんだなぁ」
地面は近いし、空がさらに高い。ほぼ見ることがない逆さまの景色を堪能していると
「何してるの?」
キミが現れる。
「ん?普段見ない景色を堪能してるの」
笑顔で答えると
「へえ、そうなんだ。私はどう見える?」
そう聞かれ
「背が高く感じる…かな」
返事をしたあと、鉄棒を下りた。
「楽しかった?」
「そうだね。普段見ないものを見るのは楽しいかな。それに」
「それに?」
「いつも見ている視点じゃなく、別の視点から見るのも大切。ってことがわかった」
「そうなんだ」
「うん」
よくわからなそうな顔をするキミと視線を合わせ
「僕とキミの身長は違うよね。なのに、キミが見る景色と僕が見る景色は違う。ってことを意識してなかった。これからは、キミの視点を意識して、高いもの…物を取るとか、電灯を交換するとか、僕がやるね。今までは、イスとか使えば出来るでしょ。って思ってたけど、イスに乗ったりするのも怖かったりしてたよね。キミにやらせてばかりでごめんね。やってくれてありがとう」
気持ちを伝えると、キミは僕の手を取り、笑うのだった。
明日はキミとの初デート。眠れないほど楽しみで仕方ない。行き先は遊園地。どんな服で来るのかな。待ち合わせで、キミを待たせないように早く家を出ないと…などなど、考えることがいっぱいで、ドキドキワクワクが止まらない。
「でも、ちゃんと寝ないと」
寝不足で、カッコ悪いとこは見せられない。そう思って目を閉じたけど、なかなか眠気はやって来ない。
「ん?カッコ悪いとこ?」
自分で思ったことなのに、そのワードが引っかかる。
「…カッコ悪いとこ見せて、初デートなのに、別れましょ。なんて言われたらどうしよう」
別のドキドキに襲われる。
「どうしよう、どうしよう」
まだ行ってもいないのに、ネガティブな感情に心を乱され、余計に眠れなくなったのでした。
「キミのことが好きです。僕と付き合ってください」
思い切ってした告白を
「ありがとう。嬉しい」
キミは笑顔で受け入れてくれる。
「夢みたいだ。ずっと好きだったキミと付き合えるなんて」
ニコニコと笑うキミの隣で感動に浸っていると、遠くの方から何やら音が聞こえる。
「ん?何の音だろう?」
徐々に大きくなる音。キミと一緒にいるのに、音が邪魔をしてくる。
「あー、もう、うるさい」
と、怒りを爆発させたところで
「…やっぱり夢か」
目が覚めた。
「たまに恐いのもあるけど、夢はいいよな」
教室の机に座り、友達と話しているキミをそっと見つめる。
「夢では告白をOKしてもらえたけど、現実は、用があるときにしか話したことがない、ただのクラスメイトだもんな」
はぁ。とため息を吐き、机に突っ伏す。
「夢と現実。その差は大きいなぁ」
もう一度キミをちらりと見て、また、ため息を吐くのだった。
「一緒に写真撮ろう」
コートを羽織らないと寒い中、高校の卒業式が終わり、友達と写真を撮っていた。
「あっという間だったね」
「そうだね。早かったね、3年間」
そんな話をしながら、校舎や風景を撮っていたら
「名残惜しいのはわかるけど、そろそろ帰りなさい」
担任の先生がやって来る。
「あ、先生。一緒に写真撮ってください」
とお願いすると
「いいよ」
快く承諾してくれる。
「ありがとうございます」
先生と写真を撮り
「じゃあ、そろそろ帰ろうか」
荷物を持ち、先生に
「先生、さよな…」
「ちょっと待って」
挨拶しようとしたら、止められる。
「どうかしましたか?」
「うん。君たちは卒業生だから、明日からはここに来ないでしょ」
「はい」
「いつもなら、さよなら。でいいんだけど、卒業生にさよなら。って言われると何だか淋しくてね」
「先生…」
「だから、さよならは言わないで、こう言って欲しいんだ。2人とも、またね」
「はい。先生、また会いましょう」
笑顔で先生に手を振り、学校を後にした。
温かい陽射しが降り注ぐ窓際で
僕は1人、戦っていた。
「ぽかぽかな陽射しに負けちゃダメだ。負けたら怒られるのは目に見えている。でも、でも…」
お昼ご飯を食べ、お腹が満たされている中、仕事に取り掛からなければならないのに。
降り注ぐ光と、目を閉じれば闇。という、光と闇の狭間で、僕は睡魔と戦うのだった。