1つ前の飛べない翼と、今回のスリルです。
よろしくお願いします。
飛べない翼
「ただいま」
玄関を開けると、電気は点いているのに、人の気配が感じられないほど物音がしなかった。
「あれ?」
いつもならテレビが点いているのに。と、不思議に思いながら部屋に上がると、膝を抱え俯いているキミがいた。
「どうしたの?何かあった?」
心配になり近寄ると
「…仕事でミスしちゃって。上司に怒られたの」
ゆっくり顔を上げ、理由を話してくれたキミの目は、赤く腫れていた。
「そう、上司に…」
慰めるように髪を撫でると
「でも、怒られても仕方ないの。私が悪かったわけだし」
また、俯いてしまう。
「そっか」
自信を無くし、傷ついているキミの翼。飛べない翼が、また大空で羽ばたけるように、僕はキミを優しく抱きしめたのだった。
スリル
「うわー」
思わず出た大声に
「なに、どうしたの?」
隣で寝ていたキミが目を覚ます。
「ヤバい。出る時間過ぎてる」
目覚まし時計を見せながらそう言うと
「え…」
目を見開き、キミは固まる。
「と、とにかく急ごう」
僕がベッドを下りると
「う、うん」
我に返り、キミも後に続いた。
「ごめんね、起きられなくて」
駅に2人で向かっている途中、キミに謝られる。
「何言ってんの。僕も起きられなかったし、お互い様でしょ」
キミに笑顔を向けると、笑顔で頷かれた。
「それにしても、お互いに朝は弱い。って言ったけど、2人して目覚ましで起きられないなんてね」
笑いながら肩を竦めるキミに
「キミと一緒なら、楽しい毎日が過ごせそう。って言ったけど、こんなスリルはいらないね」
明日から、目覚ましを増やすことを告げたのだった。
前回の脳裏と、今回のススキです。
脳裏
仕事で半年間、飛行機の距離の営業所に行くことになり、単身赴任することになった。
一人暮らしをしていたこともあるし、単身赴任なんて苦じゃない。と思っていたのに、慣れない職場環境、静まり返った暗い部屋。に耐えられず、赴任早々、家に帰りたくなった。
「淋しいなぁ」
脳裏に浮かぶのは、妻と子どもが笑顔を見せる温かい我が家。
「でも、淋しいのも大変なのも俺だけじゃない」
そう、自分を奮い立たせ、今日も仕事に励むのだった。
ススキ
仕事帰り、花屋の前で、ススキを買っている親子を見かけた。
「ああ、今日は十五夜か」
夜空を見上げると、丸い月が輝いている。
「ススキって、今じゃ売ってる物なんだな」
実家の方では、買わずとも、そこら辺に生えている。ススキが売られているとは思いもしなかった。
「ススキかぁ。猫のおもちゃだよな」
実家の猫が、揺れるススキにじゃれついているのを笑って見ていたのを思い出す。
「ススキを持って、実家に行って来るか」
愛猫がじゃれるのを想像し、近々実家に帰ろうと思うのだった。
「ごちそうさまでした」
食事を終え、お会計に行こうと腰を上げると
「俺が払うから」
一緒に食事していた同僚が財布片手に
「あ、ちょっと」
呼び止めるのも聞かず、さっさと行ってしまう。
一旦払ってもらって、外に出たら自分で食べた分の料金を支払おう。そう決めて、私は店を後にした。
「一緒に払ってくれて、ありがとう」
会計を済ませ、外に出てきた彼に、まずはお礼を伝える。
「どういたしまして」
笑顔を見せる彼に
「私の分ね」
お金を差し出すと
「いや、いいよ。最初から俺が出そうと思ってたし」
と言われ、受け取ってもらえない。
「どうして、最初から出そうと思ったの?」
お金を持ったまま、聞いてみると
「だって、ランチに行こう。って誘ったのは俺だし」
という答えが返ってくる。
「じゃあ、次は私が誘うから、お金出させてくれる?」
それなら、受け取ってもらえなくてもいいかな。と思ったけれど
「いや、そんな、奢ってもらうなんて」
と、断られる。
「なら、お金、受け取ってくれない?」
再度、お金を差し出すと
「いや、でも…」
と歯切れが悪い。
「ダメなの?」
彼の目をじっと見つめると
「ごめん、俺、キミにいいとこ見せたかったんだ」
目を逸らし、ポツリとつぶやく。
「え?」
「キミのこと気になってて、一緒にランチに行けたらいいな。って、声かけたらオッケーしてくれて。オッケーしてもらえて嬉しくて、いいとこ見せれば、もっと仲良くなれるかなって」
彼の言葉に驚きつつも
「そっか。話してくれてありがとう。私もあなたのこと、いいな。って思ってたから、誘われて嬉しかったよ。でもね、私にとっては、お金を出してくれることが、いいところ。にはならないから、意味がないことなの」
本音を伝えると
「そうなの?」
彼は不思議そうにする。
「ご馳走してもらえるのが嬉しい。って人もいるだろうけど、私はあなたと対等でいたい。こんな私でも良ければ、またランチに行ってくれませんか?」
そう聞くと
「うん、また一緒に行こう」
彼はお金を受け取り、微笑んでくれたのでした。
あなたとわたし。
一緒にいるから、楽しいこと、イライラしたこと
悲しいこと、美味しい笑顔が共有できる。
時にはケンカもしちゃうけど、意見が違っても当たり前。ごめんとありがとうが言える2人で、ずっといよう。
あなたとわたし。
これからもっと、幸せになろうね。
「あ〜、よく寝た」
仕事で残業漬けの日々を抜け、やっと迎えた休日。
余程疲れていたのか、目が覚め時計を見ると、10時を回っていた。
「あらら、もうこんな時間。急いで洗濯しなきゃ」
仕事の日は、遅い時間に帰るため、家事は後回しになっている。
「洗濯機を回して、掃除もしないと」
家事を始めないと。と思い、ベッドから降り、カーテンを開けると
「あっ…」
空はどんよりとした雲に覆われ、雨が降っていた。
「雨か。せっかくの休日なのに」
と、残念な気持ちになったけれど
「そっか。きっと神様が、今日はゆっくり休みなさい。って、私がのんびりできるように雨を降らせてくれたのかも」
気持ちを切り替え、柔らかい雨が降る窓の外を見つめながら、神様に感謝するのだった。