前回の脳裏と、今回のススキです。
脳裏
仕事で半年間、飛行機の距離の営業所に行くことになり、単身赴任することになった。
一人暮らしをしていたこともあるし、単身赴任なんて苦じゃない。と思っていたのに、慣れない職場環境、静まり返った暗い部屋。に耐えられず、赴任早々、家に帰りたくなった。
「淋しいなぁ」
脳裏に浮かぶのは、妻と子どもが笑顔を見せる温かい我が家。
「でも、淋しいのも大変なのも俺だけじゃない」
そう、自分を奮い立たせ、今日も仕事に励むのだった。
ススキ
仕事帰り、花屋の前で、ススキを買っている親子を見かけた。
「ああ、今日は十五夜か」
夜空を見上げると、丸い月が輝いている。
「ススキって、今じゃ売ってる物なんだな」
実家の方では、買わずとも、そこら辺に生えている。ススキが売られているとは思いもしなかった。
「ススキかぁ。猫のおもちゃだよな」
実家の猫が、揺れるススキにじゃれついているのを笑って見ていたのを思い出す。
「ススキを持って、実家に行って来るか」
愛猫がじゃれるのを想像し、近々実家に帰ろうと思うのだった。
「ごちそうさまでした」
食事を終え、お会計に行こうと腰を上げると
「俺が払うから」
一緒に食事していた同僚が財布片手に
「あ、ちょっと」
呼び止めるのも聞かず、さっさと行ってしまう。
一旦払ってもらって、外に出たら自分で食べた分の料金を支払おう。そう決めて、私は店を後にした。
「一緒に払ってくれて、ありがとう」
会計を済ませ、外に出てきた彼に、まずはお礼を伝える。
「どういたしまして」
笑顔を見せる彼に
「私の分ね」
お金を差し出すと
「いや、いいよ。最初から俺が出そうと思ってたし」
と言われ、受け取ってもらえない。
「どうして、最初から出そうと思ったの?」
お金を持ったまま、聞いてみると
「だって、ランチに行こう。って誘ったのは俺だし」
という答えが返ってくる。
「じゃあ、次は私が誘うから、お金出させてくれる?」
それなら、受け取ってもらえなくてもいいかな。と思ったけれど
「いや、そんな、奢ってもらうなんて」
と、断られる。
「なら、お金、受け取ってくれない?」
再度、お金を差し出すと
「いや、でも…」
と歯切れが悪い。
「ダメなの?」
彼の目をじっと見つめると
「ごめん、俺、キミにいいとこ見せたかったんだ」
目を逸らし、ポツリとつぶやく。
「え?」
「キミのこと気になってて、一緒にランチに行けたらいいな。って、声かけたらオッケーしてくれて。オッケーしてもらえて嬉しくて、いいとこ見せれば、もっと仲良くなれるかなって」
彼の言葉に驚きつつも
「そっか。話してくれてありがとう。私もあなたのこと、いいな。って思ってたから、誘われて嬉しかったよ。でもね、私にとっては、お金を出してくれることが、いいところ。にはならないから、意味がないことなの」
本音を伝えると
「そうなの?」
彼は不思議そうにする。
「ご馳走してもらえるのが嬉しい。って人もいるだろうけど、私はあなたと対等でいたい。こんな私でも良ければ、またランチに行ってくれませんか?」
そう聞くと
「うん、また一緒に行こう」
彼はお金を受け取り、微笑んでくれたのでした。
あなたとわたし。
一緒にいるから、楽しいこと、イライラしたこと
悲しいこと、美味しい笑顔が共有できる。
時にはケンカもしちゃうけど、意見が違っても当たり前。ごめんとありがとうが言える2人で、ずっといよう。
あなたとわたし。
これからもっと、幸せになろうね。
「あ〜、よく寝た」
仕事で残業漬けの日々を抜け、やっと迎えた休日。
余程疲れていたのか、目が覚め時計を見ると、10時を回っていた。
「あらら、もうこんな時間。急いで洗濯しなきゃ」
仕事の日は、遅い時間に帰るため、家事は後回しになっている。
「洗濯機を回して、掃除もしないと」
家事を始めないと。と思い、ベッドから降り、カーテンを開けると
「あっ…」
空はどんよりとした雲に覆われ、雨が降っていた。
「雨か。せっかくの休日なのに」
と、残念な気持ちになったけれど
「そっか。きっと神様が、今日はゆっくり休みなさい。って、私がのんびりできるように雨を降らせてくれたのかも」
気持ちを切り替え、柔らかい雨が降る窓の外を見つめながら、神様に感謝するのだった。
「ねえ。すごい汗かいてるけど大丈夫?怖い夢でも見た?」
「……」
気がつくと、心配そうな顔をしたキミがそばにいた。
「…大丈夫だよ」
少し乱れた息を整え、汗を拭う。
「いつの間にか寝ちゃってたんだな」
ソファで横になり、本を読んでいたはずが、寝てしまっていたらしい。読んでいた本は、床に落ちていた。
「苦しそうにしてたから、起きてくれて良かったよ」
胸に手を当て、安心したように笑うキミに
「ありがとう。この本を読んでいたせいかな。犯人に追いかけられる夢を見てね」
落ちていた本を見せ苦笑する。
「もう少しで犯人に捕まる。ってところで一筋の光が見えてね。その光に向かって逃げて行ったら、たどり着いたところにキミがいて、助けてくれた。助けてくれてありがとう」
キミの手を取り礼を言うと
「夢の中でも、助けられて良かったわ」
戸惑いながらも、キミは微笑んでくれたのでした。