カーテンの隙間から降り注ぐ日差しの眩しさに、目を開けると
「おはよ」
私を覗き込む、大好きな彼の顔が見えた。
「おはようございます。起きてたんですか?」
何度起こしても起きない、寝起きの悪い人なので、彼が私より早く起きているのが意外だった。
「たまたまね。けど、早く起きるのも悪くない」
そう言って、にこにこ笑うので
「どうしてですか?」
と聞いてみれば
「キミの寝顔が見れたから」
恥ずかしいことを言われる。
「恥ずかしいから見ないでください」
布団を引っ張り上げ、顔を隠すと
「いつも俺ばっかり見られてるんだし、たまにはいいでしょ」
布団を引っ剥がされる。
「ダメです。寝顔も寝起きの顔も恥ずかしいです」
慌てて両手で顔を隠すと、彼はそっと私の両手を掴み
「この先、ずっと一緒にいるんだから、慣れてよ。ね」
耳元で囁く。
「え?」
言われた言葉に驚き、力が緩んだ両手を顔から外され
「愛してるよ」
唇にキスが落とされる。
「ごめん、寝起きには少し刺激が強かったかな」
呆然とする私をクスクス笑う彼だけど、あまりにも私が微動だにしないので
「ごめん、大丈夫?」
私の両手を離し、心配そうな顔で、私の頬に触れる。私は待ってましたとばかりに彼に微笑み
「大丈夫だよ。私も愛してる」
彼の首に腕を回すと、彼の唇にキスしたのだった。
「あっついね〜」
手をパタパタと団扇代わりに振りながら、キミはうんざりしたように言う。
「そうだね。でも、これが現実なんだよ」
さっきまでは、涼しいオフィスで仕事をしていたから暑さは忘れていたけれど、今は夏。これが現実なわけで。
「夕方になってもこんなに暑いなんて。何か冷たい物でも…」
と並んで歩いていたキミが、ピタリと足を止めた。
「ん?どうかした?」
こんなところで立ち止まらないで、さっさと家に帰って涼みたい。そう思ったけれど、キミは貼られたポスターを見ているようで、動こうとしない。
「暑いし早く帰ろうよ」
抗議するようにキミの腕を叩くと
「ねえ、これ食べたい」
振り向いたキミはポスターを指差しにっこり笑う。
「え?何を?」
何のことかわからず、キミがいて見えなかったポスターを覗くと
「入道雲かき氷。あります」
そのポスターは、近くの喫茶店のもので、丼くらいの大きさの器に入った、かき氷が写っていた。
「二人で食べると、ちょうど良さそうな大きさじゃない?」
余程食べたいのか、目をキラキラさせ、キミは俺を誘ってくる。
「わかった。食べに行こ」
仕方ないか。とキミの誘いを承諾すると
「やったあ。じゃ、早く行こ」
キミは嬉しそうに笑い、俺の腕を引っ張るのだった。
初めて迎えた結婚記念日。
日頃の感謝も込めてお祝いに選んだ場所は、初デートで食事したレストラン。
「驚くかな」
仕事帰りに待ち合わせして、歩いて行くんだけど、行く場所はキミには秘密。
レストランに、キミの好きな赤バラとかすみ草の花束を預け、特別なケーキも用意してもらっている。
「早く来ないかな」
キミの喜ぶ顔が見たくて考えたプラン。絶対に喜んでくれると確信して、キミを待つ間ワクワクしてる。
「1年後も、その先も…」
同じ場所で記念日をお祝いしたい。キミの幸せと俺の幸せで出来る、笑顔の花をたくさん咲かせたい。俺に近づいて来るキミが見え、居ても立っても居られず、俺は愛するキミを迎えに歩き出したのだった。
子供の頃は、全くわからなかった。
そうだ。と言われても、そうなの?って思ってた。
けれど、同じ立場。親になって、子育てが大変だ。という意味がわかった。
子供は、ちょっと目を離すとどこかに行っちゃうし、危ないことを理解できてないから、危ないこともする。
親としては、子供優先だから自分の欲しい物は後回しだし、自分がゆっくりできる時間がなかなか取れない。
子供が大きくなっても心配は尽きないけど、それでも、生まれてきてくれたから、親の大変さが少しはわかり、感謝の気持ちが生まれたし、親にしてもらえたから、辛いときも頑張ろうと思える。
子供の頃はわからなかったけど、子供がいることで理解できたことがいろいろです。
育ててくれた親にも、大変さを教えてくれた子供にも感謝です。
「えっと、土曜日は用事があるから、日曜にね」
「わかった。何するか考えといてくれ」
「うん。じゃあまたね」
助手席のドアを開け車を降りると、バイバイ。とドアを閉め、彼女は家へ帰って行く。電気が点くのを確認するまで、車を停車させたまま待つのが、俺の習慣になっていた。
「あ、電気点いたな。そんじゃ帰るか」
ギアをドライブに入れ、パーキングブレーキを解除すると、車は静かに走り出す。俺にとって、この瞬間が、一番淋しく感じる時間だった。
「いつも笑顔でバイバイ。って言って彼女は帰るけど、俺みたいに淋しく感じたりしないのかな」
自分の家に着き、一服しながらそんなことを考える。彼女の存在は、いて当たり前になりつつあるから、離れるとき、俺は淋しいのかもしれない。
「本当なら今すぐ。それがムリならいつかは…」
彼女が同じ家にいるのが当然な、日常生活を送りたい。もう、バイバイって言葉は聞きたくないくらい、彼女のことを想っているから。
「どう思われているかわからないけど、勇気を出すしかないよな」
俺は、彼女との関係を一歩でも進めるため、伝えていない想いを、告げることを決めたのだった。