寿ん

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12/10/2024, 10:27:36 AM

仲間


(読み)ナカ-マ

電車で肩を預ける人のこと。   →類語…あなた
                →対語…知らない人



                  「わたし辞書」

12/6/2024, 8:45:55 AM

眠れないほど


重い布団を跳ね除けるかのように、彼は窓を開け放った。とたん、むせかえるほどの甘ったるい空気は逃げ出して、僕らは2人きりになった。

彼は振り返って、決まり悪そうに微笑んだ。
「それじゃ……そろそろ戻ろうか」
それがいい。こんな気持ち悪いところに、これ以上いたくない。
立ち上がって彼の方へ歩いた僕は、その手から窓の主導権を奪った。窓は木枠にしっかり収まって、がちょんと重軽い音で鳴いた。

「やだ」

きっと鏡を見ても、同じように面食らった顔が映っているだろう。僕らは目を丸くして見つめ合った。
永遠に続くかと思うほどの沈黙、と、涙。

彼は僕を突き飛ばして、窓を乱暴に開けると、真っ赤な瞳で僕を睨んだ。

その夜、眠れぬほど僕を悩ませたのは、あのねっとりとした甘い空間でも、軽蔑したような彼の目でもなく、また米価が上がったというニュースだった。

11/26/2024, 11:30:05 PM

微熱


うなされて目を覚ますと、リビングはまだ電気が点いていた。
テレビの音はなく、台所では洗い物の気配がした。時折、鼻歌もきこえた。
枕元を片手で探って携帯電話を手繰り寄せた。
『氷まくらちょうだい』
それだけ送って、また眠りに落ちた。

ほだされた心地がして目が覚めると、電車に揺られていた。隣にはあの人が、静かに本を読んでいた。
乗客はまばらで、車内アナウンスも聞こえなかった。
「あの、」
声を出すと、その人は人さし指を唇に当てた。わたしはまた目を閉じた。

熱に浮かされて目を開くと、いつもの天井があった。
リビングの明かりは消えて、ベッドサイドのテーブルには水のボトルが置いてあった。そういえば寝る前、冷蔵庫から出したんだっけ。
全部、夢。そう、夢だ。
水を飲もうと身体を起こすと、柔らかいものを手で踏んだ。アイス枕だった。

カーテンの向こうではすずめが鳴いている。
わたしの風邪も、もう微熱。

11/12/2024, 1:35:22 AM

飛べない翼


隣のクラスのつばさちゃんは、空を飛べないらしい。
四年生になって始まった「高飛び」の授業で、それが発覚したんだって。そういう人も一定数いるっていうのは知っていたけど、そんな身近にいたとは思わなかった。

みんな、つばさちゃんをいじめるようなことはしなかった。飛べなくたって、つばさちゃんはつばさちゃんで、ただあまり遠いところへ出かけるのは避けるようになったって。
でもその優しさが、つばさちゃんを苦しめた。

ある日の授業で、つばさちゃんは誰よりも高くジャンプした。三階の教室の窓からも見えるくらい、高く高く。そしてそのまま頭から落ちて、動かなくなった。

中学生になって、高校に通って、大学生になった今でも、つばさちゃんのように飛べない人に会ったことはない。ひた隠しに隠しているだけかもしれない。

わたしみたいに。

飛べないつばさちゃんにわたしができたことは、きっと、なにもない。

11/11/2024, 4:26:06 AM

ススキ


この時期になると、家の裏の土手にススキが起き上がる。秋風になびいて波のように揺れるのを見るのが好きだった。
あのススキの海を眺めながら心に決めた。オレは人を助ける仕事に就こうと。だから警察を目指した。
親友だった鈴木も一緒に、伊達メガネをかけて勉強した。白い布にマーカーで日の丸を描いて頭に巻いたら、鈴木はふんと鼻を鳴らした。
「それじゃあまるで浪人生じゃないか」
それでもオレに付き合ってくれるあいつは、やっぱりいい奴だった。

いい奴だったんだ。

今年もこの季節がやって来て、実家の裏の土手にはススキがそよめいてるんだろう。
思い出すのは、あいつと道を別れたあの日。
地元に帰るとススキを2本刈って、縁側からぼうっと月を見上げる。それから1本をへし折って庭へ投げ捨てる。

スズキ、お前を思いながら。

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