寿ん

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微熱


うなされて目を覚ますと、リビングはまだ電気が点いていた。
テレビの音はなく、台所では洗い物の気配がした。時折、鼻歌もきこえた。
枕元を片手で探って携帯電話を手繰り寄せた。
『氷まくらちょうだい』
それだけ送って、また眠りに落ちた。

ほだされた心地がして目が覚めると、電車に揺られていた。隣にはあの人が、静かに本を読んでいた。
乗客はまばらで、車内アナウンスも聞こえなかった。
「あの、」
声を出すと、その人は人さし指を唇に当てた。わたしはまた目を閉じた。

熱に浮かされて目を開くと、いつもの天井があった。
リビングの明かりは消えて、ベッドサイドのテーブルには水のボトルが置いてあった。そういえば寝る前、冷蔵庫から出したんだっけ。
全部、夢。そう、夢だ。
水を飲もうと身体を起こすと、柔らかいものを手で踏んだ。アイス枕だった。

カーテンの向こうではすずめが鳴いている。
わたしの風邪も、もう微熱。

11/26/2024, 11:30:05 PM